謎かけの時間
アナタは答えをみつけますか?
初恋 6
暗くなってきた道を二人で歩く。
肩を並べて歩くのは、たしかこれが二回目だ。
部活を終えたばかりの手塚君は、今までと変わらず涼しい顔をしていた。
校門で出会った彼らも、スポーツをしていたとは思えないくらい元気だったけど、彼らとは比べ物にならないくらい涼しい顔だ。
斜め上に見える前だけを見つめる横顔を見ながら、私は手塚君に話しかけた。
「テニス部って、いろんな子がいるんだね。」
「そうですね。」
「でも、手塚君が一番大人っぽいよね。」
「そうですか?」
「うん。とても年下には見えないや。」
手塚君は、少し不思議そうに私を見下ろして、また前を見て歩き始めた。
そのまっすぐな横顔を見ながら、次の話題に考えをめぐらせる。
少しの沈黙が流れて、珍しく手塚君のほうから口を開いた。
「本はどうでしたか?」
こちらの様子を伺うように私の顔を見て、手塚君は静かに問いかけてきた。
その質問への答えは、もう決まっていた。
「意外だった。手塚君がラブロマンスを薦めてくるなんて、予想外も予想外だよ。」
「そうですか?そういった本の方が、久しぶりに読むのであれば最適かと思ったのですが……。」
「もちろんとっても読みやすかったし、すごく感動したよ!」
私のことを考えての選書に感謝しつつ、心の中ではやっぱり意外だなぁ、と思った。
そんなことばかり言っても仕方がないと思い、身振り手振りを交えて本の感想を手塚君に伝えた。
感想を語る私の隣には、どこか優しい表情で相槌を打つ手塚君がいる。
些細なことなのかもしれないけれど、とても特別な時間が流れているような気がした。
一通りの感想を伝えた私は、鞄の中から借りた本を取り出して手塚君に手渡した。
「本当にありがとう。」
「いえ。」
手塚君は渡した本を鞄の中に入れると、代わりに他の本を取り出した。
「次の本です。」
「あ、用意しててくれたんだ。」
感謝の言葉を述べてから、その新しい本を受け取る。
新たに借りた本の装丁は、どこか見覚えのあるデザインのように思えたが、どこで見たのかを忘れてしまった。
その疑問を振り払うように、私は手塚君に微笑みかけた。
「また、読んだら連絡するね。」
「分かりました。」
私の言葉に答えた手塚君は、またどこか優しい表情を浮かべた気がした。
その後、私の家まで続く道を二人並んで歩いた。
とりとめも無い会話をしながらの帰り道は、とても穏やかに過ぎてゆく。
そして彼は、念を押すようにその言葉を言った。
「先輩。」
「ん?」
「俺のこと思い出してくれるまでという約束、忘れないでください。」
そんな約束も忘れかけていた私は、ドキリとした。
「!こっち。」
「ごめん!遅れた…。」
週末の埋め合わせと称して、平日の夕方にとお茶をすることになった。
相変わらずの遅刻癖はいつも通りの事。
遅刻とは言っても、遅くとも5分以内に来るのだから可愛らしいと言えるんだろう。
の姿を見つけると、それまで読んでいた手塚君から借りた本を片付けた。
喫茶店は平日にしては込み合っていて、多くが私たちと同じ様に制服に身を包んでいた。
まぁ、圧倒的にカップルが多いことは気にしないでおこう。
到着と同時にドリンクを注文した私たちは、なんでもない会話をし始めた。
その話題はあちこちに飛び、そして手塚君にまで及んだ。
「で、その後どうなの?」
「何が?」
「年下の王子様。」
にや付いた表情で聞いてくるは、本当に意地悪だと思う。
私が悩んでいることを知っていて、しかも自分は何かを掴んでいるのに知らないふりをする。
と、言うより楽しんでいる。
「手塚君のこと?」
「あら、今日のちゃんは冷静ですなぁ。」
「それはどうも。」
「それで、それで?」
嬉々として訊ねてくるに、私は質問で返す。
「……。あんた本当は何か知ってるんでしょ?」
「んー。そこはノーコメでよろしく。」
「少しくらい情報開示してもいいんじゃないの??」
私の質問に対して、何か思うところがあるらしく、は唸っている。
前回とは打って変わって情報を出してこないに、思わず言ってしまった。
「私が思い出すまで、って何だろ……。」
「あいつそんな事言ったの?」
「あいつ??」
「っ!!……えっと、手塚君。」
必死に取り繕うだが、かなり挙動不審だった。
この前とは立場が逆転しているので、私は更に情報を引き出そうとした。
「と手塚君の接点については、この際どうでもいいわ。」
「へ?」
「私と手塚君。何処で会ったんだろう?確かに私も青学の生徒だったけど、まったく記憶に無いんだよね。あんなテニスが上手で大人っぽい子。」
素っ頓狂な声を上げたっきり黙り込む。
それを尻目に私は話し続ける。
「私が中三の時、手塚君は中一でしょ?会ったとしたらその二年前なんだから、あんな綺麗な顔の子に会ったら忘れないと思うんだよねぇ。二年前って、私そんな有名人なはずないし、二年も離れた子が私を知ってるのって不自然な気がするのよね。でも接点があったとしたらそれくらいだろうし……。」
「二年前ってとこまでは予測できたってこと?」
「あくまで推測の範囲で、だけどね。」
ようやく反応を返したは、少しだけ情報をくれた。
「は絶対会ってるんだよ。二年前に打ち込んでたことがヒントかな。」
「打ち込んでたこと?」
「そ。」
意味深なヒントを出したは、それ以上は語らなかった。
いくら追求しても埒が明かないことが分かったので、私はヒントがもらえただけで満足することにした。
とのお茶会を解散して、寝る前に借りた本の続きを読み始めた。
今度はシリーズ物の推理小説らしく、登場人物を簡単にまとめた英語のメモが挟まれていた。
たぶんこのメモは手塚君の心遣いなんだろう。
英語でネタばれにならない程度に纏め上げられた人物紹介は、キャラクターを的確に表現していた。
本来ならばシリーズ物は、はじめから読まないとなかなか楽しめないのだけれど……。
「楽しめちゃってるのよね、これが。」
手塚君が用意してくれたメモのお蔭かな、と考えて微笑む。
表情の乏しい彼からは想像の出来ない気遣いに、嬉しくなってしまった。
「さて、と。」
本の三分の一を読み終えたところで、だいぶ遅い時間になってしまったことに気が付いた。
ベッドの中で読んでいたので、本は栞を挟んで枕元に置いた。
電気を消すと、流石に眠気が襲ってきて瞼が落ちる。
眠りに落ちる瞬間。
手塚君の言葉が思い出された。
『俺のこと思い出してくれるまで……』
どうしてそんな約束をしたのか、私には分からない。
どこで彼に出会い、彼は私の何を知ったというのだろうか?
彼のことがとても気になり知りたいと思う反面、なぜか私は……。
思い出したくないと思った
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あとがき+++
ホント、なかなか進展しない二人ですね(笑)
じわじわと終わりには近づいていますが、後何ページかかるかは分かりません(汗)
何せ、ちょっとずつしか近づこうとしない2人なので、碧種にもコントロール不可です……。
前回あとがきでキーボードご臨終か?という話をしましたが。
結局ご臨終でした……。
なので、新しいパソコン本格始動です。
自作さんなので、不安な部分も無くはないし、キーボードけちって安いの買ったし、四年前から使ってるマウスは怪しいし……。
問題が山積したまま放置です(笑)
by碧種
10.04.14