私はあの雨の日
家に居るのが嫌で
制服から着替える時間も惜しんで
家から飛び出した
君にしか聞こえない 1
雨の音以外聞こえない。
雨の降る音階以外に何も無い。
私の夢を許してくれない親の声も届かない。
傘も持たずに飛び出した所為で、既に制服は濡れてしまっている。
絞れそうなくらいだ。
自棄(やけ)になって走る。
靴下に泥が跳ねるのも気にせず。
靴に水が染み込むのも気付かず。
気が付くと、学校に比較的近い公園の前だった。
急に重くなった足で、公園の中に踏み込む。
下校のラッシュが過ぎた所為か、近くに人影が無い。
右を見ても、左を見ても誰も居ない。
ぐるっと一周見て、一人だということを感じる。
――――ああ、独りだ。
視界いっぱいの雨。
耳には雨の跳ねる音。
雨のにおいが鼻を、身体には冷たい水が伝う。
「寒っ……。」
自分の腕をさする。
傘忘れたなぁ、とか。
携帯持ってなくてよかった、とか。
寒いなぁ、とか。
全部、本当はどうでも良くて。
否定された夢ほど燃えるから……。
夢が無くちゃ生きていけないから……。
小さく唄い始める。
異国の唄を、そのままの音で。
嬉しい事も、悲しい事も、楽しい事も、寂しい事も全て受け止める。
僕らはここに居る、と……。
ふと、冷たい雨が途切れる。
それと同時に影が過(よ)ぎる。
「――っ!!」
何が起きたか分からない。
喉が絞まるように声が詰まる。
上には傘。
そして、それを辿ると銀髪の青年が立っていた。
「風邪、引きますよ?」
焦った。
唄ってるところを見られたから……。
そして、彼の顔はどこかで見たことがあることに気付く。
銀の髪。
首には銀のクロス。
私より頭一つは大きいであろう長身。
着ているのは、同じ氷帝の制服。
どこで……?
辺りを見回している彼の顔をまじまじと見る。
すると、目が合った。
思わず目を逸らす。
悪い事をしてしまった。
突然目線が合って驚いたから、反射的に逸らした。
悪い事したな……。
しかも、傘を差してくれたお礼も言っていない。
もう一度彼の顔を見る。
人の良さそうな顔だな、とか関係ないことを考えながら。
「その……。」
一瞬、言葉に詰まった。
私が声を出した瞬間、また目が合ってしまったから。
その目が澄んでいたから……。
「ありがとう。」
自然に零れた笑顔で彼を見る。
その人が驚いた顔をしている間に、傘から飛び出す。
バシャバシャと水と泥が跳ねる。
公園から家までの距離を一気に走る。
家に居るのがいやだった事なんて忘れていた。
ただ、知らない人に唄を聞かれたのが恥ずかしくて。
しかもその人が同じ学校だということに驚いて。
さらに彼の事をどこかで見たことがある気がして。
こんな土砂降りの中で私の声に気が付いた人が居た事が、ちょっと嬉しくて。
想いは誰かに届くものだと。
願いは叶うものかもしれないと。
その時思いはじめた……。
そして数日後。
私の空間に一匹の仔犬が住みつくことになる……。
next
あとがき+++
続くって感じで(苦笑)
とりあえず、最初は対比から始めてみました。
チョタ視点とさん視点との。
まあ、次もこんな感じかなぁと思っているのですが……。
少し前に、去年の更新回数など集計してみました。
驚いたことに、去年の7月は十数回更新してました(ドリだけで)
二年目に入って更新が益々駄目になってきていることは事実ですね……。
去年並みに更新しなくては。
by碧種
04.07.15