アナタが
初恋の人だと
初恋 2
ただいまの時刻午後3時。
現在地某所本屋前。
太陽は燦々(さんさん)と青くなり始めた木々に降り注いでいる。
「私……なにこんな早く来てるの?」
手塚君との待ち合わせは、確か午後4時。
それにもかかわらず私が着いたのはこの時間。
何かを期待しているんだろうか?
頭を掻いてちょっと本屋の前でしゃがむ。
一回溜め息を付いてから立ち上がって本屋の中に入る。
時間を潰す為に、向かうは参考書の沢山並ぶ本棚。
そろそろ数学の解説集が欲しくなってきた。
流石の私も今通っている学校の進度ではちょっと厳しい。
ゆっくりと歩いて向かうと、そこにはどこかで見たことのある後姿があった。
「あ……。」
彼は手に持った分厚い参考書に真剣な眼差しを送っている。
どこからどう見ても、大学生か若く見ても高校三年という感じだ。
しかし手にしているのは、見た目に不釣合いな中学生向けの参考書。
そのギャップがまた面白いんだけど……。
「早いね、手塚君。」
静かに近づいて、出来るだけ小さい声で話しかける。
一瞬肩を揺らして、すぐに私のほうに振り返った。
「先輩。」
「ビックリしたよ。まだ一時間はあるのに。」
「少し本を見ようと思ったので……。」
「あ、私も。」
にこりと笑って手塚君の答えに便乗する。
本当は理由も無く足が早々と本屋に向かってしまっていただけ。
時間があれば参考書を見ても良いかな、ぐらいには思っていたけど。
はっきりとそれを目的に早めに家を出た訳ではない。
まるっきり嘘ではないけど、完全に真実というわけでもない。
「こういうの"気が合う"って言うのかな?」
「そうかもしれませんね。」
冗談半分、誤魔化し半分で問いかけた言葉は意外な結果をもたらした。
気のせいかと思うほどの微笑。
眼差しがとても柔らかくなって、口の端が僅(わず)かに上がった。
たったそれだけの変化でこうも印象が変わるものかと思うほどだった。
「どうかしましたか?」
食い入るように手塚君の顔を見ていると、不思議そうに訊ねられた。
その時には微笑は消え去っていた。
心の隅で勿体無いと思いながら、言う事を頭の中で組み立てる。
「今、すごい柔らかい顔してなかった?」
「そうですか?」
「うん。」
ずっとそういう顔してれば良いのに、と言おうと思ったけど止めた。
流石にそれは失礼だろうというのが理由の一つ。
もう一つは自覚が無いなら言っても仕方がないのかな、という事。
更に言うなら勿体無いって言うのもあったりするのだが……。
「しばらくは本を見ますか?」
「あ、いや。折角二人とも早く来たんだし、手塚君さえ良ければもう出よう。」
「……では、出ましょう。」
「うん。」
前を歩く手塚君の背を見ながら本屋を出る。
どこに行くのだろうと微(かす)かな疑問を持ちながら追う背中は不思議と懐かしかった。
本屋を出ても歩き続けようとする手塚君に待ったをかける。
「これからどこに行くの?」
手塚君は振り返って、そのままの体制でしばらく止まっていた。
言葉に詰まっているのか、考えているのか。
どちらかは分からないけど返答までに間があった。
「本ならあるので、ここで渡して別れましょうか?」
帰ってきたその返答にちょっと考える。
わざわざここまで出てきたのに、「はい、さようなら」というのは何だか勿体無い。
それに次の機会には手塚君ともっと話してみたいと思っていたのも事実だ。
「私は、どこかでゆっくり話したいんだけど……。」
一言私が言うと、腕を組んで考え始めた。
そして、微妙な間が開いてから返事があった。
「俺の家なら、ここから近いですが……。」
「へぇ、近いんだ。手塚君さえ良ければお邪魔させてもらうよ。」
あっさり承諾するとちょっと驚いているようだった。
まぁ普通、こんなに簡単に男の子の家には行かないだろう。
普通は、だ。
私は基本的にそういう事を気にしない性質(たち)で、大抵相手を驚かせる。
予想通りの反応で、手塚君も普通の男の子なんだなぁと思ってしまう。
やや間が空いてからもう一度確認するように尋ねられた。
「俺は構いませんが、本当に良いんですか?」
「全然。そういうのあまり気にしないから。」
「……分かりました。行きましょう。」
しぶしぶ、と言うか、沈黙に何か含みがあるように思えた。
しかし思うところが何もない私は、歩き始めた手塚君の後姿を追いかけた。
next
あとがき+++
ずいぶん好き勝手に動いてくれちゃう彼らに悪戦苦闘(苦笑)
全く以って私の思うように動いてくれる気配はありません(泣)
何でこうなるかなぁ。
いつもの事ながら、長〜〜〜くなりそうです。
by碧種
05.07.02