あの日
初めて恋をした










初恋  1










約束の日がゆっくりと近付いてくる。
近付けば近付くほどふとした瞬間に彼を思い出す。


青春学園生徒会長兼テニス部部長、手塚国光。


バスで見た後姿とか。
本屋でぶつかってしまったときの事。
あとは初めて彼を見たとき。

そして考える事は同じだ。


何故彼は私を知っているのか。


「心当たりがないんだよなぁ……。」
「何が、よ。」


目の前に座っているのは、中学からの友達の
私は外部受験、彼女はそのまま高等部へ進んだ。
だから今は違う学校に通っている事になる。

今日は約束の前日の土曜日。
久しぶりに二人でショッピング。
帰りにちょっとオープンカフェで休憩しているところだ。


、聞いてる?」
「うん、聞いてるよ。」
「何の心当たりがないの?」
「まぁ、ちょっとね。」


私の返答に不満そうな声を上げる

互いに紅茶とケーキを挟んで話しをしていた。

この前の試験が如何だった、とか。
実は大学入試がメチャクチャ近付いてるね、とか。

そして今、問い詰められる側に回ってしまった。


「私とちゃんの仲じゃない。さあ、このちゃんに話してみなさい。」
「いや、大した事じゃないから……。」
「だったら何で言わないの?アヤシーなぁ。」
「怪しくなんてないです!」


言い返す一つ一つの言葉に食いついてくる。

どうやら、どうしても聞き出したいらしい。
いや、彼女の表情は何かを企んでいる様にも見える。


「ムキになるなんてますます怪しいよね?」
「ムキになってるのはちゃんではないでしょうか?」
「おや、私が何も知らないとでも思ってるのかなぁ?」


負けじと言葉を返しても、全然効き目がない。
と言うより、何か確信の元に言葉をむけられている気がしてならない。

ニヤリ、と言う嫌な笑顔をが浮かべた。


「アレでしょ?手塚国光君。」
「何のこと?」
「大当たりぃ〜。」


何故彼の名前がの口から出てくるのかが分からなかった。
だから全く動揺もせずに答えたつもりだった。
そして、そ知らぬ素振りで紅茶を飲もうとしたはずだった。

だけど……。


「紅茶を溢しているようですが?」
「ぅわっ!!」


全く気付かないうちに紅茶がカップから零れていた。
動揺しているつもりが無かっただけに、余計焦る。

とりあえず体勢を立て直して、話は続く。


「やっぱり手塚君でしたか。」
「何で手塚君をが知っているのさ。」
「情報源は秘密です。」


あくまで向こうは黙秘と来た。
テーブルを挟んで正面に居るは余裕の笑みを浮かべている。
何処からかシステム手帳を取り出して、饒舌(じょうぜつ)に話し始めた。


「手塚国光、14歳。身長179cm。私たちの卒業した青春学園に所属。生徒会長とテニス部部長を兼任するというパワフルぶりとカリスマ性を披露している。年齢に似合わず大人びた顔と、冷静な判断力や言動で人気を集める。女性ファン多し。年齢を問わずに、告白し玉砕した女性も多数。」
「そんな情報何処から……。」


ペラペラと何処から集めた情報か分からない事を喋りだす。
一回も噛まずに読み上げる彼女の能力もすごいが、調べ上げられている情報の量もすごい。


「誕生日は10月7日。血液型は性格に似合わずO型。テニスは半端なく上手い。得意技はドロップショット。って言っても、は分からないかな?勉強も得意。特に世界史が得意科目。好きな色は青か緑。好きな食べ物はうな茶。趣味は山登り、キャンプ、釣り。なかなか渋いねぇ。入が…っと、コレはなしだった。」
「え?」


最後にが小さく言った言葉は喧騒(けんそう)に掻き消された。
誤魔化すように彼女は笑った。
聞き返そうかと思ったけど、何故かその気は起きなかった。

口からは先を促す言葉が出る。


「それで?」
「以上、手塚君の基礎情報でした。悪い子ではないと思うよ〜。」
「だから君は一体何がしたいのかな?」


紅茶とケーキを挟んでの無言の対峙。
若干優勢だが、今ならまだ押し切れる気がする。

平静を装って紅茶を飲もうとカップを手にする。
カップを傾けた瞬間、が嫌な笑い方をした。


「あれ〜?ちゃんは手塚君にアプローチされているのではないのですか?」
「っうわ!!」


危うく紅茶を噴出すところだった。

持ち上げたカップをちゃんと置く。
バンとテーブルを叩いて抗議する。


「何がどうなってそうなった!!」
「まあまあ抑えて。」


もう一度何か言葉を投げつけてやろうと思って息を吸う。
一言言ってやろうとした瞬間、は時計を見てイスを立った。
突然のの行動に気持ちが挫かれる。


「ごっめ〜ん。アイツと約束してたんだ。」
「…………はいはい、行ってらっしゃい。喧嘩せず、仲良くね。」


親友を片手で追い払う。
幸せそうな顔をして自分の分のお金を置いていく。

夕方からアイツ、もといの彼氏君と約束があったらしい。


なら私を外に連れ出すなって。


心の中で悪態をつきながら、今にもスキップしだしそうな背中を見送った。










明日はもう、すぐそこまで迫っている……。










next





あとがき+++

ようやくの続きです。
だいぶ前から予告的にタイトルだけ出していましたが、ようやくです。

なんか、全てがいっぱいいっぱいで……。
更新が…………(汗)
とりあえず、努力します。
ホント、いろいろと。


by碧種


05.01.11