走り去っていく後姿を見た
何が何だか分からなくて
答えも何も見えなくなっていた
仲良し
何分も前に5限の本鈴が鳴ったのに気付いた。
だけど動く気力も何もなかった。
とてもじゃないけど、動けない。
原因は分かりきっている。
「一体……何なの?」
頭を抱え込んで目を閉じる。
数十分前に起きた事を頭の中でリピートする。
考えるだけで頭の中が混乱状態に陥ってしまうあの出来事。
首筋に残った痕(あと)が夢じゃなかったと言っている。
考えても仕方ないと思って立ち上がる。
自然と足が向かうのは、校舎とは違う方向になる。
見慣れた景色が流れていって、その先に見えたのはいつもみんなの集まる彼らの部室。
誰もいない事を想定してそっと入り込む。
「おじゃましまーす。」
「あ?何やってんだ。」
「あ、とべ?!」
授業中だから、誰も居ないはず。
そんな常識はここでは通用しないらしい。
出入り口の正面にあるデスクの上にノートパソコンを広げている跡部が居た。
眉を寄せて、訝(いぶか)しげに私を観察している。
「俺様に用か?」
「だったらこんな時間には来ないでしょ?」
案外常識ないんだよね、跡部って、とふざけて言ったら睨まれた。
正直、正面きって喧嘩を吹っかけるような元気はない。
跡部の視線を振り切ってデスクの横にあるソファーに寝そべる。
柔らかいソファーの感触を楽しんでいると、不機嫌そうな声が上から降ってきた。
「おい。」
「何?」
「何してんだ?」
「見て分からない?寝てるの。」
勝手に居座ろうとする私、追い出そうとする跡部。
激しい言葉の押収と温かい午後の日差し。
最終的には跡部が折れた。
「じゃあな。俺様はお前の相手するほど暇じゃねーんだよ。」
「はいはい、お休み。」
鍵束を持ち上げる音と共に離れていく足音が聞こえた。
不意にその音が止まる。
「そうだ、。」
「何?」
「首のソレは見せ付けてんのか?」
跡部は口の端を吊り上げで、ニヤリ、という効果音が一番似合いそうな笑顔を私に向けた。
クビ?
九尾、くび、クビ……。
首?!!
「――――!!!!」
「じゃないなら、ちゃんと隠す事だな。」
「きっ、気付いてんならさっさと言えーーー!!!」
起き上がって手元にあったクッションをおもいっきり跡部に投げつける。
しかしクッションは、跡部が出て行ったドアにぶつかって落ちるだけだった。
悔しい気持ちを抱えながら急いで襟元を正す。
もうこれで誰にも見られることはない……はず。
もう一度ソファーの上に倒れる。
予想以上に疲れた身体はあっさりと睡魔に負けて、意識は夢の中に吸い込まれた。
夢を見た
どこか遠くへ
届かない場所へ
アイツが行ってしまう
必死に手を伸ばし
空(くう)を掴んで
名前を呼んだ
「むか、ひ……?」
「ん?眠り姫のお目覚めか?」
上から降ってきたのは能天気な向日の声ではなく、宍戸の声だった。
揶揄(やゆ)するような口調で話し掛けてきた。
「宍戸?」
「おう。よく寝てたな。」
起き上がり部室の中を見渡すと、宍戸が椅子に座っているだけだった。
他のメンバーは何処にも居ない。
しかも宍戸は既に部ジャーに着替えている。
……ってことは?
「今何時?」
「5時過ぎだぜ。」
「マジ?」
「嘘吐いてどうする。」
「だよね……。」
一体何時間寝ていたんだろう。
五時間近くか?
寝すぎた全身が気だるさを訴えている。
軽く溜め息を吐いて立ち上がると、宍戸に話しかけられた。
「お前、向日と喧嘩でもしたのか?」
「何で?」
「向日の機嫌悪かったからな。」
何となくムッとして宍戸を睨みつける。
宍戸が一瞬息を呑んだ。
怯んでいる宍戸にお構い無しに言葉を浴びせる。
「何で、向日の機嫌が悪いと、私に、関係するわけ?」
「え?」
「いっっつも、何で私が原因にされないといけないのよ!!」
「ちょ、ちょっと待てって。」
「大体ね私イコール向日とか向日イコール私とか勝手に決め付けるな!!!」
落ち着けと言う宍戸を無視して喚(わめ)きたてる。
流石に部室の外まで声が漏れてしまったのか、ドアが開いて人が入ってくるのが見えた。
そんな事を気にする余裕がないほど頭に血が上っていた私は怒鳴り続けた。
「ホントいい加減にして!何でみんなして私の所に来るの?!忍足も、跡部も、宍戸も、ファンの子達も。そもそも私に何を期待してるの?」
「おい、。」
「直接本人に言えば良いでしょ?何でわざわざ私を経由しなきゃいけないの?」
「止めろって。」
「勝手に噂して、冷やかして、呼び出して。向日の事なんて私には関係ないでしょ?!!」
思っていた事を全部吐き出しきって、肩で息をする。
視界の中には宍戸とその近辺の狭い範囲しか見えていなかった。
だから、気付いていなかった。
視界の外に誰がいるか、何人いるか。
「関係ない、か?」
聞き慣れた声が聞こえた。
聞いた事がない、傷ついた声で誰かに答えを求めていた。
「やっぱ俺って、にとってその程度?」
「向、日……。」
その問い掛けへの答えを私は知らなかった。
黙り込む私を見て、向日が部室から走り出す。
声を掛ける事も出来なくてそのまま見送った。
すると部室に集まってきたレギュラー陣に囲まれる。
「……いつまで抉(こじ)らせる気だ?」
「知らない。」
「そう言ってやんなよ。アイツはアイツなりに悩んでんだぜ?」
「そう言われても……。」
「なんや、どうしたらええか分からんて言い訳するつもりか?」
「だって……。」
「もう答えは出てるんじゃないですか?先輩。」
「分からないよ。」
「答え出てない子はそんな顔しないC〜。」
次から次へと言葉を投げかけられる。
反論する暇さえ与えられない。
「追いかけたいって顔して何を言いやがる。なあ、樺地。」
「ウス。」
「ホントは必死なんだろ?」
「さっさと追いかけたほうがEーんじゃない?」
そっと背中を押すような事はしてくれない。
強制的に押し出すような感じで、強く強く押される。
見えなくなっていた自分の心が見えてくる。
どうしたい?
どう思う?
どうすべき?
もう、答えは出てる?
「行ってくる。」
一言宣言して向日の後を追う。
アイツの行く場所なんてそう多くはない。
テニスコート
中庭
購買
屋上
絶対どこかに居るはず。
必ず見つけ出してみせる。
その後どうするかは、会えてから考えればいい。
会えてから考えればいいんだ。
next
あとがき+++
一ページのはずが二ページ。
前後編で終わるはずが、中編までできて……。
終いにゃそれでも足りなくなって……。
見事にいつものパターンにはまりました(汗)
こんなはずではっ!
次こそ終わる……はずです(苦笑)
by碧種
05.04.30