静かな部屋に

はさみの音が



いやに響く……










見守る者  2










じゃきっ


長い長い黒髪が床に舞う。


じゃきっ


雨に濡れた艶(つや)のある黒髪が、白い床へ……。


じゃきっジャキッ


もったいないなぁ。
そう思うんは俺だけやろか……。


じゃきっ


きっと違うなぁ。


じゃきっ


跡部もそぉ思うんやろな。


じゃきっ



「こんなもんでええの?」
「……うん。ありがと。」


ショートカットになってしもたは、やなかった。
瞳の奥には明るい光が宿っとった。
でも今は、青白い炎を思わせるよぉな光を灯しとった。
まるで、満月が新月に変わってしまったよぉやった。

鏡越しにの表情を見ながら、彼女の髪に櫛(くし)を通す。
髪の中に残った短い髪を落すために……。
今日あった事を振り払うかのよぉに。

部屋の掃除をしてから寮に戻った。





自分に割り当てられた部屋に戻って、時間を見るために携帯を見た。


「メール来とる……。」


跡部にメール送ったんも完全に忘れとった。





From:ケゴタン
[件名]あ?どうかしたのかよ

今?
親戚付き合いで、イトコの買い物に付き合ってる。
カレシのバースデイプレゼントを買うんだとよ。





イトコ……?
カレシ……?
………女。


全てがこのメールで解決するはずやった。


でも………。
既に………。


「遅いわ……。」


目の前が暗ぉなった気がした。

はもう髪切ってしもてん。
完全に勘違いしとるで……アイツ。
一度思い込むとなかなか解ってくれへん。
そういうヤツや、は……。

すぐに誤解を解いてやりたい。
せやけど、相手は完全に勘違いしとる……。
どうすればええん?
俺はただ、にわろて欲しいだけなんや……。

明日のことは考えとぉない。
学校中大騒ぎになって、と跡部が傷付くんやから……。










今日も部活の朝練がある。
6時半から始まっとるこの朝練は、7時過ぎにもなると女子たちが集まる。
黄色い歓声とやらは煩(うる)そうてかなわん。
今日は特に煩(うるさ)い気がする。

いや、視線が刺さるよぉや。
ただの視線やない。
殺意のようなものさえ感じる。


「侑士〜〜!!」
(なん)や岳人?」


さっきまで女の子たちに揉みくちゃにされとった岳人が、こっちに来よった。
しかも走ってきた。
一人で女の子に囲まれるゆう珍しい現象。


「なぁなぁ、が侑士に乗り換えたって嘘だよな?!」
「は?」


藪(やぶ)から棒の言葉に、間抜けな声が出てしもうた。
そんな情報どっから持ってきたん?
聞くまでもなく、あそこら辺におる女の子たちやろう。
せやけど確認しとかななぁ。


「誰がそないな事言っとったん?」
「えー。殺気を振りまいてるあいつら。」


なんてこっちゃ。
あないに跡部に近い所で言ってしもたんか……。

誤解を解くべく、跡部んとこへ行く。
岳人に変なこと吹き込んだ姉ちゃん達は放っといて。
ちぃと、おどけてみる。


「ケ・ゴ・タ・ン☆」
「あ?何の用だ、忍足。」


完全に勘違いしてキレてんなぁ。
明らかに機嫌悪いやん。
さて、どうしましょか。


「話あるから、ちょぉ来てくれん?」
「どこに。」


まったく協力的じゃない跡部を引きずって、クラブハウスの裏に行く。
木の陰になるそこは、人目に付きにくい。
人気がないんを確かめてから話し始める。


「あんなぁ、跡部。」
「なんだよ。」


跡部の誤解を解くべく昨日のことを話す。
逆効果になったとしてもええ。
真実を知るべきなんや、跡部は……。

が泣きついて来た事。
髪を切ってしもうた事。
が完全に勘違いしとる事。
さっきの噂が全く根も葉もない嘘やゆう事……。


本当はこの噂に便乗して、をもらったろか思た。
せやけど……。
そしたらの気持ちを無視することになる。
ずっと嘘吐くんは俺には無理や。
折角、は幸せそうに笑っとったのに……。
その幸せを奪う権利は俺にはない。

もちろん、跡部や他の奴らも同じ。


「そんなっ……。」


解る事全てを話した。
跡部の顔には絶望の色がハッキリと出とる。

微妙な沈黙が続く。

その間俺は、どうしようか考えとった。
と跡部の関係を取り戻すためにどうすればええか。

強がりな跡部と意地っ張りな

簡単には元に戻らん。
二人の想いだけでもダメ。
思いついた方法は、俺には残酷なもの……。


「跡部……。」
「なんだよ!」


相当思い詰めている。
自暴自棄になる直前。

手を差し伸べられるんはだけ……。


のこと……幸せにする気ぃあるよな?」


しばしの沈黙。
それは跡部がどんだけ悩んでるか、動揺してるかを表してるよぉやった。


「ほな……。」


跡部に近付いて肩に手を置く。
顔を耳元に近づける。


『俺が協力したるさかい、自分の力で確かめてき。』


今表情を見られては不味い。
半泣きの顔を見られたら、勘のいい跡部にはばれる。
そのまま通り過ぎてコートに戻るふりをした。


「忍足!!」


突然呼び止められる。
振り返らへんで止まる。


「なんや?」


なんもあらへん振りして答える。
協力するっちゅうてんのに、まだ(なん)かあるんか?
これ以上ここにおったら泣きそぉなんに……。

の事……守ってくれるのか?」


お前に言われんでも守るわ!

そうゆうてやりたいんやけど……。
上手く言葉は出てけぇへんで……。


「……当然……。」


それだけゆうて水道に行く。
ちょぉとずつ足が速よなってく。
水道に着く頃には走っとった。


「はぁ、はぁ……っ……はぁ………。」


息が切れとった。
蛇口を全開にして頭から水を被る。
夏の始まりのまだ冷たい水が頭を冷やしてくれる。



を見守る。
そぉ決めたんは俺自身や。
それなら、最後まで誤魔化し通ぉしたる。





もう、決めた……。










next





あとがき++++

2話目完成です。
残り1、2話って所でしょうか?
意外と長くなりそな予感……。

爽やか好青年風の忍足君。
頑張れ忍足!負けるな忍足!!
失恋決定済みだけど(笑)

忍足みたいな関西人を見ると、いじめたくなります。(悪い意味ではなく)
関西弁……おかしいですよね……(汗)
修正加えつつやりたいです、はい。


by碧種


03.11.10