「コレは夢だよ。」


優しい声は



そう囁いた










Beautiful dreamer    1










。」


心地いい夢ではない、現実からの声に意識が浮上し始める。
内容も覚えていない、それでもとても懐かしいような、悲しい様な夢が離れていく。
無意識にその夢を引き止めようとした。


「起ーきーろっ!!」
「っわ!?」


突然の襲撃。
毛布を奪われ、無防備な身体が冬の冷たい空気に晒された。
その衝撃で急激に意識が覚醒する。


覚醒に伴う忘却。



夢。

夢の中で起きた事。
夢の中で出会った人。
夢の中で体験した感情。



たぶん毎日同じ夢を見ていると言うのに。
寝起きに感じる喪失感が夢の内容が同じものだと語っているのに。
繰り返し繰り返し忘れてしまうのだ。


「お目覚めかな?」


目の前には兄の不機嫌そうな顔があった。

いつも通りに眉だけで怒りの表情を表している。
いつも通りに目と口は笑っている。

そのいかにも何か言いたげな表情に背筋に冷たい物が伝う。


「バッチリです。」
「じゃ、さっさと着替えて下りて来いよ?」
「了解。」


兄が去っていくのを見て、のそのそと動き始める。

寝間着を脱いで普段着に袖を通す。
ベッド脇にある小窓を換気する為に開けると、冷たい空気が流れ込んできた。

外気の冷たさに身震いをした。
温めた訳でもない息が白くなった。


「寒っ。」


一人呟いて開けたばかりの窓を閉める。





また、一段と冬が深まってきた事に気付いた。





〜?」
「ぅひゃあ!!」


気配も無く兄が背後に立っていた。
唐突に話しかけられて、驚きの余り変な声が出る。
振り返ると、さっきにも増して怒っている兄が居た。


「いつまで呆けてる気かな?」
「い、今行きます。」
「朝飯冷めるぞ。」
「……はい。」





こうして、いつも通りの朝が始まる。





テーブルの上に並ぶメニューはいつも通り。


こんがりと焼けたトースト。
少し甘いプレーンオムレツ。
新鮮なサラダとフルーツ。

温かい匂いと、甘い匂い。


イスを引いて座ると、兄もほぼ同時に私の正面に座る。


「いただきます。」
「どうぞ、召し上がれ。」


サラダを食べ終わって、トーストに手を付け始める。
すると、正面から兄がじっと私を見ている。

じっと、観察されている様な気がした。


「どうかしたの?兄。」
「いや、大した事じゃねぇけど……。」
「何?」
「最近顔色悪くねぇか?」


トーストと一緒にその言葉を噛み締める。
甘くて香ばしい匂いが広がるその香りに酔いしれながら、ぼんやりと考える。

顔色が悪い……か。

答えが見つからない。
私には自覚が全く無いのだ。


「そう、かな?私は全然元気なつもりなんだけど?」
「お前がそう言うなら良いんだけどな。気をつけろよ?」
「分かってるって!」


ここ数日、いろいろな人に顔色が悪いと指摘されるようになってきた。
おそらく本当に顔色が悪いのだろう。
だけどそれは私だけには解ることが出来ない事だ。
何故ならそれは私には感じ取ることが出来ない異変だったからだ。
ふと時計版を見て、出勤の時間が迫っていることに気付かされる。


「やばっ。」
「おー、なかなか時間が迫ってるなぁ。」
「呑気なこと言ってないでよ!!」


目の前にある朝食を急いで口に運ぶ。
現前に置かれた謎もその忙しなさに流されていった。





それが如何(いか)に重要か
それが如何(いか)に無視してはならない事か


それがすぐにでも解決すべき事で

そうしなくては全てが瓦解するとも知らずに





私は日常と信じているモノだけを見ていた










next





あとがき+++

思いつくがまま、突発的に書きましたが……。
私の典型的パターンで、また長くなってしまうようです。

しかも最長記録更新しそうな勢いで(苦笑)

オチがどうなるか分からないので、当面はDEEP扱いです(笑)


毎度の事ながらええ加減にせぃと言いたくなるような無計画ぶりですが、そこを楽しんでいただければ幸いです。


by碧種


06.03.21