彼らは僕を逃がした
そして散った

全てを託すかのように……










Silver Link −スベテを託した瞳−










軍が攻めてきたぞ!!』
『くそっ、防壁も破られたか……。』
『急げ!警備を固めろ!!』
『何としても、時間を稼げ!』


多くの声が飛び交う中、僕はシードとクルガンに呼ばれた。

王座に座り、彼らを見下ろした。
彼らはいつも通りの装いで、いつも通りにそこにいた。


「どうかしたのか?」


問いかけても言葉が返ってこない。
二人は黙ったまま、僕を見ていた。

戦況が思わしくない事は知っている。
今日明日中には軍が……。
たちが王宮に到達するだろう。

そんな事は予想している。
だから、それを伝えに来たわけではないだろう。


「一体どうしたんだ?」
「ジョウイ。」


真剣な顔で見上げてきたのはシードだった。
二人揃って深刻な顔をしている。
そして、何かを躊躇(とまど)っているようにも見えた。

しばらくしてから、二人は唐突に話し始めた。


「ジョウイ殿。貴方は為すべき事があったはずです。」
「今こんなトコで油売ってる場合じゃねぇだろ?」
「しかし……。」


と約束の場所で会わなくてはならない。
あの時の約束を果たさなくてはならない。
だが、今この国を放ってしまう気にもなれない。

そんな時に彼らは言う。


「さっさと行っちまえ!」
「貴方がいなくとも、我々がいます。」
「どうにかなるって!」


苦渋の決断になる。

彼らを置いて行き、全てに別れを告げるか。
ここで闘い、あの約束を捨てるか。

最後はこうなると知っていた。
しかし希望は捨てられなかった。

誰も彼も利用して……。
人々の命を自分勝手に奪って……。
それでも僕は、光があることを信じ続けていた。


「今しかない……のか?」
「今が絶好の機会です。」


ハッキリと言い切る。
真紅の瞳と白銀の瞳が、じっと見ている。

"さあ、貴方に託しましょう"と。
"未来を貴方は見なくてはならない"と。
"俺たちの未来をアンタに託す"と。

二人とも動かない。
ただ遠くに、兵士たちの足音が聞こえる。


「…………分かった。」


王座から立ち上がり、彼らに背を向ける。
その瞬間に見えたのは彼らの笑顔だった。


「それでは……。」
「持ち場に行くか。時間稼いどいてやるよ。」


二人の足音と声が遠ざかり、ついには聞こえなくなる。


「すまない……。」










広間を出て、長い回廊に出る。
青い絨毯の上には、おぞましい紋章が見えた。


「これは……。」
「獣の紋章か……。」


そこにはレオン・シルバーバーグがいた。


「軍師さん。何を企んでるんだ?」
「お前たちが知る必要はない。」
「そりゃそうか。」


なぜならここで起きる事を、俺たちが見ることはないから……。
見る事は出来ないから……。

後ろ向きな思考を投げ捨てて、足を進める。

邪悪な紋章から僅かしか離れていない場所。
そこが俺たちの持ち場だ。
そして……。
ハイランド最後の領土が、俺たちの働きに掛かっている。

クルガンは黙って左隣に立っている。
真っ直ぐと階段の方を見ていた。


「なぁ。」
「何だ?」


組んだ腕はそのままに。
左足だけを動かして俺のほうを向いた。


「今一番逢いたいヤツ、誰?」
「そうだな……。俺は、礼を言いたい人が何人かいるくらいだ。」


死を目の前にして、ふと逢いたくなるヤツ。
目を閉じればすぐそこに居るように、残像が見える。
俺と同じ瞳を持った彼女が……。
銀色のモノを差し出して微笑んでいる。


「そう言うお前は、殿だろう?」
「ああ、そうだな。逢えるものなら……な。」
「もう一ヶ月長引いていたら、お前は我慢できずに逢いに行っただろうな。」
「そうかもしれない……。」


懐かしむように目を細める。

二度と逢えないであろう恋人は、思い出の中で最高の笑顔を浮かべている。
いつもその笑顔で応援してくれる……。


その時既に、同盟軍は場内に侵入していた。
徐々に近付く足音は、確実にすぐそこまで来ていた。










殿、ここから先はブライト王家の居室・・・・。賊の入り込む場所ではありません。』
『ここが、最後に残った俺たちの国。最後に残った、俺たちの誇り。それを汚させはしない!!!!』





彼らは僕たちの前に立ちふさがった。
それを勇敢というか、無謀というかを僕は知らなかった。

ただ、現実的には無謀だった。





『ならば、俺たちを倒してみろ!!!!あのルカ・ブライトがしたように全てのものを斬りすてて進むがいいさ!!!!』
殿。貴方には我々と戦う義務がある!!!!』





彼らの力を持ってしても、勢い付いた軍を止める事は叶わなかった。

確かに彼らは強い。
実力があった。
カリスマ性も備えていた。

それでも彼らは、全てを諦めていたように見えた。


「勝敗は既に付いているのに……。」


彼らが敗北しなくとも、ハイランドの滅亡は決定していた。
皇都ルルノイエに同盟軍が突入した時点で……。


「そんなに……不思議か……。俺たちが戦うのが…?」
殿……。貴方が同盟軍の希望だったように……。ジョウイ殿もまた、我らにとって希望だった……。ルカ・ブライトを押し止め……ハイランドを導く希望だった……。それだけさ……。」
「行けよ……。俺たちには…もう戦う力など……残ってはいないさ……。」


その言葉の全てを聞き終えた瞬間。
僕は彼らの行為を『勇敢』と呼ぶべきだと思った。










大した時間稼ぎも出来ずに、俺たちは力を使い果たしてしまった。
ルルノイエに侵入した事によって、奴らは力を増していた。

俺たちを倒した六人の足音が近付いてくる。
俺の横を通り過ぎようとしていた……。

その瞬間、俺は重要な事を思い出した……。


「おい………。」
「シードさん?」
「手ぇ……出、せよ。」


敵将にこんな事を頼むのは、ハッキリ言ってカッコ悪い。
けど……。
死が目の前に迫っている今、そんな事は言ってられない。
は、俺が言った言葉に素直に反応する。
茶の手袋をした手が視界に出てくる。
それを見てから、首に下げているモノを外す。
それに通っていた鎖を抜く。


「コレを……。」


差し出された手にそっと載せた。

鈍く光る銀の御守り。
赤い石が一つだけ光っている。
それにこびり付いた俺の血。


ああ、くらくらする……。


「あるヤツ、に……届けて欲しい。」
「……誰ですか?」
「ここの……城下町、っで……銀細工を……やっている、女に……。」


ぼやける視界の中に、の顔が映る。
相手が覗き込んでいる事は分かる。
でも、表情なんか見えない。


「渡して、やってくれ……。」


一向に相手は無言だ。
きっと話は聞いているだろう。
話を聞く気がないなら、もう先に進んでいるはずだ。


…ってい、う。女だ。間違えんな、よ……。」
「どういう人なんですか?」


突然、質問が振ってきた。
そして思い出す。
は何も知らなかったことを……。


「赤い瞳…と、銀っ色の……髪を持った、女(ひと)だ。」


言葉にしたら、急にの笑顔が思い出された。
その姿、仕草、言葉の一つ一つが鮮明に浮かぶ。


「俺は……愛してる。」


笑った顔、怒った顔、泣いた顔。
髪を掻き揚げる仕草、笑うときの癖、照れたときそっぽを向いてしまう事……。

今まで出一番鮮やかに、リアルに俺を揺さぶる。


「彼女も……愛して、くれっ…ていたら………俺は、幸せだな…………。」
「そうですね。」


同意する声とともに、が笑った気がした。


「今度こそ、行けよ……。」
「はい。」


返事が聞こえて、足音が遠ざかってゆく。

ふと、クルガンの存在を思い出す。
声を掛けようと、身体を捻(ひね)る。


「クルガン……俺は楽しかったぜ……。この国の事を想い…未来を想い……存分に戦った。」
「そうだな………。この国と命運を共にするのも……良かろう……。」


互いに顔を見合わせる。
クルガンも……。
きっと俺も……。
意味も無く笑顔が零れていた……。


滲んだ世界が、白に還ってゆく……。


今更気付いてしまった。
まだ一つ、に返さなくてはならないモノがある事に。
彼女に貰った未だ薬指に輝く銀色のものの存在に……。





そして白濁してゆく意識の中で、彼女の名前を呼び続けた……。










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あとがき+++

シードさんの過去捏造(ねつぞう)完了っす(笑)
でも詰めが甘いような気がしてなりません……。
でもまぁ、今回はコレくらいで。

それにしても……ついに5話目です。
最高記録更新しそうな勢いです……(汗)
でも、10話以内には終わるかなぁ……。

これを書くためだけに、クリア目前のデータ引っ張り出してきて、幻水2をクリアしました。
シード&クルガンの台詞を全て聞いてからこれを書いているのですが……。
さてさて、間違っているところは無いかな……(自信なし(苦笑))


by碧種

04.08.03