あーーーーー!!!!


何で騒がしいんだ、コノヤロウ!!










悪夢の二月十四日(バレンタイン)前哨(ぜんしょう)戦  in 青春学園高等部










静かな朝の清々しいこと。
まだ校内には朝練組しかいない。
掛け声が微かに遠くから聞こえる。



その声が悲鳴に変わるまでには、一時間もかからなかった。





「んで?」


なぜか保健室に8人が集まった。
そう、8人だ。
ばっちり8人。
一人として欠けることなく8人。
かの有名な青春学園高等部テニス部レギュラーの皆さんだ。
それぞれに思い思いの場所で隠れている。

そのカッコイイと叫ばれるレギュラーの面々を前にして私は問う。
何故ここに来たのか、と。

そりゃあ世間一般の男子高校生なんて目じゃないくらい、彼らはカッコいいと思う。
彼らと一緒に過ごすなんて夢みたいだという女子もいる。


が。


それとは別に迷惑なんだから仕方ない。


「すまないとは思っている。」
「ただ匿(かくま)ってくれるだけで良いから……。」
「今外に出ると生きて帰れないっすよぉ〜。」


代表の手塚がまず謝る。
現在高校二年生。
老け顔も相変わらずだ。
しかし手塚がいるのは保健室の角で、謝るその言葉に説得力はない。

というより情(なさ)けない……。

それに続いて大石が言葉を濁しながらも用件を言う。
彼への突っ込みどころは、ベッドの横の椅子の横に座っている事だ。
床にジャージ姿のまま座り込んでいる。

最後に桃城が両手を組んで縋(すが)る。
こいつは入り口の戸にへばり付いている。
鍵は閉めたっつーのに、人の気配に一々怯えている。


「今すぐ出て行け。そして生贄(いけにえ)になって来い。」


冷たく言い捨てる。

私はこの部屋の真ん中にある机に向かっている。
保健委員の仕事をやっている真っ最中だ。


「そんなぁ〜。」
「酷いなぁ、さん。」


手塚よりも情けない声を上げたのは菊丸。
ベッドの中に隠れて、掛け布団から顔だけを出している。

いつもと同じ笑顔を振りまきつつ言ったのは不二。
だけど不二がいる場所は薬棚の影だ。

どいつもこいつも情けないったらありゃしない。

仕舞いには、私が向かっている机の陰に隠れている乾が独り言を言っている。
ハッキリ言って不気味だ。


「今すぐここから同時に出て女子に捕まる確立。
 手塚97.8%、不二97.9%、菊丸95.7%、大石96.1%、河村92.1%、俺93.6%、桃城94.5%、海堂92.8%。
 力で押し切って逃げ切れない確立。
 手塚・菊丸・大石・海堂・桃城98.759%、河村・俺91.38%、不二91.23%……。」
「え?」


聞こえてきたのは不吉な数字だった。
この場にいる誰もが、背中に嫌な汗が伝う感触を味わった。
乾がデータノートを基にして出した確立は、人間に関わる事ほど当たりやすい。
それはこの場にいる全員が教室に、ましてや家に帰ることなど到底出来ないという事になる。
更に言うなら、そのデータによって彼らはここに来たわけだ。


『逃げられるところ。
 教室0%、部室3.5%、その他特別教室21.6%、職員室0.25%、保健室62.8%……。』


8割には届かないものの、校内のどこよりも安全だと思ったらしい。
私がいるから追い出される可能性も高いというのに……。


さん!!」
先輩!!」


懇願(こんがん)するような目線を、この部屋にいる全員に向けられた。

外からの入り口の近くにいる海堂。
窓際に突っ立っている河村。
その二人でさえもこっちを見ていた。


「うっ……。」


その強い視線たちに一瞬後退する。
後退……といっても、囲まれているのだから後ろはないのだが……。


さんが一人でここから出て教室までいける確立。0.03%……。」


乾が私に追い討ちをかけるように言った。
口元に不敵な、不気味な笑みを浮かべながら。

どうせ君も逃げられないよ、と。

既にこの教室は包囲されているに等しい。
ほとんどの女子たちが彼らの居場所を嗅ぎつけて、出入り口に集結している。
逃げ場はどこにもない。


「あんたらが登校してこなければよかったんだ。」
「そう言うな。十四日が休日だという事を失念していただけだ。」


その"だけ"ってのが私にとっては大いなる迷惑となっているけどね!

青学レギュラー陣が揃いも揃ってバレンタインデイが休日だという事を忘れていた。
前代未聞の大問題だ。
その迂闊(うかつ)さが命取りだった。





朝練が終わると、着替えもせずに部室を出て行く部員たち。
部室に入ろうとして部室前を見てみれば、取り囲む準備をしている女子たち。
それを見た瞬間、体が勝手に逃げたそうだ。


「あ、あれ……。何?!」


菊丸が女子たちの殺気立った視線を思い出して言う。
ただ事ではない。
人数といい、彼女たちの勢いといい、普通ではなかった。


「今日は誰かの誕生日か?」


テニスコートの横を完全に走り抜けて、後ろを振り返りながら大石が問う。
今は女子たちの姿が見えない。


「明日が氷帝の鳳が誕生日だ。」


的外れな答えを乾が出す。
データマンだけに他校の選手たちの情報さえも握っているのだ。


「関係ないでしょ!」


すかさず菊丸が突っ込む。
狙われているのは自分たちの部室であり、この中の誰かなのは明確だった。
更に乾が答える。


「16日後が不二の誕生日だ。」
「それには早すぎるよね。」


本人が否定するくらいありえない。
今まではそんな天変地異みたいな事はなかった。


「じゃあ何だってんだ。」


海堂の低いがよく聞こえる声が困惑している。

普段から人気がない場所に出る。
一旦そこで足を止めて考える。

あ、と声を上げたのは今まで何も言わなかった手塚だった。


「明日はバレンタインデーか?」
「あ……。」


残りの全員も声を上げる。

明日はバレンタインデー。
でも明日は部活動などはあるものの休日だ。


『休日にわざわざ学校に来るより、前日に渡してしまえ!』


そう思った女子に自分たちは追いかけられているのだ。
簡単に逃げ切れる訳がない。


「どこが一番安全だ?」


手塚の問いかけに、即座にデータノートを開く乾。
数秒ノートを見て確率を宣言する。


「逃げられるところ。
 教室0%、部室3.5%、その他特別教室21.6%、職員室0.25%、保健室62.8%……。」
「よし。保健室だ!」


そう言うが早いか、全員がまた走り出した。





そして今に至る。





「はあ……。」


ため息を吐いて頭を抱える。

誰もこの空間から出られないという事は、乾が言うまでもなく分かっていた。
どうせこの場に止まらなくてはいけないのだ。


仕事をしなくては。


そう思って机に向かう。
どう足掻いたって現状は変えられないのだ。


「仕方ない。とにかく静かにしなさい。」


一言言って保健室に設置されている内線を手に取る。
連絡先は校務室。


「もしもし、保健委員のです。テニス部レギュラーと一緒に保健室から出られなくなりました。…原因ですか……。何もご存知でないのなら保健室までいらしてください。…………あ、はい。よろしくお願いします。」


受話器を置いて、もう一度ため息を吐く。
8人の注意が私に集まった。


「先生の了解はとったよ。人並みが引いたらここから脱出。男テニの部室に行ってそこで待機。」



今日は大変な一日になりそうだ……。





その日、保健委員1名とテニス部員8名が各々の教室に姿を現すことはなかった……。















あとがき+++

無理やり終わらせた感が……。
まあいいか。

初青学オールキャラギャグです。(都合上越前居ないけど)
流石に、中3の手塚さんはバレンタインに戻ってきてるとは思えないし、
高3の彼らが大学入試の大切な時期に部活やってるとは思えないし、
これが最大人数かなぁと。
今度機会があれば、越前君も出られるようにしよう。

恋愛要素全く無しでギャグに徹したのは初めてなので、感想がいただければ幸いですv
氷帝も書きたいけど、間に合うかなぁ……。


by碧種


04.02.12