なんで
どうして
何故
こんな事をやっているんだ?
悪夢の
カーテンに片手をかけて隙間から様子を窺(うかが)う忍足。
表立って部室を取り巻く女子たちは居なくなった。
ただ、ぱっと見では分からないような所に潜んでいるようだ。
「これから起きる事考えると、気が滅入るよな〜。」
「せやなぁ。明日からどないな目で見られるか……。」
忍足はカーテンの隙間をそっと閉める。
部室を振り返ると、跡部と向日がど派手に飾られた両手に乗る程度のサイズの箱を持っているのが目に入る。
思わず噴出す忍足に、黄色い剛速球が飛んでくる。
「って!!なにすんねん!!」
「忍足、てめぇに笑われる筋合いねーんだよ。」
「そないなもん持っとる跡部見たら、誰だって笑うわ!」
「確かに……。」
「お前にも言われたくねーよ。」
三人で言い合いをしているうちに、作戦決行の時間が迫る。
三人の手元にはに渡された台本もどき。
は、その台本もどきを3本分書くのに僅(わず)か3分しか掛からなかった。
それが一番恐ろしいと気付く余裕は、誰にもなかった。
「にしても、ホントにこれやんの?」
「窓開けて、演(や)るしかねぇんだろ?」
「ま、しゃあないなぁ。」
開演の合図の携帯がなる。
「はじめるか……。」
最初に動いたのは跡部だった。
窓辺に近付いてカーテンをおもいっきり開ける。
窓も少し開けて、外を見回すフリをする。
「どうやら表から出たジローと宍戸か、裏口から出た鳳と日吉の方に行ったみたいだな。」
「って事は、アイツらは大変な目に遭ってんの?」
「そうかもなぁ。」
忍足が声を発して、窓際に近付く。
外で女子たちが動く気配がした。
どうやら陽動作戦は成功したらしい。
こちらに向かってくる女子も居れば、他のところへ移動する女子もいた。
「大成功らしいなぁ。」
部室内に苦笑いを向けて呟く。
観客が揃ったところで、本番が始まる。
「せやけど、アイツらのらぶらぶっぷりに中(あ)てられんのがオチとちゃうか?」
「そりゃ可哀想だよなぁ……。」
「全く、やってらんねーよな。こんな奴らの上に立つなんて……。」
「くそくそ跡部!!何だよその言い方は!」
「俺様に口答えする気か?」
スタスタと歩いて向日に近付く跡部。
同じく向日も跡部のほうに近付く。
そしてそれを止めるのはもちろん忍足の仕事。
「岳人も景ちゃんも喧嘩は止めな。いつも言うとるやろ?」
「うるせーんだよ。」
「そうだそうだ!侑士には関係ないじゃん!!」
妙に息の合っている二人だが、一つだけ弱みがある。
というより、弱みがあることになっている。
「今日くらい大人しゅうしとき。その気がないなら、アレは貰われへんなぁ。」
「「あ……。」」
忍足が親指で指したのは、机の上で仲良く並んでいる二つの箱。
綺麗にラッピングされたそれらは紛れもなくが置いていったもので、彼らが用意したものではない。
決してそんなものを男にやるような趣味は持ち合わせていないのだ。
しかし今はそんな事は言ってられない。
力いっぱい否定したい気持ちを抑えて黙る二人。
「アレは俺にくれるモンやろ?」
跡部と向日は押し黙る。
とはいっても、間違ってもこの作戦をぶち壊しにしない為だ。
忍足の言っていることが図星だからではない。
「俺モテモテやん。」
「だっ誰が侑士にやるって言った!」
「……見苦しいぞ忍足。」
「ほな、誰に渡す?宍戸か、ジローか?いっそ榊先生か?」
矢継ぎ早に言う忍足に、反論が出来ない跡部と向日。
自分たちのアドリブがこういう展開を招くとは思ってもいなかったらしい。
なんにせよ、彼らに逃げ道はない。
笑顔で両手を二人の前に出す忍足。
「くれるよなぁ?」
跡部と向日は、また言葉に詰まる。
笑顔で迫る忍足に徐々に押されていく。
「岳人、どうなん?」
「っやるよ!!やればいいんだろ?!」
乱暴な言い方で忍足に返す向日。
机の上においてあった箱を一つ手に取ると、押し付けるように渡した。
「景ちゃんは?」
「仕方ねぇな。」
舌打ちをしながらも向日に続く跡部。
無愛想に、ほとんど投げつけるような感じで渡した。
一呼吸置いて向日と跡部は声をそろえて言った。
「「この二股男。」」
その言葉をいとも簡単に、しかも笑顔で返す忍足。
「どっちも本気やないし、ええやん。」
そして……。
05.02.14