君のヌクモリが すき だったよ

本当に
ありがとう










消せない温度










大切だから、と守ってしまうと消えてしまう。

あの人も、あの子も……。
皆いなくなってしまって……。

最後に残ったのはだ。


「もう、喪いたくない。」
「私も、同じ。」
「知ってる。」


俺がぎゅっと抱き締めると、はそっと抱き返してくる。

一人で暮らしている俺の部屋で、ただ抱き締めるだけの行為。
一緒にいることを確認する為の行為。

ぎゅっと、そっと。

の細くて俺より少し温かい身体を抱き締めると、何をしている時よりも安らぐ。


確かにそこにいる、という感覚が。
まだ失っていない、という実感が。

泣きたいくらいに温かい。


そんな事を同僚たちに言ったら、「あのカカシが?」と言われてしまいそうだけれど。
を目の前にして触れてしまうと、泣き方も分からなくなってきた俺でも泣きたくなる。


アスマには笑われたか。


俺とが互いの任務が終われば飛んで帰る事を知ったとき、アスマは呆れ気味に笑った。
そのあとすぐにアスマが言った、よかったな、がどういう意味か未だに分からない。


「カカシ。」
「ん、何?」
「カカシは温かいね。」


ぎゅっと、そっと。

添えられた手に力が籠っていた。
それに返事するようにもう少しだけ引き寄せる。



好きじゃなくて、愛しい。
愛してるじゃなくて、大切。

ほんの僅かだけど、恋とか愛とは違う感情でを抱き締める。



「あたたかい?」
「うん。ほっとする。」
「そっか。」


こうしている時、お互いの表情を見ることはなかった。

抱き締める直前の期待に満ちた瞳は直視できる。
だけど、抱き締めている間の喜びと言うよりは苦悶に似た表情は見るに堪えない。

たぶん互いに安堵とは違うモノを感じている。

触れ合っている所はあたたかいし、安心できる場所ではある。
けれどそれは同時に、喪うことに対して臆病になる原因でもある。


「ねぇ、カカシ。」
「ん?」


の柔らかな髪に指を絡めていると、いつも通りの優しい声で話しかけてきた。

何故だか分からないけど不安を感じての頭に頬を預ける。
なかなか次の言葉を発さないから尚更不安に駆られる。


「あのね。」
「うん。」
「明日の夜から任務に付くの。」
「うん?」


任務に就くことなど、上忍になれば珍しいことではない。

ましてや彼女はアカデミーの教員に志願していないのだから、いつもの事だ。
なのに、態々宣言するのはオカシイ。

嫌な違和感を感じながらも、先に続く言葉を待った。


「特殊単独任務。」
「え?」


特殊単独任務。

任務という名でありながらも、成功確立は  ほぼ0%  。
数年に一度あるかないかのもので、危険と言う言葉では表せないほどの任務だ。
特殊な理由により、本来3マンセルで行うAランク任務以上のものを一人でこなす。

そんな、俺ですら受けた事の無いものを彼女がこなすだなんて……。


「いつ終わるか、いつ帰れるか、何も分からない。一週間かもしれないし、何ヶ月……何年掛かるか分からないんだって。」


ちょっとずつ、途切れ途切れに放たれた言葉には、普段と変わらない冷静さがあると思えた。
しかしそれでも、少し語尾が震えているのだから冷静ではないのだろう。

そんな風に冷静に彼女の様子を見ている俺でさえ、心臓の音が恐ろしいくらいに近い。

身体と身体の間に隙間が出来ないように抱き締めているから、心拍音まで聞こえてしまうのではないかと恐れた。
けれど今彼女を離してしまう方が、もっと恐ろしかった。





離してしまわない様に強く抱き締めて、この瞬間が永遠になれば良いとさえ思った。





「嘘、だ。」


彼女の言葉が途切れてどれくらいか経って、ようやく出たのは否定の言葉だった。

そんな筈は無い、と。
きっとそれは違う、と。

全身全霊で否定するはずの言葉は、自分でも感じ取れるほど弱々しかった。
それがまた悔しくて、の細い体が折れてしまうのではないかと思うほど強く抱き締めた。


「嘘……だったら良いね。」


頼りない返事は平然としていたような気もしたが、違う。
その証拠に身体が震えている。

そして俺は必死に言葉を繋いだ。


「喪いたくない。」
「……うん。」
「喪いたくないんだ、。」
「知ってるよ。」
「じゃあ……。」





じゃあ、任務を断わって。





そんな事を言ってしまいそうになって口を噤む。

忍として言ってはいけない事だ。
任務を断わり火影の命令に叛く事は万死に値するというのに……。

俺は願ってしまった。
彼女が任務を断わり、里に残る事を。



何も言えなくなって黙り込んだ。
短い沈黙の後に、は優しく語りかけてきた。


「ごめんね、カカシ。……ごめんね。」










それが死を覚悟しての台詞だったのか
何か他の事に対しての懺悔だったのか


俺は測り知ることが出来なかった










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あとがき+++

えっと……。
何と言いますか、1ページの予定が伸びました(またしても?!)


設定に無理が有りまくりだったり……。
特殊単独任務とか、用語を作ってしまったり……。

今更ながら後悔の嵐がっ!!


頑張りますです。


by碧種


06.02.25