一年なんていう時間はいりません……

きっと答えは出ていたんだから……










未来  6.5










朝が来た。
鳥の声が外から聞こえる。

無言でベットから這い上がって、時計を見た。
今は朝の6時すぎ。
普段なら起きられるはずもない時間だった。
でも今日は、自然と目が覚めた。

家で起きているのは私一人だ。

妙に目が冴えてしまって二度寝する気も起きないので、部屋に残っている数少ない物を仕舞うことにした。

二・三日分の洋服
暇つぶし用の本やCD

部屋に残っていたのはそれくらいで、ここを離れてしまう事を痛感した。
たった一つの箱にそれらの物は全部入ってしまった。
やる事もなくなって、着替えて部屋を出ることにした。


「何もないなぁ……。」


居間を見ても台所を見ても、普段あるはずのものが何かしら欠けている。
私の心と同じ様に?
欠けているんだ……。





洗面台に行く。
鏡に映ったのは、目が僅かに腫れている顔。
冷たい水を浴びるように顔にかける。
腫れは引いてきたものの、紅くなっているのは隠せない。


「はぁ。」


近くにあったタオルを手繰(たぐ)り寄せて顔を拭く。


夜に泣いたのがいけなかったかな……。


心の中でぼやく。





昨日は寝るときになって、また涙が流れた。
本当に訳が分からないんだ。
理由もなく涙が溢れてくる。
ただ静かに……。


頭の中は桃の事ばかりだった。


桃の居ない一年間はどれだけ長いだろうか……。
桃はどんな気持ちで"好きだ"といったのだろうか。
どうして私は拒絶しなかったんだろう。



そして……。
私は桃の居ない一年間に耐えられるだろうか……。



それはきっと……。
想像もつかないくらい長い一年だろう。
退屈な時間ほど長く感じるように人は出来ているのだから……。





静かに部屋に戻る。
静かな朝が……明るい朝が、恨めしい。

この遣る瀬無い気持ちをどこに向ければいいのだろうか……。


「さよなら……。」


誰に言うでもなく呟く。
何に対してか、誰に対してか……。
そんな事は明確だった。





一年後という不確かな約束だけが、胸に引っかかった……。





4月になって高校に入った。

周りの人は優しいし、友達になってくれる人もいっぱい居た。

とても楽しかった。
確かに楽しいと感じていた。


それでも……。


それでも何か足りない気がする。
楽しいのに、笑えるのに、泣かないのに……。
何か大切なものが欠けたかの様に、物足りないのだ。


桃が居ないだけなのに……?
友達はいるのに……?


一人になるとふと思ってしまう。
何が足りてないのかを考えて、同じことに気付かされる。





桃がいない。



桃のいない
夏休みが来る。

それはただただ怠惰に時だけが過ぎる期間だった。
何をする訳でもなく、何をできる訳でもなく過ぎる。

稀(まれ)に思うことがある。

『逢いに行けばいいではないか』と。

それが出来ない理由はただ一つ。
私に勇気がないからだ。

あの日から。
まだ半年程しかたっていない。
一年が経つまでには残り半年以上ある。


それでも不安になるのだ。


人の心の移り変わりが。
自分の心の不安定さが。

見えないところにいるだけに、何が起きているかなんて把握(はあく)できない。
一日中ずっと離れている。
何も変わっていないなんて断言できないんだ。


「桃っ……。」


時折思い出したように声を上げる。
一人で部屋にいる時は何度となく叫ぶ。
繰り返し繰り返し……。





それで手に入るものなど何一つないというのに……。





「っえ?」
『そういうことだから。考えといてよ。』


夏休みの終わり。
突然の着信。

表示された名前は期待していたものとは全く違う。
ただのクラスメイトの名前。


「えっ、ちょっと!!」
 プツッ………ツ――ッ、ツ――ッ


要件だけ告げられた。


『4月から好きだった。二学期が始まる日に返事聞くから……。』


戸惑った。
困惑したことは認める。
でも……。
何かが違った……。


桃に言われたときとは何かが違う。


混乱しているのは同じ。
相手が返事を待ってくれているのも同じ。

なのに何故?
こんなにも違うように感じるのは……。





迷い続ける内に8月も終わってしまった。
私の中で出た答えは一つだった。


「ごめんね。」


結構仲の良い相手だっただけに言いにくかった。
それでも断わらなくちゃいけなかった。
何故なら……。


「好きなヤツがいんの?」


勘がいいところも同じか、と思う。
彼は桃にとても似ている。
見た目じゃなくて中身が……。


「いるよ。」


相手の目を見据えてハッキリと言う。

もう迷う事はなかった。
何が違ったのかが分かったから。
私が違うと感じたのは……。


「君と似てるけど違うんだ。」
「何が?」


不思議そうに見つめ返してくる。
全く違う顔。
それだけじゃない。


「私が好きになったのはアイツだから。性格がどんなに似てても君じゃない。」


上手く通じない想い。
もどかしいけど言葉には出来ない想い。
私だけのモノ……。


「だから、ごめんね。」





今なら分かるよ。
今すぐにも伝えたい。


でも……。


半年は我慢する。
君はそれ以上に待ち続けているんだから……。
だから、もう少しだけ待っててくれるだろうか?





約束の日まで……。










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あとがき+++

実質的にはこれは6.5話って感じです。(ここに結局6.5としてupした私がいる……)
あってもなくてもOKな感じで……。
書きたいところを書こうとすると、どんどん話が長くなっていく気がする……。
ヤッバイっすよねぇ……。

何とはなしに支離滅裂になりつつあります(汗)
もっとまとまりがある話を書けるように修行しよう……。

次こそ完結!
桃城君はどうするのでしょうか!!

by碧種


04.01.17