ごめんね って君は囁いて
もう一回同じ事を囁いた


そして君は去っていった










消せない温度










カカシ、とふらふらしている俺に声を掛けたのはアスマだった。


「おー、アスマ。」
「目ぇ死んでるトコ悪いんだが、三代目がお呼びだ。俺は伝えたからな。」
「はいはい。」


が昨日の夜行ってしまったばかりだというのに、何が有るのだろう。

疑問に思いながらも、呼ばれてしまったからには行くしかない。
去っていくアスマを見送ってから、しぶしぶと、急いで三代目の元へ向かう。
物思いに耽(ふけ)っていてもなんとあっけなく辿り着くものだろう。


「お呼びですか?」
「おお、カカシか。」
「はい。」


三代目は目を通している巻物から顔を上げるとにこりと笑った。
普段と変わらず人好きのする笑顔で俺を手招きした。
それに素直に従い近づくと、どこかから新たな巻物を出して俺に渡す。

その内容は……。


三人組(スリー・マンセル)の指導……ですか?」
「そうじゃ。カカシ上忍もそろそろ指導者としての道を歩んではどうじゃ?」
「元暗部の俺が、指導?」


思わず自嘲気味に哂う。
礼を欠いているとも取れるその態度にも、三代目は動じない。
それどころか、皺の増えた顔に更に濃い笑みを浮かべる。


「指導以外の経験はもうだいぶ積めた。残るは指導の道ではないか?」
「……俺は、修羅の道で十分です。」
「ふむ。」
「そういう訳ですから、他の上忍に任せられたらいかがでしょうか?」


それでは失礼します、と言って俺は去ろうとした。
背を向けた瞬間に思いついたことが一つ。





下忍指導は、の受け持ちではなかったか?





事実、は大抵アカデミーを卒業したばかりの下忍の相手をしていた。
長期指導するに値する下忍が毎回いる訳ではなかったが、彼女の長期任務は俺に較べて少なかったのはその所為だろう。

外に向かいかけた足を止め、三代目の方に振り返る。


は何故、三人組指導のこの時期にあのような任務に付いたのですか?」
……か。」
「彼女の受けた任務はランク等を考慮しても俺の方が適任でしょうし、三人組の指導は彼女の方が適任の様に思われます。何故このように……。」


何とは言わず、嫌な感じがした。

言葉にすればするほど明確になっていく疑問。
一昨日には思いつかなかった事。





まさか、俺の任務との任務が……。





そうではないと信じたい予想。
それを否定して欲しくて三代目と目を合わせると、逸らされた。


「それが、答えですか?俺の代わりにが行ってしまった、そういう事なんですか?!」
「……落ち着けカカシ。」
「どうして落ち着けますか?彼女を行かせたのは、三代目、貴方でしょう?何故敢(あえ)て彼女を…………を行かせてしまったのですか?!!俺の方がどう考えても生き残る可能性だって高い。」
「落ち着けと言っておる。」
「答えて下さい、三代目。何故彼女なのですか?!!」


制止の声も聞かずに柄にもなく捲くし立てた。
軽い酸欠になっているのか眩暈を覚え、片手で顔を覆う。

頭の中では"何故"という言葉がグルグルと回っている。


何故、彼女?
何故、俺?
何故、何故、何故、何故、何故っ…………。



ギリと奥歯を噛み締める音がした。



「カカシ、何故上忍の中から彼女が選ばれたか。それはな、本人が志願したからじゃ。ワシがあの様な任務に彼女を推薦するはずがなかろう。」
「いつ、決定したんですか?」
「お主が長期任務から戻る前の日に、里に居った上忍に事前調査として誰が適任か尋ねた。皆お前が適任だと言ったがな、上忍だけは自分が行くと言って聞かなくてな。その場の全員を黙らせおった。」


の意思や押しの強さは知っているが、まさか志願していたとは……。


「任務の詳細を伝える時にな、何故志願したのか聞いてみた。」
「彼女は……何と?」





『カカシはこんな任務で里を離れちゃいけない。だから私が行くんです。』





「と言っとった。」


何も言えなくなる。
何も見えなくなる。
何も感じなくなる。

そんな壊落感(かいらくかん)に襲われた。


「では……、三人組指導はやはりの後任ですか?」
「彼女は前回不合格をだしとる。だから正確には後任ではないが、そのようなものと思ってくれていい。頼めるか?」





は……。

こういう状況になったら俺が断われないと知っていた。
知っているからこそ、彼女は行ってしまった。

彼女は行ってしまい、俺一人が残される。





の後を引き受ける。
しかもそれはの意思でもある。


「断われる筈……ないじゃないですか。」
「ふむ。頼んだぞ。」
「では、失礼します。」


三代目の元を足早に立ち去り、今は一番安心できる自分の部屋に引きこもった。
うつ伏せになり目を閉じ全てを遮断し、深呼吸をする。
それでも落ち着かなくて寝返りをうち目を開けると目に付く。

そこかしこに溢れているの痕跡に苦笑する。


「情けない、な。」


部屋に有る数少ない写真の一枚を手に取る。

そこに写っているのは笑顔の俺との二人だけ。
いつかの休みの日に彼女が写真たてごと持ってきて飾っていった。
それが二人で写っている最初で最後の写真。

見ていると泣き出してしまいそうで、元に戻す為に動かしたら、かさりと音が鳴った。
写真たての中に写真以外の何かが入っていることに気付いて、裏側から開ける。
中から出てきたのはなんて事はない紙の切れ端。


「何、コレ。」


裏返すと明らかにが書いた文字が載っていた。










は、はたけカカシを愛しています。』










短く、たった一行、そう書いてあった。
その言葉で初めて気付かされる。


「まいったな。」










どうやら俺はに恋していたらしい




















あとがき+++

中途半端ですが、コレで終わりって事で。

一応碧種なりのこの先の展開はあるんです。
しかも本当はもう数行書きたい言葉もあったんです。
でも終わり方を色々考えた結果こうなりました。

それに、これ以上書くとカカシさんを救いたくなってしまうので(笑)

続きはご想像にお任せします。


by碧種


06.02.25