果たして……
背中合わせの想いは
通じましたか?
背中 後
『君が失恋するのと同じ日に、私もいつも誰かに振られてる。』
ああ言ったのは失敗だったかな、とか。
『背中合わせが一番遠い。』
『じゃあ……証明してよ。』
傷つけたかな?
きつかったかな?
なんて不安になったりして。
墓穴掘ったかな?
これじゃあ、ダメだ。
とか一人で焦った。
だけどキヨに引き寄せられて、暖かい腕に抱きしめられたら全部吹き飛んだ。
「っ?!」
「ほら、振り向かせた。」
耳元で囁かれた言葉は、本気かどうか分からない口調で言われた。
あくまで明るく、軽く。
この一言にどういう意味があるんだろう?
「どういう意味だか理解しかねますが。」
思っていた以上に動揺していた。
意識しても声が震えてしまうのを止められない。
「何が?」
「キヨの行動全てが。」
「う〜ん。困ったなぁ……。」
本当に困っているのか、よく分からない声が返ってくる。
出来るだけ平常心を保とうとする。
彼の言葉にも、行動にも、私が期待しているような意味は無いと。
私の冷静さを破壊する腕に、力が籠った。
「振り向かせられるってコト、証明したつもりなのに……。」
「一番好きな人じゃないと意味無いでしょ?」
「それはっ……。」
突然、キヨが口篭る。
「それは……。」
何かを言おうとして止める。
何度も何度もそれを繰り返す。
躊躇うように、戸惑うように。
こんなキヨは初めてだ。
キヨはいつもちゃらんぽらんで、ふざけてて……。
明るくて、軽くて、全部冗談にして……。
今のキヨは、怖いくらい真剣だ。
何度目か分からない。
キヨの肩が大きく動いた。
「それは……、俺の一番がちゃんだからだよ。」
初めて聞いた台詞に私は戸惑う。
「え?」
「好きだよ。」
一度言ったことで迷いが無くなったのか、さらりと言う。
さも当然と言わんがばかりだ。
「嘘。」
「嘘じゃない。」
信じられない、と言う気持ちがそのまま言葉になる。
そして彼はその気持ちを強く否定する。
「ずっと、好きだった。」
その言葉は私の平常心を、全てぶち壊した。
突然私を期待させる腕から開放された。
体温の低い手が頬に当てられて、上を向かされる。
困ったような彼の目が見えた。
また、君は私に期待させただけ?
「迷惑……だったかな?」
「…っんで?」
息が上手く出来ない。
苦しくて、もどかしい。
キヨは困ったように笑う。
「だって、泣いてるじゃん。」
指摘されてようやく気付く。
息苦しいのも、言葉が出ないのも泣いているからだ、と。
だけど……。
それだけじゃないと分かっている。
息苦しさも、もどかしさも、別のところから来ているんだ。
「やっぱ止めとこ。何か泣かせちゃったし。」
笑顔でキヨは手を離す。
本気か冗談か分からない笑顔だけ残して、私に背を向ける。
咄嗟(とっさ)に背中に手を伸ばす。
「何でっ……。」
「、ちゃん?」
「何で、折角振り向かせたくせに……。諦めるのさ!!」
言葉で綺麗な物に変える事も出来ない想い。
ただありのままの感情をぶつける事しか出来ない。
腕はキヨを捕まえて、顔は下を向いたまま。
灰色のコンクリートに吸い込まれていく涙を見る。
嬉しくて、苦しくて、哀しくて、溢れた涙は灰色を濃くする。
「私はとっくの昔に、キヨの方を見てるよ?!」
ハッとしたときには既に遅く。
言ってしまった言葉は取り消せない。
前を見ると、キヨが振り返った。
顔はいつもと同じニコニコとした表情に戻っている。
「マジで?」
嬉々とした表情で私を見る。
急に恥ずかしくなって、手を離して視線を外した。
顔が熱くなる。
「俺ってやっぱりラッキーだね。」
「な、何が。」
「とーぜん……。」
影が私の真上に落ちる。
キヨがすごく近くで囁いた。
『ちゃんを手に入れたから、でしょ。』
あとがき+++
あまりのオチの甘さに吐血(ぐはっ!!)
いや、あの、ですね……。
ハッピーエンドの予定だったんですよ、ちゃんと。
ただここまで甘くなるとはなぁ、とね。
"柊"のイメージからは程遠くなってしまいましたが、こんなオチもアリってことにしておいてください(苦笑)
清純君ですが……、明るいときは書きやすい!
とにかく今回の目標はラッキーと言わせて、メンゴと言わせないことでした。
今度書くときは逆でいきたいと思います(笑)
by碧種
04.10.05