誰でも良いから
助けてよっ!!!
悪夢の
今日は私にとって最悪な日である。
別に寝坊して遅刻しそうなわけではない。
自転車通学なので、朝から痴漢に遭うなんて事も無い。
だけど、今日、二月十四日という日は、私にとって最悪な日でしかないのだ。
二月十四日といえば、恋する乙女の決戦の日。
それと同時に、男子によるチョコレート争奪戦の日でもある。
「はぁ……。」
家を出てから何度目か分からないため息を吐く。
学校に着きたくない一心から、普段以上にのろのろとペダルを漕ぐ。
山吹中学に入学するまでは、人事として済ましていたバレンタインデーだった。
だが、中一のバレンタインデーから全てが変わってしまった。
一体何を間違えてしまったのか……。
亜久津と千石という訳の分からないコンビの、チョコレート争奪戦のターゲットとなってしまったのが運の尽きだった。
「はぁ……。」
去年は家で仮病を使い休んでいたが、結局家まで押しかけてきた馬鹿が居た。
結論、例え学校に行かずにすんでも、平穏な一日は過ごせない。
ならば、あえて立ち向かってやろうじゃないの!
決意も新たに家を出たはずだったが、やはり気は重い。
徐々に近付いてくる校門を見つめながら願った。
―――今年こそは、平穏なバレンタインデーを迎えさせてください!!
そんな私の願いも虚しく、脅威はすぐそこまで迫っていた。
「ちゃ〜ん。」
「げっ!!千石!!!」
「チョコ頂戴!」
自転車を止めてカバンを手にした瞬間、目の前に千石清純が現れた。
その声を認識するや否や、反射的に走り出していた。
「待ってよ〜。」
「頼むから、他の子に強請って!!」
自転車置き場から真直ぐ武道館に向かって走る。
段持ちの意地を見せてやる、などと訳の分からない事を口走りながら全力で走った。
しかし食堂と新校舎の間を抜けた瞬間、角から出てきた人物にぶつかった。
謝ろうとして顔を上げるとそこに立っていたのは……。
「……っあ、亜久津……。」
「よぅ、。見事にぶつかってくれるじゃねぇか。」
「あ!!亜久津!ちゃんは渡さないぞ!!」
「あ?はてめぇのモンじゃねぇだろ?」
亜久津に捕まるのか、と一瞬身構えたものの、千石と亜久津が言い合いを始めた。
亜久津が登場したおかげで、武道館までの道はノーマーク。
―――これってラッキー??
心の中でそんな台詞を呟きながら、再び走り始めた。
千石と亜久津はそれに気付いたが、口論をしていた所為か反応が遅かった。
「チッ。」
「誰かさんのアンラッキーがうつったかな。」
彼らの言葉を背に受けながら、武道館の扉を開き駆け込む。
「!!」
「あー、結局追っかけられてんだ。」
朝練を行っている親友に声を掛けると、笑いで迎えられた。
胴着を投げてよこしてくれたのはありがたかったが、その笑いは必要ない。
「ってか、笑い事じゃないし!!」
「はいはい。早く着替えないと作戦が台無しだよ。」
「分かってるよ。」
制服を、半ば脱ぎかけながら更衣室に駆け込む。
後ろでは、迷惑コンビが到来した音がした。
「あ、ちゃん。今日も可愛いね。」
「それはどーも、千石君。」
「はどこだ?」
「さーて、どこでしょうね。」
適当に二人をあしらってくれるに感謝しつつ、最速で胴着に着替える。
「それはそうとお二人さん。」
「あ?」
「何?」
「ここにギャラリーを連れ込んでもらっちゃ困るんだけど、ねぇ?」
私が更衣室から出る直前に、が二人に話を振る。
彼らが振り返った先に居たのは、何と、テニス部の女性ファンの皆さんだった。
「キャーーー!!!千石君!!!」
「あ、亜久津先輩もいらっしゃるわ!!」
「こっち向いて!!」
作戦その1。
バレンタインデーの女の子を利用する。
バレンタインデーという日の女の子パワーをなめてはいけませんよ、とね。
女の子集団に囲まれた亜久津と千石は、身動きが取れないみたいだ。
さすがの亜久津も、本気で女の子を殴ることはできない、というのも計算済みだ。
「よっしゃ、後はに任せたよ!!」
「ま、授業はちゃんと受けてあげるから、は逃げ切りなさいよ〜。」
「まかしといて!!」
と、大量の女の子と、千石と亜久津。
彼らの賑やかな声を背に、私はテニスコートのほうへと走った。
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07.02.18