何でこの話に全員乗せられたんだ?










悪夢の二月十四日(バレンタイン)局地戦  宍戸+ジローside










「ジロー、途中で寝るなよ?」
「だーいじょうぶだって。今俺、ちゃんと起きてるし〜。」


正面の出入り口から突破という大役を貰ってしまった宍戸とジロー。
ジローは片手に既に封が開いているムースポッキー。
宍戸は自分のテニスバックを担ぐ。

他の5人に較べて、いたって普通の格好だ。

ラッピングされた物も渡されてないし、あとは演技のみだ。


「跡部たちが部室組みだよな?」
「そう。で、二年生二人が裏口組み。」
「他に確認しとく事、ねぇよな?」
「たぶんね。」


携帯片手に合図を待つ。

宍戸は二年生'sのように往生際の悪い事は思わない。
これから演じる事に疑問を抱きつつも、既に諦めている。
一方ジローは面白い事になりそう、程度にしか思ってないらしく……。


「わくわくしねえ?」
「……ジロー、お前なんかずれてるぞ?」
「そうか?」


しょうもないことを話していると、携帯のアラームが鳴り響く。


「あ。」
「……行くか。」


二人は一歩間違えれば命さえ危ない戦場へと踏み出した。





「亮ちゃん!」
「あ?ジロー?」


少しだけ出るタイミングをずらした。
宍戸が先で、ジローが後。
ほとんど同時に出た為に、部室から大して離れていない場所で止まる。

ジローと宍戸目当て女子たちは会話に割り込むすきを窺(うかが)いながらも、出られずに居る。
その他のレギュラー陣を狙っている女子たちは、目当ての人を探して様子を窺う。


「今日は鳳と一緒じゃないの?」
「あぁ、何か裏口から出てったみたいだぜ。日吉がついてくのも見えたしな。他のヤツは?」
「二年生以外はまだ部室に残ってたよ。」
「そっか。」


目当ての人の居るところを知るや否や、女子の移動が開始された。
横目でそれを確認する二人。





これで上手く演技をすれば女子たちは逃げる……よな?





半信半疑のまま即興劇に突入する宍戸。
何が起きるか期待に目を輝かせながら、ジローが演技を始める。


「ねぇねぇ、亮ちゃん。」
「何だ?」
「今日が何の日か知ってる?」
「今日?」


これだけ女子の殺気を感じながら気付かないふりをする宍戸。

あくまでフリ。

の作ったシナリオ通りに動くための演技だ。
宍戸は今日が何の日か分からずに真剣に考え込む演技をする。
頭をガシガシと掻いて、表情を歪める。


「本当に分からないの、亮ちゃん?」
「だって、俺もジローも誕生日は当分先だし……。」


2月、2月、とぶつぶつ呟く宍戸。
心の中では次はどうする、という考えがぐるぐる回っている。


「今日が何の日か分からないなんて珍C〜。」
「そんな有名な日か?」
「めっちゃくちゃ有名だよ!!」
「2月だろ……。長太郎の誕生日か?」
「それって俺たちにあんまり関係なくない?」


あまりの宍戸のすっ呆けぶりに溜め息を吐くジロー。
溜め息の後に言葉を繋ぐ。


「鳳の誕生日は何月何日?」
「2月……14……。あ、バレンタインデー?」


ようやく気付いた宍戸ににっこりと微笑む。
そしてムースポッキーの箱を差し出す。


「はい、亮ちゃん。」
「あ、あぁ。」


すんなりとポッキーを受け取る宍戸。
その様子を見て笑みを濃くするジロー。


「ホワイトデーのお返し、期待してるからね?」
「は?」
「それとも、今すぐくれるの?」
「なっ!!」


ずいっと顔を近づけるジローに、宍戸は動揺する。
と、いうよりは身の危険を感じた。
いろいろな意味で……。


ファンたちの密やかな殺気と、熱い視線……。


「分かったから、ホワイトデーまで待てって!!」
「約束だよ?」
「分かった!」


嬉しそうな笑顔を浮かべるジローと、照れている(ように見える)宍戸。
そう、それはまるで普通のカップル……。


他人の目を誤魔化すには十分だ。










跡部+忍足+向日サイド










05.02.14