もうすぐきっと終わる。

終わってしまうんや……。










見守る者  5










朝早よに学校に着いた。

最近女子らの動きが怪しい。
せやから、朝早よぉに学校に行く。

こっそりと、誰にも見つからへんように校内に入る。
誰も来ぃひんような場所に潜(ひそ)む。
もちろん、下駄箱の側(そば)に。


「暇や……。」


小ぃそう呟く。
人はホンマに来ぃひんし、何かを出来るような明るさでもない。

暇や……。
暇や…暇や、暇や暇や………!!

心の中で叫んでみる。

そんな事を考えとると、イヤに早よぉに学校に着いた女子が来た。
髪の長いんが4,5人。


さんの下駄箱って……。」
「確かここよ。」


ごちゃごちゃ言いながら、何かを下駄箱ん中に入れた。

一体、何や?

女子らの姿が完全に見えんようになってから、下駄箱に近付く。
の下駄箱をすぐに見つけて、開けてみる。


「封筒?」


中から出てきたんは一通の手紙やった。
女の子らしい薄紅色の封筒ん中には、たった一枚の手紙。
封筒とは正反対のそっけない手紙が入っとった。


「"放課後、屋上に来い。"か……。」


なんや、普通やなぁ。

色気もくそもあらへん手紙を、そっと元に戻す。
とりあえず、跡部にメールを送る。


『今日の放課後、屋上で何かありそな気ぃするから、部活休むわ。
 あと、今日は俺らのクラス来(こ)んほうがええで。』


素早く打って送信。


「今日が決戦の日になりそやなぁ……。」


いや、決戦の日にするの間違いやな。
手順踏んでちゃんとやれば、仲直りさせるんもめっちゃ簡単なはずや。

跡部はもう気ぃ付いとる。
ももうすぐ気ぃ付くはずや。


お互いに勘違いがあることにな。










背後に気ぃ遣って、屋上に向かう。

よりも先に屋上に行っとかななぁ。
女子らよりも、な。

屋上に着くと、誰も居らんかった。
たった一つの入り口の丁度裏側に回る。


「なんや。楽勝やん。」


小そう言って、口の端を上げる。
それ以降は声を出さずに心の中で。

案外楽に行けそな感じがしてきたで。

不敵な笑みを顔に貼り付けて、陰から様子を伺う。



ガチャッ



入り口から戸の開く音がする。
足音は複数。


「団体さん、ご到着やな。」


物陰から人数を数える。

ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、……。
八人か……。

なら軽ぅ倒してまいそうな数やなぁ。


さんは、まだ来てないね。」


ぞろぞろと出てきた女子らは、一瞬黙っとった。
ホンの一瞬後には、の悪口みたいなんを喋りだした。


「あの子生意気よね!」
「何で跡部様は、あんな子がいいのかしら?!!」


怒りのままに言葉を吐露(とろ)する。
その表情は……。


「般若(はんにゃ)の面(めん)も真っ青や。」


話がヒートアップしとる女子らは、俺の存在にまったく気ぃ付かん。
かなり目立つ位置に居るつもりなんやけど……。

明らかに出過ぎとることに気ぃ付いて、また陰に隠れる。
裏側に座り込んで空を眺めた。


「空が青ぅて、綺麗やなぁ。」


ちぃと現実逃避してみる。
しばらくは、女子らの罵声合戦を聞いとった。
すると扉の開く音がする。

こっからは見えんけど、が来たようや。
音が全て消えよった。


「んで、何か用?」


面倒くさそうなの声が聞こえた。
その行動は相手の神経を逆撫でするだけやった。


「あんた何様のつもり?!!」


誰かが一番最初に叫んだ言葉。
そん言葉で勢い付いた女子らは、立て続けに言葉を吐く。


「邪魔なのよ!!」
「いい加減にしてくれない?!」
「ウザイのよアンタ!!!」


そんだけでは意味を成さない言葉。
俺はこんな言葉を望んでるんとちゃう。
の気持ちの一つも動かせんよな言葉はいらん。


「別れてまで景吾君の心を縛らないでよ!!」


さっきまでの言葉と違う響き。

俺が欲しかったんはそれや!
俺やテニス部の奴らがゆうても、信じぃひん。
せやから、その他大勢の誰かが言う必要があったんや。


「何でアンタなんか!!!」


小気味のええ音が聞こえる。

ついに手を出した、といった所か?
そん音が聞こえた直後から似たような音が聞こえる。
殴るよな、蹴るよなそんな音が……。


「跡部様に何をしたのよ?!」
「何で景吾君は貴女ばかり見ているの?!!!」
「どうしてよっ!」


女子らの声は聞こえる。
でも、の声は聞こえへん……。

あかん……。
やりすぎや!!

座っとった場所を立つ。
入り口の方に急いで回る。
足音をたてへん様に気ぃ遣いながら。


「っ!!」


視界に入ったんは、囲まれて暴力を加えられてる
起き上がろうとしとる。
その顔には、(なん)か光があった。

ああ……もう大丈夫やな。


「女子は怖いなぁ。」


扉の所に立ってすぐにゆうた。
普段と変わらん、ふざけたノリでゆうた。
俺が突如現れたように見えたんか、その場の全てが止まった。


「忍……足?」


不思議そうにこっちを見てくる
般若(はんにゃ)の面(めん)も凍っとった。
俺がここに居るその意味に……。

不敵な笑みを浮かべながら言ってやる。


「今なら逃がしたるけど?」


俺の一言に弾かれたように、女子らが動き出す。
その表情は怯えとるようにも見えた。

女子らが全員居らんようになって、やっと屋上が静かになった。
完全に二人きりになって、に近付く。


「どうしてここにいるんだ?」


然(さ)も(なん)も分かっとらんような表情でがゆうた。
おどけたふうに装ってゆう。


「ホントは解っとるくせにぃ。」
「解らない。」


短く答える
嘘やないんは解っとる。
自分は解りとぉないんやな。
何で俺がここにいるのか。
何で跡部が俺をここに遣(よこ)したんか。
どうして助けたんか。





真実を今教えたろ。





「跡部がなぁ。」


僅(わず)かにの表情が揺らいだ。

俺が話すんは、今日の朝のメールの返事。
それと真実を一緒にして……。


「『から目を離すな。』言うてな。今日の朝……。」


ホントは言うたんとちゃうけど、同じよなもんや。

のリアクションを見る。
瞳から、雫が溢れとった。
不謹慎やけど綺麗と思た。


「でもな、今日は特にって意味や。跡部は今日だけやのうて、別れたゆう噂流れた後も『絶対に目を離すな』ゆうてたんやで。」
「え……。」


綺麗な雫が一筋だけ流れた。
俯(うつむ)いとった顔がこっちを見る。
にっこりと、わろうてやった。
これで解ったやろ?とゆうてやるつもりで。

俺の言葉を信じてくれることを願(ねご)うて。
そして……。


「テニスコート見てみぃ。」


言葉に従ってフェンス越しにテニスコートを見た。
そこに居たんは、心配そうに右往左往しとる跡部やった。

これで信じてくれるやろ。
俺や女子らの言っとった事を裏付けるものが、目の前に示されとるんや。


「ぁ……。」
「な?話ぐらいきいてやってもええと思わん?」


は確かに小そう呻(うめ)いた。

もうこれで、俺の仕事は終わり。
後は、跡部次第やで?


「忍足……。」
「何や?」


しばらく動きが止まっとったが動く。
しっかりと俺を見た。


「ありがとう。」
「おう。」


一言だけ俺ん元に置いて、風のように去ってった。
風が吹き抜けるように、爽やかに。
そして、何よりも速く。


最後には俺一人が残った……。


「さてと。」


一言漏らして携帯を出す。
アドレス帳から見慣れた名前を出す。
一回深呼吸して電話をかける。


『どうした、忍足?』


焦りの色が見えとる声に、顔がにやけてまう。
ちょぉと演技を入れてゆうてみる。


「大変や跡部!が女子らにボコられてん!!はよぅ屋上に来(き)!!」


普段の冷静な跡部なら、嘘やて気ぃ付いたはず。
せやけど、今の跡部は冷静さを欠いとるから……。


『分かった。今すぐ行く!』

ブチッ


即返事をして、携帯を切よった。
ため息を一つ吐いてこっちも携帯を切る。
ついでに電源も。


「まっ、あとは自分らでなんとかしぃ。」


誰にも届くことはあらへん詞(ことば)を空にゆう。





そして、俺一人が取り残された……。










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あとがき+++

長かった。
一話分だけで、7キロバイトいってしまった。(メモ帳で)
実は過去最長です。
ついに最終輪……いや、最終話。
これでネガティブとの接点はもうないでしょう。
でも、エピローグあります。
はい。

ちょっとした贔屓(ひいき)です(笑)

報われない彼を慰めます。

誰かが(爆笑)

誰かはまだ未定。
新たなヒロインが出てくる訳ではないし、さんでもないです。(たぶん)

今度は忍足クンに普通に恋愛させてあげたいです。
させてあげますよ。
きっと。

by碧種


03.12.11