夢の声は
甘く切なく頭に染み渡って
それでもすぐに消え去ってしまうのです
Beautiful dreamer 2
活気のある昼の街の中で、一際活気のある店で私は売り子をしている。
「いらっしゃいませ!」
「お、ちゃん。今日も威勢がいいね。」
「ありがとうございます。」
「いやいや、顔色が悪いよ。」
「そうですか?」
声を掛けて下さる街の人に返事をしながら、店の品物を捌(さば)いている。
私が"元気"だと言う人もいれば、顔色の悪さを指摘する人もいた。
中には両方を口にする人もいた。
それでも私は元気なつもりなのだ。
忙しなく働く中で、ふと顔を上げる。
偶然見た先の二人組みに眼が留まった。
通りの向こうから、おそらくはこの国の人ではないだろうと思われる旅人が歩いてくる。
やや小柄なほうの人は、布に捲かれた長いものを左手に携(たずさ)え、背の高い人は短くてでも重そうに見えるものを脇に抱えるようにして持っている。
たぶん旅路での護身用の武器か何かだろう。
この国は情勢は一応安定しているものの、国外の人には厳しい地域もある。
森や人気のほとんどない所にはモンスターも出るのだから、武器は必要不可欠だろう。
そして、背の低い方が顔を上げた瞬間。
「ぁ……。」
ふわりと、懐かしい香りが
したような気がした
黒い瞳に、黒い髪に、紅い装束に。
そしてどこかで見たことのある顔に、目を奪われる。
息をすることさえ忘れるほど魅せられて、意識は深くどこかに引きずり込まれる。
一瞬の眩暈(めまい)と、それに続く浮遊感。
地面に吸い込まれるように視界が傾(かし)ぐ。
歪んだ視界の中に見えた男の人が、口を大きく開けた様に見えた。
「っ!!」
白濁する意識の中で聞こえた叫びは、聞き覚えの無い、だけど懐かしい声だった。
『君は忘れなくてはいけない。』
今、はっきりと自覚した
また、だ。
また同じ夢を、見る。
曇った空。
僅かに差し込んでいる光は、周囲を見るには十分ではない。
すぐ側に居るはずの相手の顔も、何も見えない。
「全て忘れなくてはいけない。僕のことを。君の気持ちを。」
「如何して?」
妙にはっきりとした意識で訊ねる。
自分という意識はほとんど無いというのに、声も何もかもが鮮明だ。
そして、どこかに既視感がある。
まるで、同じ事を何度も繰り返しているかのように。
「夢、だから。」
「ゆ、め?」
「そう。夢、だ。」
彼は"夢"という言葉を強調するような言い方をする。
夢、だと。
夢、でしかないと。
雲の隙間から明るい月が現れる。
目の前の彼が月を背負っているかのように見える。
今度は月の光で相手の顔が見えない。
相手が誰か分からない。
表情も分からない。
細かい動きも分からない。
だけど、確信している。
彼はちょっと困ったような顔をしているのだ、と。
「君は目覚めるとベッドの中。君のお兄さんが朝ごはんを作りながら、早く起きろと君に声をかける。いつもと同じ朝だ。」
「うん。」
「君は外気の寒さから逃れようと毛布により深く埋まる。いつも通りお兄さんは君を起こしに部屋に来る。毛布を奪われた君は強制的に覚醒させられるんだ。」
「うん。」
「そして……。」
言い辛そうに少し言葉を溜める。
彼に迷いがある時の癖だ。
私は何故か曖昧になる思考回路でそんな事を考えた。
徐々に遠退く意識の中で……。
「僕は居ない。」
忘れたくない、と。
絶対に忘れてはならない、と。
本当の私が叫んでいた。
next
あとがき+++
他にある書きかけの連載も放っておいて、こればっかり書いている気が……。
突発連載は楽だけど難しいです(ってか文字書きとしては失格でしょうが)
まず、先の展開を気にしながら書く必要が無い。
思いつくままに書ける。
だけど、まとまりがなくなる可能性がある。
その上つながらなくなった時に修正が非常に難しい(汗)
だから、計画的に書けって。
by碧種
06.03.22