欲しかったのは
その笑顔
初恋 9
私は一体、今まで何を見ていたのだろう。
驚くしかない彼の告白に、気が付いたら自宅まで戻っていた。
そこまでの道のりが、全く記憶に残らないくらいに気は動転していたし、何より、彼の言葉に何か返したのかさえ覚えてはいない。
煩いくらい鳴り止まない心臓の音は、きっと走った所為だと思うことにして、そのまま寝てしまったことは辛うじて覚えている。
そして今、すでに日付も変わり、燦燦と降り注ぐ太陽の下、映画を見る為に親友と共にいる。
「……って、お〜い、ちゃん?ってば!!」
「ん?あぁ、ごめん。それでなんだっけ?」
「や、全くの無視ですか……。」
いつもの喫茶店で、今日は遅めのランチを食べて、その後映画を見る予定をしている。
蒸し暑いこの日でも、屋外設置の席まで満員になるほど繁盛しているこの喫茶店は、高校に入ってから、と二人で開拓したお店だった。
今日のランチは、私はホットサンドプレートに紅茶。
は日替わりパスタにコーヒー。
私は、ホットサンドについているサラダをフォークでつつき上の空。
は、そんな私の様子を見かねてか、パスタをフォークに絡めては解くの繰り返し。
つまり、大好物を目の前にしているのに、どうにも食事が進んでいないという状況だ。
私に至っては、の話の10分の1も聞いていなかった。
「もー、ってば、ホントどうしちゃったのさ!このさんに相談してみなって。」
こんな時だけお姉さん面をするのはいつものこと。
何か情報を掴んでいるくせに、全くそのことを教えてはくれないのだからズルイ。
そんな態度のに、あきれ半分尋ねてみる。
「、なんで手塚君のことよく知ってんの?」
「そこはノー…。」
「ノーコメは前回使いました。」
「じゃ、じゃぁ…。」
「もはやちゃんに黙秘権はありません。」
うっ、と言葉に詰まるに、徹底攻撃を加える。
さぁ吐け、と強気に迫り、冷めていくランチさえ気にしない。
事が全て起きてしまった今となっては、と手塚君の関わりなんて些細なこと。
だけど、何か、すごく大事なことが隠されているような気がした。
とても、重要な……。
「ぶ、ぶっちゃけ〜。」
「ぶっちゃけ?」
どこのギャルだ、と突っ込みたくなる気持ちを抑えての言葉を待つ。
ふざけた雰囲気で誤魔化そうとしているが、そうはさせないとばかりに鸚鵡返ししてやる。
視線を泳がせながら、私の尋問に嫌な汗を流している。
逃がすまいと一挙手一投足を見つめる私。
しどろもどろに、ふざけた雰囲気を交えながら、は言う。
「手塚君とぉ……。」
「と…?」
「幼馴染的な感じぃ?」
「なるほどね……、って、は??」
テヘッという効果音がお似合いの表情をしたは、とんでもない隠し事をしていた。
無駄に手塚君情報を垂れ流せた理由が、ようやく分かった。
その上、元々知り合いだったということは、そもそも最初からの手の上だったということ。
そもそも、改めて手塚君を認識したテニス大会を見に行ったのも、の誘いがあったからだ。
「最初にテニス部見に行ったトコから、アンタの計略どおりってことか!!!」
「計略っていうかぁ〜、作戦??」
「疑問系を使うな!疑問系を!!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて……。」
周囲を気にせず、ダンダンッとテーブルを叩いて猛抗議をする。
それを宥めすかそうとするの後ろでは、他のお客さんが興味津々といった風にこちらをみていたので、流石に気が引けて声のトーンを落とす。
頭の中をいろいろなことが駆け巡る。
何故か連れて行かれたテニス大会。
青学から遠い本屋で出会った手塚君。
からもたらされる無駄に多い手塚君情報。
そして、迷い無く出されたカフェオレ。
よくよく考えたら、が共謀しているのはあからさまだった。
「がテニスしてんのは知ってたけど……。」
「だって、仕方ないじゃない?幼馴染の初恋だもの。」
初恋ってのも初耳。
驚きで絶句しかけたけれど、どうにか言葉を繋ぐ。
「でも、年下よ?私の好みを熟知したちゃんとは思えない無策加減だわ。」
「まあ、ねぇ。もちろん、あの子が最初に言ってきたときはバッサリ切り捨てたよ。」
頭の整理が付いてきたところで、今まで置き去りになっていたランチに口をつける。
中学1年の始業式からの付き合いのとは、何でも相談しあえる仲だ。
勉強、ファッション、趣味、そして恋愛も。
だから私の異性の好みなんて、知り尽くしているはずなのに……。
「ちゃんは、年上好み通り越してオジコンだから無理よ、ってね。」
「うわぁ、アンタ人の趣向をなんて言葉で表現してくれるのよ。」
「サラリーマンのスーツ姿に萌えるちゃんに、反論の余地は無いと思うけど??」
の言うとおり、反論の余地は無いけど……。
でも、何か言いようってあるじゃない?
そんなことを思いながらも、漸く饒舌になってきたの話を聞く。
「も思い出したんでしょ?中一当初の手塚君。」
「……可愛らしい男の子だったね。」
「それが私たちが卒業してからメキメキ成長して、今じゃ年齢不詳よ?しかも、ずっとのこと諦めてないし。ぱっと見大学生じゃない?」
「……まぁね。」
問いかけてくるに、曖昧に頷く。
大学生どころか先生かとさえ思ったことは、秘密にしておこう。
「ちゃんも浮いた話あんまないし、コレはチャンス!と思ってさ〜。」
「……。アンタって子は……。」
「あはははは……。」
笑ってごまかそうとするを、キッと睨み付ける。
へらへらした表情に若干の冷や汗を滲ませながら、は二の句を継ぐ。
「でも、ちゃんとしても悪い気はしないでしょ?」
「どの口がそんなことを言う??」
のほっぺたを軽く抓り上げ、ギブ、と言うまで力を加えた。
ここまで踊らされて、今更に降伏宣言をしてあげる必要は無い、と話をはぐらかし続けた。
じゃれ合いながらランチを終え、約束していた映画館に向かう。
チケットはランチ前に購入済みだったので、問題なくスクリーンの前に座った。
仲良く携帯電話の電源をオフにして、スクリーンに集中した。
毎年恒例、との映画鑑賞。
何年か連続で一緒に見ているシリーズものは、痛快なアクションと緻密なストーリーが特徴的。
バカっぽいトコもあれば次回作の伏線もしっかり引かれていて、二人揃ってはまっている。
そんな映画の感想を話しながら、劇場を出る。
存在を忘れかけていた携帯電話の電源を、がそそくさと入れるのを見て、彼氏のメールを気にしているなとぼんやりと考えていた。
その時……。
Riririririri……
「あ、アイツだ。」
唐突に鳴った着メロは、が彼氏くん専用に設定したものだった。
今日は後の約束は無いと言っていたはずで、の頭の上にもクエスチョンマークが出ているようだった。
「急用かもよ。出れば?」
「それじゃ、遠慮なく……。」
ちょっと照れたような表情のに、少しだけ羨ましいと思ってしまう。
それくらいには私の気持ちも手塚君に向かい始めているのかもしれない。
もしかしたら、自分で思っている以上に気になってしまっているのかもしれない。
嬉しそうに話し始めるの表情は、私にはきらきらしているように見えた。
「え?……冗談でしょ?」
楽しそうに話していたの表情が、徐々に曇っていく。
喜怒哀楽で言ったら『怒』の表情に塗り替えられていった。
喧嘩とも説教ともつかない様子で、電話口の彼氏に噛み付いているようだった。
剣呑な雰囲気で話を終えたは、無言で私の手を引き、どこかに連れて行こうとする。
「え、ちょっ、さん??」
「何よ。」
「や、どこに行くのかなぁ、と。」
振り返ったは、鋭い眼光で私の目を見た。
その瞳にはあからさまな怒りの表情が写っていて、思わず押し黙る。
「はついて来ればいいの!オーケー??」
「は、はい……。」
有無を言わさないその態度に私は従うより他なかった。
の向かう先に、何が待っているか。
私には想像も出来なかった……。
next
あとがき+++
ついにラストが見えてきたような、まだなような。
そろそろ落としどころにもって行きたいところです。
何はともあれ、オリキャラちゃん大暴走(笑)
やめられない、止まらない、なキャラでして……。
ちょっと浅乃をイメージしながら描いてみました(笑)
さて、次か、次の次か、そのまた次くらいには決着つけますよ!
11.08.27