どれくらい真剣か
どれくらい悩んだか

それは本人にしか分からない事なのに……










君にしか聞こえない  5










今日も、雨だ。

そんな全く関係ないことを考えながら、急に降り出した夕立の中を無我夢中で走る。

目的地は全く考えていない。
数分前に出てきた家を想いながら、黙々と歩く。
傘も持たずに家を出てきた所為で、雨に体温が奪われていく。

夏の終わり。
とても冷たい雨。
何も見えない……。

気が付くとそこは……。


「……え?」


また、あの公園だった。
また、同じことで悩んでいるときに……。


「結局……。」


結局変われないんだ……。
結局、私は逃げているんだ……。

公園の中に進む。
ゆっくりと歩いて、雨で悪い視界の中。
公園のベンチに座り込む。
曇天(どんてん)の空を見上げると、雨が襲ってくる。


「確かに……。」


うろ覚えの歌詞が口をついて出る。
誰かが貸してくれたMDに入っていた曲。
その一節だけが繰り返し頭の中で回っている。


『確かに胸が苦しいくらいカナシイのに、哀しい顔が分からない。』


その一節を一回だけ呟くように唄う。
そして零れ落ちる溜め息。

あまりに酷い雨だったから、もはや視界なんてものは無い。
何も見えていない。
聴覚だって当てにはならない。
雨の上に雨が落ちる音に支配されているから……。


先輩?」


傘が雨を弾く轟音と一緒に、優しい声が聞こえた。
一瞬幻覚かと思った。
これじゃ、あまりにもこの前と同じじゃない……。

でも。





幻覚じゃなかった……。





「お……とりくん?」
「大丈夫ですか?」
「ん……。」


後ろめたさからか、気恥ずかしさからか……。
下を向いてされるがままになる。

手早くテニスバッグから出されたタオルで髪を拭かれる。
顔も拭かれる。

急に手を引かれた。
その力に従って立ち上がる。


「雨も降ってますし、家まで送りますよ。」


無言で首を横に振った。
濡れた髪から水滴が散った。


「学校は……制服じゃないからダメですよね。」


今度は縦に振る。

生徒は制服を着ないと校内に入れない。
そういう規則を破る度胸は、私には無い。
とてもじゃないけど、出来ない。


「じゃあ……。」


躊躇うように、戸惑うように鳳君が口を開いた。


「家、来ますか?」


簡潔に言われた言葉。
その言葉に私は首は自然と縦に振った。

下ばかりを見ていたら、また腕を引かれた。
見上げると、笑顔の鳳君が居た。


「行きましょう。」
「ん。」


濡れますから、と言われてすごく近くまで引き寄せられる。

ほとんど寄りかかっているような状態で歩く。
私の歩く速さに、さり気なく合わせてくれている。
土砂降りの雨の中をゆっくりゆっくり歩いた。





やっぱり私の声は

君にしか届かない?
君にしか聞こえない?

それとも……

誰かに聞こえていますか?










next





あとがき+++

何だかムダに長くなってきたような気がする、この話(汗)
読んでくださっている方などいらっしゃるのでしょうか?
何だかとっても消化不良です。
まだまだ続いちゃったりします。

っていうか……終わるの?

私が一番不安なのはそこなんですよね……。
綺麗に終わらせられるかどうか。
あとどれくらい続いちゃうのかとか。

すっきり綺麗に終わらせられたらよいなぁ、と思っております。


by碧種

04.09.20