これ以上、君を傷付けたくないから……










別れ話










久しぶりのデート。
短い沈黙の後に出た言葉は、残酷とも思えた。


「もう、やめにしない?」
「え?」


いつもの喫茶店。
注文はアイスコーヒー二つ。

桃も私も三年になり忙しくなって、会えなくなった。
桃は部活、私は生徒会。
彼は練習と、部員をまとめるのに追われていた。
私は書類整理と、役員の信頼を集める事に追われていた。
そんな忙しい日々を過ごして気が付けば……。



もうすぐ夏休み。



桃はあと数日で大会があるって言ってた。
そんな大変な時期なのに、私と居る時間を作ってくれる。



そういう、君の優しさが好きだよ……。
だから……。



「別れましょう。」
「なんでっだよ!?」


私の言葉に対して、間髪入れずに問う。
何故?と。

でも、桃だって初めから分かってたはずだよ?
駄目になるって事は……。
だって……。


だって私は手塚先輩が好きで、君は杏ちゃんが好きなんだから。


「本当に好きな人以外と付き合うなんて、普通に考えれば変でしょ?」
「そんな……。」
「それとも私に情が移って別れられない?」


出来る限り冷たく振舞う。
桃は下を向いて黙る。

それが困った時の癖だって知ってる人は、何人いるのかな?
少なくとも私は知っている。
そう、私は桃のことなら何でも知ってるつもり。
桃のことが好きだっていうのは本当。
本当は手塚先輩のことは吹っ切れてる。



だけど、君は違う。



「桃は、まだ杏ちゃんのことが好きでしょ?」
「…………。」


沈黙は肯定だよ、桃。


そう思いながらも、口には出さない。
言えば桃は言葉を返そうと、頑張ってしまうから。





はそれで良いのか?」





長い沈黙を挟んで、やっと桃が出した答えはこうだった。


「ええ。」


その答えに短く答える。
ついでに笑顔をいうおまけも付けて。

長い答えを言うと、口が滑ってボロが出そうだから。
笑顔を作っておかないと、涙が出そうだから。


「……そっか。」


頭を抱えて、下を向く。

それは何か寂しい時にする癖だよ?
何で今その動きをするの?

私の位置からだと、桃の表情は読めない。
だから動きだけで判断しようとしてるんだけど、どうしてか何かが違う。
癖は知っていても、本当の気持ちは解らない。

窓の外を眺めている桃の顔は、やっぱりどこか寂しそうだった。

でもここで別れない訳にはいかない。


「……大会。」
「ん?」
「頑張って。」
「おう。」


これで最後にしなくちゃいけない。
だって、私は優しい君に嘘を吐かせたくないから……。
いつまでもこんな理由のこの歪んだ関係を続けさせる訳にはいかないから……。





コーヒーを飲み終わって、いつもの喫茶店を出る。
いつも通り桃の奢り。
いつもと違うのは、私と桃の表情。

いつもの道を歩き出す。
いつもと違うのは、私と桃の微妙な距離。


「なあ、。」
「何?」


不意に声を掛けられて少し驚く。
でもここで動揺したら、別れ話をしたのが無駄になってしまう。
言葉がなかなか返ってこないのを不思議に思って、桃の方を見る。


「桃?」
「ずっと、って呼んでもいいか?」


思ってもみなかった言葉に、僅かに動揺する。



ヤバイ。
決心が揺らぎそうだ。



「別に、好きにすれば。」
「んじゃ、って呼ぶからな。」


ニコッと答える桃。
折角作った私の表情が、徐々に崩れる。

そんな表情(カオ)されたら、何も言えなくなるでしょ?





いつも別れる所まで、沈黙が続いた。
お互いに、この場所から家まで五分弱。


ここで終わり。
これで最後。





。」
「何?」


さっきと同じやり取り。
今度はすぐに桃の方を向く。
すると……。


「これで、最後だから。」


その一言と同時に、抱きしめられた。
驚きのあまり、声が出なかった。


「最後だから……。」


桃がそう言った声は泣いている様にも思えて、何も言えなかった。





「じゃあな。」
「うん。」


しばらくして腕から開放されると、桃は明るく別れの言葉を言った。

いつも通りの言葉。
いつもとは意味が違う言葉。

桃のうしろ姿が見えなくなるまで、桃をじっと見ていた。
少しすると見えなくなる背中。


「ふう。」


ため息を吐いてから、私も帰路につく。
一歩、また一歩と進むにつれて、涙が溢れる。





『最後だから』は『次はない』で……。

『じゃあな。』は『さよなら』。





そうだと知っていても、諦めきれない自分が居たんだ……。















あとがき+++

桃ちゃんごめんよ。
杏ちゃんとの事をネタにしました。

さんは一度諦めた時点で負けてしまったのです。
杏ちゃんに(笑)

本当は手塚氏ではなく、菊猫が好きな相手だったのですが……。
手塚氏ではないと話が不安定な事に気付き、再び変更。(←ここ注目(笑))

キライになれずに終わる関係ほど、痛いものはないですよ〜(悪魔のささやき風)
頑張れ桃ちゃん、諦めるな桃ちゃん!!
気が向いたら続きを書いてあげるから!!(笑)

by碧種


03.10.01