今日で残り五日。

そう、たったの五日しか猶予(ゆうよ)がないのだ










未来   2










卒業式当日。
誰一人として泣かなかった。
来年になっても、どうせ同じ学校なのだから……。


「よう!時化(しけ)た面してんなぁ。」
「そういう桃は、元気ありすぎ……。」


校門前で桃に捉(つか)まる。
右手には卒業証書の入ったファイル。
左胸には似合わないピンクの花。

そりゃ時化(しけ)た面にもなりますよ。
私一人だけがさようなら。
時にも人にも置き去りにされた私。

どうしろというの?

明るく振舞う君には付いていけないんだよ……。


「周りの空気に、なんとなくでも合わせようとは思わないの?」
「思わねぇな、思わねぇよ。」


流石だとしか言えない。
皆多少は元気がないというのに、桃はいつも通りだ。
今は、それが私の心を和らげてくれる。

「そういうガラじゃない、とか?」
「まあ、そんなとこだな。」


ニカッと笑ってこっちを見る。

確かに、落ち込んでる桃を見るのは気色悪い。
去年の夏に一度だけ見たこいつの表情は、できることなら二度と見たくない。

私は乾き笑いを返すだけ。


「そうそう。三日後だよな?」
「そうだよ。」


右手で左胸の花をいじる。
視線は自然と斜め下にいってしまう。
ふと視界に入った制服のボタンは、ほとんど残っていない。
人気があるのは知っている。
鈍い金のボタンが有ったはずの黒い空白。
前が留められないから、隙間から白いワイシャツが見える。

黒と白とピンク。

卒業生全員に配られた作り物の花。
その鮮やかなピンク色を恨めしくさえ思ってしまう。


「忘れないでよ?」
「わぁってるよ!」


確認だけしっかりとする。
桃は私と一緒に校門を出ようとした。


「あれ?自転車は?」
「あー。今日は乗ってきてねぇ。」


言う瞬間、桃は一瞬だけ視線を泳がせた。
僅(わず)かな違和感は感じたけど、今はそんな事を気にしてる余裕はない。

並んで校門を出る。
他愛(たあい)のない会話をしながら、ゆっくりと歩く。

残り少ない時間を噛み締める様に……。
今目の前に居る相手の姿を目に焼き付ける様に……。


「また三日後、ね。」
「分かってるよ。」


明るい笑顔で別れる。

残り少ない時間を少しでも笑顔で過ごせるように、と。

桃のうしろ姿が見えなくなるまで、その場に止まる。
顔に張り付いた笑顔は崩れることはなかった……。





「ただいま〜。」
「お帰り。」


家に帰ると、部屋のあちこちにダンボールが転がっていた。
夏物の服や普段は使わないような物は、既に箱の中に詰められている。
どれも、まだ封はされていない。


の荷物は触ってないから自分でやってよー。」
「大丈夫。今からやるよ。」


二階の自分の部屋に向かう。
部屋の扉を開けると、空のダンボールがいくつも放ってあった。
夏物の服とコートやマフラーなどは親のものと一緒に箱に詰めた。
部屋に残ってるのは、本とCDとその他日用品。
あと五日間で必要なものは、その中のごく一部だけ。

それ以外は全て箱に詰めてしまおう。
そして、蓋をしてしまおう。

しばらくは聞かないであろうCD。
読む暇はないであろう本。
全部全部、箱に詰めた。

同時に何か、別の物まで箱の中に詰めてしまった気がした……。


「これは……。」


机の上の物をしまっていて、小学校の頃のアルバムを見つけた。
卒業アルバムと個人的に取った写真。
どのページを見ても、屈託のない笑顔を浮かべている私と桃がいる。

こんなにも一緒に居たのか……。
どうしてこんなに笑っているんだろうか……。

これからの事を考える。

新しい土地、新しい環境……。
そして、知らない人達……。

それに私は耐えられるのだろうか?

疑問は不安に変わる。
一人の部屋に座り込んで、ただ昔の写真を眺め続けることしか出来なかった……。










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あとがき+++

2話目です。
何か、反省はしてるんですけど……。

言葉に出来ない!!(何が?!)

とにかく、終わらせてみないことには……。
なんとも言えません。
そういえば、一話のときはすぐに終わる予定だったような……(汗)

これ、悲恋じゃないですよ?
何か悲恋になりそうとか思ってるそこの貴女!!
悲恋だったら[Deep]行きですよ〜。(この忠告二回目でしたっけ?)

by碧種


03.12.18