先輩……。
なんて命令をしてくれるんですか……。
ガードマン 1
「おはようございます。千石先輩!」
「ちゃん、おはよう。」
毎朝のように繰り返されるこのやり取りは、学校内ならどんなに嬉しいだろう。
毎朝俺はそう思う。
だけどここは……。
「よう、キヨ!今日も元気にうちの姫さんを護衛してるかい?」
「先輩……。」
そう、・兄妹の家の前なのだ。
先輩は俺たちの一個上の学年のテニス部OB。
そして、喧嘩(けんか)をすれば負け無しの最強テニス部員として全校生徒が顔と名前を覚えていたほどだ。
「お兄ちゃん、何言ってるの?」
「何って……、挨拶(あいさつ)?」
カリスマ的なのだが喧嘩っ早さと、口の悪さで悪い噂も付き纏(まと)う。
顔は良い、頭も良い、運動神経も良い、とくれば当然もてたのだが、本人は興味なし。
泣かされた女性は数知れず、街に出れば逆ナンされる始末。
「大体、千石先輩に迷惑が掛かるでしょ?」
「いいんだよ。キヨは好きでやってんだから。」
只一つの欠点は、シスコンということ。
当の妹もブラコンという噂が立っているんだから、なんとも言えない。
「好きでってね、お兄ちゃんが命令したのがいけないんでしょ?」
「まあ、キヨは人の頼みを断れないからね。」
あはははは、って他人事ですか?!
妹のちゃんは一年生。
ちっちゃくて可愛いと評判らしい。
身長152cmと小柄なほうだ。
小動物のような行動が更なる人気の秘密(先輩談)
「ねえ、千石先輩?」
「え?」
話を聞いていなかった為、聞き返した。
結構強気だったりもするのだが、それすらも可愛い。(って俺も洗脳されてるのか?)
「お兄ちゃんの命令がなければ、早起きして家の前まで来ることもないのにね。」
「……まあ、そうかもね。」
俺は曖昧(あいまい)な返事をした。
本当は先輩の命令無しでも良かったかもしれない。
正直言って、切欠(きっかけ)と口実が欲しかっただけ。
事の発端は、去年の三年生の送別会。
南とふざけてると突然先輩が話しかけてくるので、何事かと思えば。
『俺の妹が来年山吹に来るんだけど、心配だからさキヨが面倒見てくれないか?』
『はい?!』
『可愛くって危なっかしいから、誰かに護衛をやって欲しいんだよね。』
『はあ…。』
『そこでだ。一番信用できるキヨに頼もうって訳よ。頼んだからな〜。』
『……って、拒否権無しですかーーー!!!!』
という騒動の後にちゃん(先輩もだから名前で呼ぶことを許してもらった)を紹介された。
先輩の命令も何もかも吹っ飛んで、守ってあげたいと思ったのは嘘ではない。
「曖昧な返事しやがって。」
「いいのよ。」
絞め殺してやろうか、と先輩の目が言っている。(あっくんよりよっぽど怖い)
同時に、本当は命令がなくても来るんだろ?と言ってる様でもあった。
すかさず"いいのよ"と言ったちゃんの言葉は、少し痛い。
「さっさと学校行かないと遅刻になっちゃうし、こんなこと言ってる場合じゃないと思うわ。」
「そうだね。」
彼女の言ってることは正しい。
あと5分ここにいたら遅刻だ。
先輩とは別れて、学校に向かう。
「妹よ、気をつけて行けよ?」
何に?と言う彼女に先輩は、キヨにvと笑って答える。
「何言ってるの?千石先輩が守ってくれてるのよ?」
「・・・・・・。」
「その内解るさ、妹よ。キヨも、な?じゃあな!」
爽やかに手を振って(俺に視線を向けて)高校に向かう先輩。
もしかして……
バレバレって事ですか?(汗)
俺は確かにちゃんのことが好きだ。
当のちゃんはテニス部の誰かが好きらしい。
何でそんな事知ってるかって?
この前告白されたときに言ってたんだよ。
ちゃんが呼び出されたときは、必ず付いて行く。
こっそりとであって、堂々と付いて行く事はしない。
『あの……俺、さんの事が……好き…なんだけど……。』
『ごめんね。私好きな人いるから。』
『それって、テニス部の人?』
『うん、そうだよ。』
そう言った時の顔は見えなかったけど、きっと綺麗な笑顔を浮かべていただろう。
テニス部の誰か………。
誰……かな。
すごく気になるけど、聞けるわけも無く……
一日、一日が無駄に過ぎていく気がした……
そして、勇敢になれない自分を
情けなく思った……
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+あとがき+
これが噂のボツですよ、すずらんさん。
本当は告白されるはずの後輩ちゃんが、途中から告白しそうな方向に動き出したため、ボツになりました。
読み返せば読み返すほど、キヨ夢に見えてきて。
最終的に、キヨに変更して日の目を見ました。
しかも、短編ではあるけど微妙に続きます。
あと2話くらいで完結予定。
最後まで読んで頂けると嬉しいですv
by碧種
03.08.21