たったそれだけのことに
こうも緊張する










初恋  4










手塚君に借りたnoteという題の本は、思っていたよりもあっさりと読めた。





そう……。
あっさりと読めたんだけど……。





「まさかって感じ?」


読み終わった感想はこの一言に尽きる。

わりと有りがちな内容だった。
だけど小道具の使い方も巧みで、描写も細かく楽しく読めた。
山あり谷ありではあったけど、どんでん返しなどはなく、すんなりと完結した。

"まさか"というのはそのジャンル。


「恋愛小説って……。」


最初の印象というのは恐ろしいものだと、今一番実感しているのかもしれない。

一冊目がよりによって恋愛小説。

生徒会長兼テニス部部長で、容姿は社会人としか思えないあの手塚君が。
ついでに無表情とまでは言わないが仏頂面のあの手塚君が。
何も言わずにすっと差し出したのが、恋愛小説。


「次の本も恋愛小説だったら、ちょっとヤだな。」


一人で苦笑しながら携帯電話に手を伸ばす。
本と一緒に貰った携帯の番号とアドレスを呼び出した。
いつも友達と連絡を取る癖で電話をかけようとしたけど、時間を見て思いとどまる。


今日は土曜日だけど、きっと部活で忙しいよね。


青学のテニス部が精力的に活動している事は知っているから、なんとなく今までに無い気遣いをした。

ただ、その気遣いが正しいかどうかは分からないけど。
だけど一歩引いてみたくなるのは、自分が手塚君より先輩だと思いたいからだろうか?

メールの中身は用件だけ。
小説読み終わったよって事と次はいつ会えるかなって事。
それから最後に一言、部活頑張ってね。


「よし。これで平気……だよね。」


独り呟いてメールを送信する。
当分返事はないだろうと思って、無造作に携帯を机の上においた。
それから数分も経たないうちに着信音が鳴る。
どうせ別の人からのメールだろうと思って画面を見ると、そこに表示されたのは"手塚国光"の四文字だった。


「あれ?早いなぁ。」


返事は簡潔だった。
明日、部活終わりに会えないかという事だけ。

そのメールに私は嬉々として返信した。

偶然にも明日は一日オフで、誰とも約束してなかった。
本当はと映画でも見に行こうかと思ってたけど、彼氏君に先を越されたのだ。

寂しくなりそうな日曜日に、願ってもない申し出。
これを断るはずもなく、OKのメールを返した。


「テニス部の練習がいつ終わるか知らないけど、午前中はゆっくり出来そうかな。」


明日やるべきことを頭に思い浮かべつつ、返信を待つ。
待っている間、ずっと携帯は持ったままだった。





何回かメールのやり取りをして、ちゃんとした約束を交わすことが出来た。
約束した時間が予想以上に遅いことで、少し不安になった。
だけど、送っていきますの一言で不安は解消された。


私の方が先輩だ、とか。
年下の子に守ってもらってどうする、とか。

気になる事は沢山あったはずなのに、いつの間にかどうでもよくなってた。

なぜ手塚君は私の事を知ってるのか、とか。
どこで彼と出会ったのか、とか。

考えなくちゃいけないこともあったはずなのに、いつの間にか忘れてた。





夜になって、ベッドの上でnoteを読み返す。
何度読んでも印象的なのは、たった一つの主人公の台詞。


"Can you love me ?"
(貴方は私を愛すること、出来るの?)


彼女が叫んだ問いは切実なものだった。
身分の違いが、立場の重みが、彼らの仲を裂こうとしていた時の問い。
相手の気持ちを確かめようとする必死な気持ちが、私の中に流れ込んできた。

こんな恋を、私はしたことがあっただろうか?

思わず自分自身に問いかけてしまう。
それから、手塚君に思いを廻らせた。

同じ本を読んだ手塚君は、そんなことを考えたのだろうか。


「なんてね。」


独り言ちて、思わずクスリと笑った。
明日のことを考えながら本を閉じ、目を瞑る。










ドキドキ
ワクワク


それ以外にこの時間を表す言葉はない


それくらい
楽しみにしていたのだ










next





あとがき+++

久しぶりに書く国光氏です。

といっても本人は出てきていないも同然ですが(笑)

そもそも夢を書く作業自体久しぶりで、感覚を取り戻すのに一苦労。
自分の好きなサイト様を見て回ったり、自分の書いた夢を見直したり、大学の講義中にネタを書き留めたり……。
こんなに苦労しながら書いてたんですね、私(笑)

この連載は書き始めてからどれくらい経っているのか……。
確認するのも怖いくらい経ってます(笑)
いい加減ちゃんと終わらせたいです(苦笑)


by碧種


07.07.09