不機嫌な携帯電話はなかなか繋がらない
今夜は
繋がらないのか?
今、何してる?
『もしもし、南?何かあった?』
携帯片手に諦め始めた頃、ようやく繋がった。
電話越しのの声は少し心配している様でもあった。
いつも用事がない限りメールで済ましているから、心配されているんだろう。
そこまで重要な事ではないけど……。
何を言うつもりだったか忘れた。
きっと珍しく電話なんてした所為だ。
「えっと。その、今……何してる?」
『今?』
「おう。」
その場凌ぎの言葉。
とりあえず、思い出すまで話を繋ぎたくて訊ねたしょうも無い質問。
『今は……部屋で勉強してるけど、何か用?』
返ってきた言葉と、手に触れている窓ガラスの冷たさに用件を思い出す。
ああ、そうだ。
だけどからyesがもらえる確信が無かったんだ。
ってか、こんな誘いは普通断わられるしな……。
ここまできてしまったものは仕方がないと諦める。
諦めついでにダメ元で用件を口に乗せた。
「今、外雪降ってんだけど……どっか行かねー?」
『雪?』
携帯の向こう側でカーテンレールの滑る音がした。
たぶん今、も俺と同じ様に白く染まった街を見たんだろう。
小さな歓声が上がった。
『ホント、真っ白だね。』
「気付いてなかったのか……。」
『うん。で、どこ行こうか?』
断わられるだろうと身構えたのは無駄だったらしい。
承諾の言葉からは今にも家から飛び出して行ってしまいそうな様子が伝わってくる。
その気持ちに応える為に急いで手近にあったコートを羽織る。
荷物は大して必要ないだろうと、財布と携帯用カイロを手に取った。
「暖かいカッコして、部屋で待っててくれないか?迎えに行くから。」
『わかった。待ってる。』
「じゃあな。」
『うん。』
の嬉しそうな声を聞き、電話を切って外へ駆け出す。
女の子のわりに外に出るのが好きな彼女は、きっと満面の笑みを浮かべながら待っているんだろう。
その様子を思い浮かべ思わず微笑む。
俺の家からそう遠くないの家までは走って5分。
全力疾走とまでは行かないけど、嬉しさで気持ちが急く。
走るのには邪魔という理由で傘も差さずに走った。
の家が見えてくると、雪の向こうに白い人影が見えた。
「?!」
「あ、南。早かったね。」
部屋で待っていろと言ったにも拘らず、彼女は外で傘も差さずに雪の中に立っていた。
その事に焦って手に持っていた傘を開いて彼女を引き寄せる。
髪の毛に積もっていた白い結晶を払い落としてやると、彼女はクスリと笑った。
「な、何だよ。」
「いやぁ、南君もなかなか大胆だなぁと思っただけだよ。」
「大胆?」
大胆という心当たりの無い言葉を投げかけられ、今の状況を整理する。
片手は傘を差し、もう片方の手はの頭の上。
彼女はされるがままに俺の差した傘の下にいる。
この状況に何の問題があると言うのだろうか?
考え込み始めた途端、の声に呼び戻された。
「南は、気にしないんだ?」
「何が?」
「なら良いや。行こう。」
コートの端を掴まれて歩き始めた。
けど、男物とはいえ小さい傘は二人並んで歩くには狭い。
どうしたって狭いから、傘からはみ出した部分に雪が積もる。
先を行こうとするには尚更積もる。
けれど彼女の向かっている所が分からなければ、このまま引っ張られっぱなしだ。
「!」
「ん、何?」
「どこへ行くんだ?」
「あそこの公園。」
寒々しい白い指が指す方向には入り口のような所が見える。
そういえば彼女は手袋もマフラーもしていない。
その事実に気付いたところで、彼女を傘の下に収めることで精一杯な俺がいる。
出来るだけが俺より前に行かないように、隣に並ぶように努める。
可能な限り距離を縮めて、傘をややの方に傾けて彼女を雪から守る努力をした。
「到着っ!」
「さすがに誰も居ないな。」
「こんな夜に、しかも雪が降ってるのに外に出る物好きは私たちぐらいでしょ。」
「それもそうだな。」
最もな意見に思わず頷いた。
それからすぐにコートのポケットに放りこまれたままのカイロをに渡す。
「ホラ。」
「あ、さんきゅ。」
人影の無い公園は一面銀世界。
昼間は子供が遊んでいるであろう遊具も、砂場も真白に染まっている。
当然それは普段大人や学生たちが座っているベンチも同様だ。
そして俺たちの息も当然冷気に当てられ白く染まる。
「さっむいねぇ。」
「雪降ってるしな。」
「こんな中外に出るなんて、やっぱ酔狂かな?」
「そりゃ、酔狂だろ。」
「やっぱそうだよね。」
二人で顔を見合わせて笑う。
ひとしきり笑ったところでに傘を差し出す。
はそれを受け取りながらくすくすと笑った。
「女の子に持たせますかね?」
「一時的になら、な。」
一呼吸置いて傘から飛び出し、目指すはちょっと離れたところに有る自販機。
寒さで動きの鈍い指で財布から硬貨を出し缶コーヒーを二本買う。
それからまた、の立っている場所まで戻る。
「南君、やっさしぃ。」
「はいはい。」
傘とコーヒーを交換すると、が茶化すように言った。
その冗談めいた言葉にさえかなり照れるが、そんな感情を笑顔で誤魔化す。
傘を持ったままプルトップを開けてコーヒーを飲み始める。
缶から白い湯気が上がっていた。
「南の計算無しな優しさ、私は好きだけどなぁ……。」
「えっ?!」
飲みかけのコーヒーが無音で雪に吸い込まれていった。
あとがき+++
拍手のss発展版です(笑)
久しぶりの南君です。
またしても似非です。
私が書くと告白オチ多いですね(これを告白と取るかどうかは微妙な所ですが(苦笑))
でも一作目よりは恋愛っぽいという事で。
by碧種
06.****