昨日の驚きを
夢のような瞬間を
現実まで引きずっていた
君にしか聞こえない 2
「はよ。」
「おはよ。」
朝一番。
校門を入ったところで声をかけられた。
相手はクラスメイトの宍戸。
彼は大きな欠伸(あくび)をしながら、近付いてきた。
眠気を背負っている感じだ。
ふと、昨日の彼のことを思い出した。
「あのさ……。」
「あ?」
気のない返事が帰ってくる。
そんな事は気にせずに、あの人の特徴を述べる。
「銀髪で首から銀のクロスを提げてて、私より頭一つくらい身長が高い人知らない?」
「長太郎の事か?」
特徴を言い終わるとすぐに答えが帰ってきた。
ちょうたろう?
ちょうたろう……。
鳳長太郎?!
「って、テニス部の二年生の?」
「たぶんそうだぜ。で、アイツがどうかしたのか?」
「いや……ちょっとね。」
何だよ、とでも言いたげな宍戸。
それにあっさりと別れを告げて、音楽室に向かう。
扉を開けると、正面には漆黒(しっこく)のピアノ。
榊先生の協力で自由に使えるようになった、この教室で今日も唄う。
「どれにしようかな……。」
奥にある本棚の楽譜を漁る。
そして、一つの異変に気付く。
洋楽の楽譜がなくなっている。
「あれ?」
昨日は確かにあった。
"La Mer"や"Beautiful Dreamer"。
私の大好きな曲たちがなくなっている。
隣の本棚にも、他の段にも無い。
「どうして……。」
「どうした。」
「先生?!」
床にしゃがんでいると、いつの間にか背後に榊先生が立っていた。
いつも通り、スーツを個性的に着こなしている。
配色は悪くないと思うけど……。
スカーフって……。
いろいろと思いながらも、本題に戻る。
消えた楽譜たちの行方を……。
「榊先生、楽譜が減っているのですが……。」
何故(なぜ)?
そう私が聞くよりも早く、答えは返ってきた。
いや、目の前に答えがあった。
「これの事か?」
「あ……れ?」
榊先生の手には消えていた楽譜たち。
自然にそれを渡される。
私はそれを受け取って、棚に入れる。
棚に入れながら、背後に立っている先生に話しかける。
「楽譜をこんなに持って行って、どうするつもりだったんですか?」
「生徒に貸し出しを頼まれてな。」
「へえ……。私以外にもそんな人、いるんですね。」
「ああ、数人な。」
あまり興味を持てない。
楽譜のタイトルを見ながら棚に戻す作業に没頭している。
どれもこれも見たことのあるタイトルばかり。
「ん?」
一冊だけ。
とても薄い楽譜が一冊。
全く見たことのないものが混ざっていた。
「先生。これ、ここのじゃないですよ?」
「……そうだな。とりあえず、その棚に入れとけ。」
「はい。」
言われたとおりに棚に収める。
全ての楽譜が綺麗に収まった。
するとすぐに予鈴が鳴る。
「予鈴なったんで教室に戻りますね。」
「助かった。」
「いえいえ。その代わり、放課後また使わせて頂きますね。」
「ああ。」
出入り口の扉を開けて廊下に出る。
教室まで戻る道。
そして私は
また戻ってゆくんだ……
厳しい現実と甘い幻想の世界に……
next
あとがき+++
さてさて、ちょびっと訳が分からない展開になってしまいました(汗)
本当は宍戸との会話+チョタとの再会になるはずが……。
半分しか出来なかった!!
んで、話がややこしくなった(泣)
チョタとの再会は次回という事で……。
ああ、また話が長くなってしまう……。
by碧種
04.07.25