いつも、調理室から漂ってくる匂い
それは
それは、美味しそうな……
sweet 1
今週も調理室の前を通る。
『料理部☆毎週木曜に活動中!!』
今日はどうやらケーキを作っているようだ。
中からは甘い匂いが漂ってくる。
「あ、大石君!」
「こんにちは、さん。」
目的は、ケーキでもさんでもない。
そのことはさんもよく知っている。
毎週木曜日には、部活をちょっと抜けてここに来る。
窓の前を通ってさんと少し話す。
でも本当の目的は……。
「せ〜んぱい!カップケーキ焼けましたよ。」
「あ、出来た?」
小走りでさんに近づいてきたのは、さん。
身長が低くて、小動物みたいだ。
漆黒(しっこく)の髪を一つに束ねている。
二年生で一番料理が上手いという噂がある。
実際、とても料理が上手い。
俺の存在に気付いたらしく挨拶をしてきた。
「あっ。こ、こんにちは。」
「こんにちは。」
少し動揺しながらも笑顔で挨拶(あいさつ)を返す。
さんは赤面症なうえ、人見知りをする。
去年から毎週来ることで顔を覚えてもらい、やっと話せるようになった。
「ちゃん、大石君にケーキあげたら?」
「えっ?!で、でも……。」
ケーキを乗せた籠(かご)を持っておどおどしている。
いつもの事だ。
さんは俺がさんを好きなことを知っている。
と、いうより白状させられた。
バレてからは協力してくれている。
「気を遣わなくていいんだよ、さん。」
「へ?」
「俺もう練習に戻るし。」
さんの顔が、折角チャンスを作ってやったのにと言っている。
だけど彼女は困ってるからさ、ね。
じゃあ、と言ってその場を離れようとしたら、さんの手に阻まれた。
「おっ大石先輩!!」
「ん?なんだい?」
ジャージの袖を掴んだのと反対の手を差し出す。
その手の上には、カップケーキが乗っていた。
「これは……。」
聞くまでも無くさんお手製のカップケーキなのだが……。
「練習頑張って下さい!!!」
俺の手にケーキを渡すと、そのまま調理室の奥に走っていってしまった。
「………………。」
「良かったな、大石君。」
「……喜んで、良いのかな?」
手に乗った小さなカップケーキを見つめる。
程良く焼き色が付いていて、とても美味しそうだ。
何故これをくれたのかは分からない。
「ちゃんお手製だよ。喜ぶべきだろ?」
「俺、期待しちゃうよ?」
「いんじゃない。期待ぐらいしても。」
さんとしばらく会話をしてから、その場を離れる。
本当は、毎週告白しようと思ってここに来るんだけど、上手く切り出せない。
何回も試みるけど、勇気が出ない。
焦るばかりで、言葉は出ない。
結局チャンスを逃す。
そんな繰り返しは、そろそろ終わりにしたいと、そう思う。
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あとがき*
長くなりすぎたので、二部に分けました。
後編も同じくらいの長さあるもんで(苦笑)
後半の方が楽しく書いていたりします。
ではでは、後半もお楽しみ下さい♪
by碧種
03.08.19