消え去った希望が
跡形も無くなった

期待していないなんて大嘘で


やっぱりどこかで彼の帰りを待っていた……










Silver Link −スベテ消えし時−










二人の話を聞く限り、シードとクルガンの二人の遺体は城の廊下に転がったらしい。

誇りを守る為に。
国を守る為に。


「アイツらしい最期……か。」


ジョウイと君の顔を見れない。
見上げた空は真っ青で、今にも全てを飲み込んでしまいそうだった。

いっそ、飲み込んでくれればいい。
私の想いを全部。

恨めしいほどの青空は何もしてくれはしない。
ただ時が経ってゆくのを教えるだけだ。



静寂に終わりを告げる足音が聞こえる。



殿、ジョウイ殿。」
「シュウさん。」


いつの間に近付いていたのか、そこには長い黒髪を肩に垂らした男が立っていた。
君がシュウさんと呼んだ人物はポケットに手を突っ込んだまま、私に向かって歩いてきた。

何故、私の前には彼らが現れるのだろうか?
先の戦争で活躍し、名を残した人物たちが次々と現れる。
君、ジョウイ、そして軍師のシュウさん。

私の目の前にシュウさんが立ちはだかる。
何をされるのかと思い身構えると、予想外の言葉が降ってきた。


「貴女が猛将シードの恋人ですか?」
「……え?」


頭が混乱する。
一瞬何を聞かれたか解らなかった。

答えは絶対にyesだ。
noな訳が無い。

ただ、素直に答えることは出来ない。
敗軍の将の恋人に、ろくな用事で会いに来る人はいないから……。


「だとしたら……。そうだとしたら、どうしたいんですか?」
「見ていただきたい物があるのです。」


シュウさんは微笑すると、私に背を向けた。
そのまま歩き出す。
その背中に問いかける。


「どこへ行くんですか?」
「三人とも付いてきなさい。きっと、貴方たちの知らない物がある。」


君にジョウイ、二人が私の横を抜けた。
このまま付いて行ってその先に何があるかは、全く保障されていない。
だけど、私には付いて行くという選択肢しか残ってないように思われた。

シュウさんは、城跡を奥へ奥へと突き進んでいく。

そこは軍の手によってある程度まで撤去された瓦礫(がれき)の山が、一筋の見えにくい道を作っていた。
何人もの人が歩いた所為なのか、道は他と違う色をしている。

道だけを見て歩いていると、小さな花が咲いているのを見つけた。
前に居る彼らが歩き続けているのを確認してから足を止めた。

薄紅色の小さな花。
名前も無いかもしれないその花は、酷く私の心を惹きつけた。
理由も無くその花を摘む。

片手には銀の御守り、もう片方の手には薄紅の花を持った。
彼らの背中が見えなくなる前に歩き始める。
小走りで行くと、すぐに追いついた。

彼らはある場所で立ち止まっていた。


「これ……は?」


城跡に似つかわしくない真っ白な石が、行儀よく並んでいる。
数え切れないほどたくさんの石。
白の大広間ほどの面積に、人一人が歩けるほどの通路を開けてびっしりと置かれている。
それには一つ一つ名前が彫られている。

ジョージ、セムル、トイ、ナユル……。

見たことの無い名前ばかりが並んでいる。
そしてその上にはどれも同じ日付。

ふらふらと歩く私の後ろから、通る声が聞こえてくる。


「全て皇都防衛線で倒れた戦士たちの墓だ。」


その言葉だけが、妙にハッキリと聞こえた。
彼らが会話している間も私は墓の名前を一つずつ見て歩く。


「ハイランド軍の兵も軍の兵も同じ様に埋葬した。遺体が見つかった方たちだけだが。」
「シュウさん……。」
「復興の合い間に余っていた人手を全部まわして、城跡を虱(しらみ)潰しに探させた。行方不明の人間を99%探し出したよ。」
「では……。」
「ああ。帝国側の兵士は首から提(さ)げてた銀板に彫られた名前で、遺族を出来る限り見つけ出した。同盟軍の兵士は身内に分かるヤツがいたからな。」


三人の会話が段々遠ざかってゆく。
誰に言われるでもなく、頭の中で並んでいる名前たちを呼ぶ。

ガナル、フェイ、シャナ……。

何列も内側に入り込むと見たことがあるような名前も現れた。

そこで気付いた。

手前には軍の墓が並んでいた。
その奥側……。
城で言うと謁見室に近付くと、ハイランド軍の兵の名前が並び始めた。



『ここが、最後に残った俺たちの国。最後に残った、俺たちの誇り。それを汚させはしない!!!!』



気付いたんじゃない。
気付かされた。

最後のハイランドは護られたという事に……。

シグルド、ライラック、ジェシー……。

徐々に歩く速さが走るようになってくる。
奥に行けば行くほど、横に並んでいる墓の数が減っている。
真ん中にある一番太い道を軸に、左右の数が等しく減っていく。

最後には……。
たった三つの墓が並んでいた。

走った所為で息が乱れている。
酸素が足りていない。
思考回路も定まらない。
視界もぼやけている気がする。


「シー…っド……?」


白い石に彫られた名前が見えない。
しっかりと明記されているのに、滲んでしまって見えない。

声が詰まっているのは、きっと息が切れている所為だ。
そして、足に力が入らないのも……。


「シードぉ……。」


土の上に座り込む。

三個並んだ石碑の一番左。
真っ白な石には、確かにシードという名前が彫られている。

指で名前を辿ると、温かい気がした。


「全部終わったよ……。戻ってきたよ……。」


薄紅の花と銀の御守りが、白の石碑の上に落ちる。
小さな音を立てて石の上を滑り落ちた。

後ろから足音が近付いてくる。


さん。」
「はい。」
「もう一度聞きます。貴女が猛将シードの恋人ですか?」


二度目の問い掛けに、迷う必要はなくなっていた。
自信を持って答える。


「そうです。彼は……私が愛した人です。」





その日……。
全てが終わり、全てが始まった……。










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あとがき+++

シュウさん初登場です。
変換の一発目に『シュウ酸』と出たのはショックでした(笑)
ギャグか?と思ってしまいましたよ。

ようやくコレで終わりか……と思いきや、終わってない!!
続くんですよ、もう一話は。
結局最長記録タイになってしまうようです(汗)

更新停滞しまくりの上、久しぶりの更新が裏って……。
いや、こんな管理人だと諦めて下さいな(苦笑)


by碧種


04.08.13