ある日誰かが言いました
『タイムリミットは明後日です』
デイ・アフター・トゥモロー
『周ちゃん、周ちゃん!!』
「何だい、?」
電話口から愛しい声が僕の名前を呼ぶ。
メールや普段の会話でコミュニケーションは事足りているというのに、不意の電話。
用件は何だろうと、少し構えてしまう。
僅かに感じる嫌な予感と、その反面、電話に対する嬉しさがある。
しかし、彼女の口から飛び出した言葉は、あまりにも突拍子のない言葉だった。
『明後日地球が滅亡するとしたら、周ちゃんはどうする?』
「え?」
『だから、どっかの誰かが、明後日で地球が滅亡するって宣言するの!そしたら、周ちゃんは何をしたい?』
あまりに突然のことに僕が驚いているのを、彼女はどうやら話を理解していないと勘違いしたらしい。
具体的な状況設定をわざわざ加えてくれたのだけど、そんなことは全く関係ない。
どうしてそんな突飛な発想をしたのかを説明してくれなくては意味がない。
そしてその原因が僕でないことに安堵したい。
『何でもいいから、早く答えて!!』
僕が思考を廻らせている間に、彼女は痺れを切らせかけているようだった。
あまりにも懸命に僕に尋ねるものだから、本当に真剣に考えてみる。
タイムリミットは明後日です。
さあ、貴方ならどうしますか?
「んー。とりあえず、の所に駆けつけようかな。」
『……どうして?』
「だって、は天然だから、明後日と明日を間違えてるかもしれないでしょ?」
『っ!!真面目に答えてよ!!』
「ふふふ。」
理由を真面目に答えるのも恥ずかしいからふざけたら、彼女に怒られた。
電話の向こう側ではきっと、彼女が顔を真っ赤にして怒っているだろう。
その怒る声さえも愛しく思えることに、彼女にどれだけ溺れているかを思い知らされる。
例えば誰かが、明後日地球が滅びると予言したとしても。
例えば彗星が、あと数時間で地球めがけて飛んでくるとしても。
例えどんなことが起きるとしても。
君さえいれば……。
「大丈夫だよ。」
『え?何が?』
「秘密。」
君がいることが全てだと考えてしまうくらい、君の存在が大事。
君といる場所だけが僕の世界に見えてしまうくらい、君の存在が重要。
君が僕の全てと言えてしまうくらい、君が愛しい。
それが本当の答えだけど……。
言ってしまうのは勿体無いし恥ずかしいから、には秘密。
電話の向こうでは、僕の秘密を暴こうと、が必死になっている。
『何が秘密なの?周ちゃん。』
「ふふふ。」
『周ちゃんってば!』
笑ってかわそうとしてもきっと出来ない。
必死になってる様子があまりにも可愛らしいから、少しの間言わないだけ。
だって、理由を教えたらの喜ぶ声が聞けるでしょ?
「何でがそんな質問をするのか教えてくれたら、何が秘密が教えてあげる。」
『え〜。』
「の答えを聞けないなら、僕も教えないよ。」
『それは嫌っ。』
分かりやすい反応に、思わず笑みが零れる。
嫌と言いながらも、なかなか本当の事を教えてはくれないのは、きっと大した事ない理由だからだ。
「教えてくれるよね、。」
少しだけ強気で押してみると、思っていた以上に簡単に、彼女の不安の原因が分かった。
『あのね、周ちゃん……。』
どうやら彼女は、ある映画を見たらしい。
そしてその映画の中では、明後日に世界が終わる、という予言がされる。
世界が終わる原因をなくそうとして奮闘する主人公と、それを妨害する敵役。
彼らを取り巻く物語だけでなく、予言を聞いた人々のサイドストーリーも含まれた内容だったそうだ。
「それで?」
『……だからね、周ちゃんはどうするのかなって思ったの。』
「ふ〜ん。」
すごく簡単で、他の誰かにとってはどうでも良いような事。
だけどそれが彼女にとってはとても重要だったみたいだ。
世界が終わるという事に、誰よりも過敏に反応した彼女は、僕の反応を知りたかったらしい。
「僕はに会いに行くよ。はどうするの?」
僕の悪戯心に火をつけたのに気付かないは、問いかけに戸惑う。
『周ちゃん?』
「どうするの?」
『私……。』
少しの沈黙。
息をする音さえ受話器越しに聞こえるんじゃないかってくらい静かだ。
早く答えが欲しくて、でも促すような言葉は思いつかない。
『私も周ちゃんに会いに行く。』
「何で?」
『周ちゃんと一緒なら、世界が終わっても大丈夫だから。』
彼女がさらりと言った言葉は、僕の言いたかった言葉とほとんど同じだった。
驚くほど同じ事を考えていたんだなぁ、と思わず感心する。
「僕も同じだよ。」
意識せずとも出た甘い声は、彼女をとても喜ばせた。
君がいれば
世界の終わりさえ
怖くはないって事
あとがき+++
まともな不二は初ですね(笑)
大魔王らしからぬ、真っ白な感じの出来上がりにちょっと満足しております。
これを書き始めたきっかけは、いつぞやのロードショーで『デイ・アフター・トゥモロー』が上映されたことなんです(確か年末に……)
書き終わりまでずいぶんと時間がかかってしまったのですが、いかかでしょう?
やっぱり世界が終わる瞬間は、大切な人と過ごしたいですよね。
by碧種
07.02.??