噂は瞬く間に広まり

人々を翻弄した……










見守る者  3










あの日から二日。
跡部とが別れたっちゅう噂は、尾ひれが付いて広まった。


『跡部が浮気した』
が跡部に厭きた』
が愛想尽かした』
『跡部に婚約者がいた』

などなど。


休み時間の煩い教室で独り言を言う。


「にしても、乙女の妄想力ゆうんは怖いなぁ。」


一番驚いたんは、『跡部と忍足が出来てた』。

ありえへん……。
どないしたらそうなるんやろ……。

しばらくすると、教室の外の女子が煩そうなってきた。
たぶん、噂の中心人物が近付いて来たんやろう。
徐々に近付いてくる声はあいつの名前を呼んでいる。


"跡部 景吾"


教室に入ってきた跡部は、不機嫌な顔をしとった。
ツカツカとの席に近寄ってゆく。
はその存在に気ぃ付いて、顔を外の風景に向けた。


「おい、。」


ざわざわしとった教室が急ぅに静まり返りよった。
要するに、それだけの人間が事の顛末(てんまつ)を気にしとるゆうことか……。

は何にも答えへん。
無言でただ空を見とる。

俺ん席からだけ見えるの表情は、憂いを帯びとる。
本当に見とったんはたぶん、空の更に向こう。
焦点が合ってるようには見えんかった。

痛々しゅうて、目を逸らしとうなった。

目の端で、跡部の眉の動くんが見えた。


!!」
「……何。」


僅かに声を荒げた跡部に、仕方なく言葉を返した

表立って苛立っとるんは跡部。
静かに苛立っとるんは

周りに居るクラスメートたちは、触らん神さんに崇りなしってとこや。
黙って事の成り行きを見とる。


「いい加減何か言ってくれないのか?」
「何を言えっての?」


何か……。

跡部は二日前から、女子をとっかえひっかえ連れて帰る。
昼休みと帰りに連れてる女は、全くの別人。
昔のお遊び癖が戻って来たかのようやった。

その事について何か言って欲しいんやろ。

でも、その行動は意味があらへんかった。
逆効果かもしれん。

遊んでもろた女子は、噂が嘘やないことに気ぃ付く。
それを見たは、浮気がホンマやった思う。

今にも泣きそうな顔になる跡部。
苦しそうな顔をしてる
二人は無駄に傷付けおうてる。

どうして、二人とも気ぃ付かんの?


………。」


消え入りそうな声で跡部が言う。
いつもの俺様な跡部はそこには居らへんかった。
平常心はうしのぉて、ただ呆然と立ち尽くす。


「名前も呼んでくれないのか?」
「君の事は許せないから。」


お互い様な事にも気ぃ付かん。

跡部は最初、と呼ばへんかった。
無意識のうちに……。
は今、跡部とすら呼ばへんかった。
意識的に……。

は即答すると、すぐに教室を出た。
早歩きで廊下を行く。
跡部は呼び止めることも出来ずに、ただ呆然とその場に止まっとった。


瞬間。


跡部と目が合う。



"―――――――"



何かが通じた。

の後を追って、教室の外に出る。
左右を見て、姿を探す。


は人気のない階段の下で、悔しそうに泣いとった。


俺は声を掛けられんかった。
いや、掛ける言葉があらへん。





そして俺は、ただ見守ることしかでけぇへん事に気ぃ付いた……。










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あとがき+++

おかげさまで三話目です。
周りの方に『忍足カッコイイ!!』と言われたりしました。
でもきっと、本人は『カッコ悪ぅてかなわん』と言うでしょう。

まあ忍足クンの本心は後々語っていただくとして、あとがきを……。

実は今、他の夢と一緒に書いてたりするのですが……。
悲恋書く時ってハイテンションなんですよ、私。
『元気出せよ〜。』って友達に言われたりするんですが、元気です。
心配せんでも、普通のときより元気です!
それの証拠に、悲恋以外の夢も一緒に書いてます!
理解者求むって感じです。

テンション高くてスンマソン。


by碧種

03.11.29