二日酔いでくらくらする頭を抱えて

頭突きを受けた額を押さえて

自分の部屋に向かう



そこに誰が居(お)るとも知らんと……










笑って   3










あいつとあいつの兄貴の声二つが去って静かになりよった。


「……。」


ここでボーっとしとっても、何もない。
仕方なく屋根の上から飛び降りて、俺に与えられた部屋に向かう。

大量に飲んだ酒とあいつの頭突きとで、まだ頭がガンガンしとる。



せや。
きっとその所為(せい)や。
アイツの存在に気ぃ付かんかったんは……。



いつもと変わらず、そろそろと部屋に入った。
障子(しょうじ)を閉めて部屋の中を改めて見た。
するとそこには……。


「誰や。」


そこには俺の変装用の女もんの着物を着た奴が居った。
色素のやや薄い長い髪を遊ばせとるその姿は、どこかで見た事があるように思えた。

火を灯しとらん薄暗い部屋では、相手の顔はよぉ見えへん。
でも、驚いとるんは確かやった。
距離を縮めようと近(ちこ)ぉ寄ると、相手の唇が動いた。


「もう少し屋根の上で戯(たわむ)れていれば、会う事もなかったのに……。」


寂しそうに言うその声はどこかで聞いた事がある声やった。

いつ聞いた?
どこで聞いた?
思い出せ。
思い出さな!


「全く。」


そいつは独り言のように呟いた。
頭をガシガシと掻きながら。
その行動があまりにも男らしゅうて、アイツやなんて気ぃ付かなんだ。

「歳といい烝といい、私の事を忘れるなんて酷いなぁ。」


ため息のように吐き出した言葉には、自嘲(じちょう)しとるようにも聞こえた。
そいつはどこからか火種を取り出して、部屋に火を灯した。
部屋の一番奥におったそいつは、一番近くにある燭台(しょくだい)の前から一歩も動かんかった。

影が多かった顔が、明るぅ照らされた。
見えたそれは完全に男のものやった。

ホンマ、訳分からん。
どないな理由で、こいつは女もんの着物なんか着とるんや。


「化粧を落す道具と水、持ってきな。」


睨みつけるように見とると、目の前の男が言った。

その瞬間俺の中で全て繋がった。

そんないな筈ない、と頭は否定といる。
アイツが帰ってくるはずあらへん、と。
でも、勘はアイツだと言っとる。
アイツ以外考えられへんと言っとる……。

躊躇(ちゅうちょ)して言葉が出ぇへん。

答えは一つしか見えとらへんのに……。


……。」


やっとの思いで出た声は……。
忘れる事が出来んその名前を呼んどった。
姉上よりも姉のようやった、思い出にしとうないその人の名前を……。

弾かれたように俺を見たその人は、雲の様な笑顔を浮かべた。
泣いとるようにも見える笑顔を……。
そしてゆっくりと口を開く。


「正解。」


一言だけ言うては黙り込んだ。
俺も言う事が見つからなくて黙った。





沈黙が痛かった……










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あとがき+++

あーあ。
長くなってしまいましたね。
あと一話で終わらせます。
はい。

さて、ここからの展開どうなるのでしょうか?(ヲイヲイ)
烝君視点にしてみましたが……。

二度とやらねぇ!

延々京弁は厳しすぎです!
もう無理。
やる気も失せますわ。
次はさん視点で書きますのでよろしくですv


by碧種

04.03.31