雨が降る
梅雨の終わりの盛大な雨が……










うたごえ 1










放課後になった教室は、騒がしさに包まれていた。
外の土砂降りの雨にも負けないくらいに。


「はあ……。」


そう、天候は雨。

部活は当然自主トレになった。
宍戸さんとの特訓も、雨の中でやるわけにはいかない。


「はぁ……。」


外で降っている雨の所為で、今日の予定は丸つぶれだ。
要するに何もする事がないんだ。

しかも今日は家の人達は忙しいようだった。
母が友人を呼ぶ為に大量のケーキを用意しなくてはならないらしい。
だから家に帰ればこき使われるにちがいない。


「はあ……。」


本日何度目か分からないため息を吐く。
そしてもう一度、雨が降る空を窓越しに見上げた。





すぐに家に帰るのもしゃくだ。

そう思うと俺の脚は、学校から一番近い公園に真っ直ぐと向かっていた。
緑が多くて広い、とても過ごしやすい空間だ。

視界を遮(さえぎ)る様な雨の中、公園の真ん中に人影を見た。
気がした。


「誰だろう……。」


その人影を見極めようと、人が立っているであろう場所に近付く。
雨でぬかるんだ公園の中に一歩一歩踏み入れる。
人が立っていることが分かる位置まで行くと、その人が歌っているのが聞こえた。


「――――…・・。」


雨音の合間に途切れ途切れの歌声が聞こえてくる。

雨の音に掻き消されそうになりながらも、しなやかに響いてくる声。
それは日本語でも英語でもない、聞いた事がない異国の言葉だった。
そう聞こえるのは、雨が地面や傘を打つ音の所為ではない。
確かに聞いた事のない異国の言葉で異国の歌を歌っていた……。


「―――――。」


その人は俺の存在に気付く様子もなく、一心に歌っていた。

徐々に近付いていく。
よく見てみると、その人は氷帝の制服を着ていた。
その距離まで近付くと、唄もよく聞こえる。

でも……。

視界も音も雨の所為ではっきりしない。
相手の背格好はわかっても、顔までは見えない。
唄のメローディーが聞こえても、言葉は上手く聞こえない。


「・・…――――」


その人との距離が更に縮まっていく。



あと十数歩。

…あと十歩。

あと数歩……。

あと……。



「――っ!!」


心地よい音楽が不自然に途切れる。
雨に濡れた彼女の驚いた顔が俺のほうを向く。

驚かすつもりはなかった。

でも、身体は自然と彼女の唄に……。
彼女に惹かれるように動いた。

そして今、俺は彼女の頭上に傘を差している。


「風邪、引きますよ?」


ひと声掛けると彼女は慌てた。

荷物を持っているようには見えない。
近くにある様子もない。

辺りを見回していると、今度は不思議そうに俺を見ている彼女と目が合う。
でもすぐに逸らされた。
もう一度彼女の顔を見て思う。

どこかで見たことがある……

声を掛けようとすると、彼女の方が先に口を開いた。


「その……。ありがとう。」


最上級の笑顔で俺のほうを見る。
彼女は素早く傘から出て、雨の中へ走っていってしまった。
バシャバシャという音を連れながら、雨の向こうへと消えてしまった。

すぐにその音も掻き消されて、彼女が存在したアトが全て消えてしまった。





俺の心に残るこのメロディー以外は……。










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あとがき+++

チョタ初登場でございます。
名前変換ゼロな上に、"鳳長太郎"の"お"の字も出てきませんでした(汗)
ごめんなさい!!
次は名前くらい出るはずなので……。

ここまでだと、誰でもいけそうですよねぇ。
青学だろうと氷帝だろうと山吹だろうと……(以下略)
でも、音楽に関係深そうなのってチョタだし……。
榊先生はヤだし(笑)
いろいろ考えた結果がチョタなんですよねぇ。

チョタファンの方に怒られないよう、努力いたします!


by碧種

04.04.26