どうすれば良いか
解れば苦労はしないのだろう
初恋 3
いらっしゃい、と笑顔で迎え入れられた。
と思ったら、買い物行ってくるわね、と遽(あわただ)しく出て行ってしまった。
そんな、手塚君とは似ても似つかない女性が手塚君の母親らしい。
「遽しくてすみません。気にせずに上がって下さい。」
「あ、うん。」
と言う訳で、唐突に二人きりにされてしまった。
やや気まずい空気のまま部屋に案内される。
辿り着いた部屋は、サッパリと片付いていた。
男の子の部屋とは思えないほどきれいだった。
置いてある物には統一感があり、尚且つ整頓されていた。
「なんか、中学生の男の子の部屋には見えないね。」
一般的な男の子の部屋は、なんかしら積み重ねられているものだ。
いや、男の子に限った事ではないか。
自分の部屋の惨状を思い出して苦笑する。
私が中に数歩入ると、逆に手塚君は部屋の外に出た。
「飲み物、入れてきます。」
「あ、お構いなく。」
遠慮する私の言葉を軽く流して、足音が遠ざかっていった。
その足音に拒絶の色が有るような気がして、その上どこに座っていいのかもわからず戸惑う。
どこに座れとも何とも言われなかっただけ。
ただ、それだけ。
「何を……動揺しているの?」
私と手塚君しか居ないこの家は、静寂に包まれていた。
身に染みるような静寂は私の心の動揺を増長させ、笑えないくらいだ。
座る事もできずに立ち尽くす。
落ち着こうとして見回しても、すっきり片付きすぎた生活観にどこか欠ける部屋は落ち着かない。
それに加え二人きりだという気まずさを再確認する。
「はぁ……。」
僅かに下を向いてため息を吐く。
少し落ち着いた所為か、不意に視線を戻すと面白いものを発見した。
この片付き生活感の薄い部屋の中で唯一異色を放つもの。
色取り取りのルアーだ。
興味を持って近付いてみる。
昨日凪が言っていた手塚君基礎情報に趣味は釣りだとあったのを思い出し、ルアーをじっと見る。
「ルアーがそんなに面白いですか?」
「っ!!!」
「手に取っても良いですよ。」
突然話しかけられて驚いた。
それから何もなかった風に振舞う手塚君に別の意味で驚いた。
ルアーを手に取る事を丁重に断わり、手塚君から飲み物を渡された。
どこにも座らないで突っ立っていると、ようやく座って下さいと言われる。
その言葉に従って小さなテーブルの側に座った。
「釣りが好きなの?」
「はい。」
私の質問に答えながら彼は自分のカップをテーブルの上に置いて鞄の方に向かう。
話を続けようとして、不意にカップの中身が見えた。
あれ?
次の言葉を発しようとしていたけれど何も言えなかった。
たった一つの違いが目に付き、何を言おうとしていたかが思い出せなくなった。
思い出せなくなったついでに、そのたった一つの違いが偶然であることを確認する。
「ねぇ、手塚君。」
「なんでしょうか?」
「私言ったっけ?」
「何を、ですか?」
「コーヒーはカフェオレ以外ダメだって。」
なんとなくです、と。
私の予想では彼はそう答えるはずだった。
しかし手塚君は振り返って私を見たまま何も答えずに止まった。
予想外の沈黙に対応しかねる私。
しかも手塚君からの視線を受け続けている。
じっと私を見据えたまま、答えあぐねているのか、答えがないのか。
緊迫した空気から長く感じられた沈黙を破ったのは手塚君だった。
「なんとなく、です。」
表情を揺らす事もなく、しかしながら長い沈黙を経て与えられた言葉は予想通り。
けれど見逃す事の出来ない不自然さがあった。
答えるまでの間といい、微妙に区切られた言葉といい不自然としか言えない。
だからといって付き合いが長い訳でもない私には何も言えないし、分からない。
「そっか。なんとなく、ね。」
「はい。」
私の言葉を聞いても、手塚君は表情一つ変えずに答えた。
そしてまた鞄に向かって、中身を探り始める。
おそらく貸してくれる本を探しているんだろう。
その動きにすら一分の隙も見えない。
広い背中に落ち着いた動き。
どんなにその姿を眺めても、やっぱり年下には見えないのは悲しい事だ。
年下どころか年上にしか見えないのは私が子供っぽい所為か……。
その背中を見詰めていると、手塚君が本を片手に振り返る。
咄嗟に視線を外す事も出来ず、私の正面に座るまでじっと見つめてしまった。
「これです。」
「note?」
「読んだ事、ありましたか?」
本を受け取って直ぐにパラパラとページを捲(めく)る。
手塚君は私の様子を心配とも不安ともつかない顔をして見ている。
「全然読んだ事ないよ。」
「それは良かったです。」
本から顔を上げると、本日二度目の分かりにくい微笑。
その顔を見るとほっとするような照れるような不思議な感じがして、思わず微笑む。
どうしてだろう
その表情が
ぎこちなくも自然に映ったのは……
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あとがき+++
中途半端ですね……。(そのうえ変換ゼロ)
まだもうしばらく続きます(苦笑)
頑張れ手塚部長(笑)
by碧種
06.03.20