本当はいつも
一人どこかで

泣いていた?










Can you cry ?










『ありがとうございましたーー!!!』


両校の選手たちが挨拶をする。
その瞬間、私たちの夏は終わった。

相手校の選手と握手をして互いに言葉を掛け合い、そしてみんな帰ってきた。


「たっだいま〜。」


表面上は一番明るく帰ってきた千石。
その笑顔があまりにも痛々しくて、顔を隠すようにタオルをかけてやる。


「千石、お疲れ様。」
「ん。」


周りに見られていないということから力が抜けたようだ。
弱々しい返事が帰ってくるだけで、そのままベンチに座ってしまう。

それに続いて室町たちも帰ってきた。
選手一人一人にタオルを渡す。
東方までの全員には……。


「お疲れ、南。」
「ああ。」


一言声をかけてタオルを渡そうとする。
いつも南はタオルを受け取らないことは知っている。


「タオルは……。」
「…分かってるよ。」


差し出したタオルを引っ込める。
分かっていても今日こそは、と思ってタオルを渡そうとしているのだ。

それくらい分かってよ。
誰よりも見ていられない顔をしているのに……。

レギュラー全員がベンチに座り込む。
誰一人として口を開こうとしない。

そんな彼らを見ていられなくて、レギュラー以外が居る更衣室に行く。





私が行った時、更衣室前は白ランの男子でいっぱいだった。
ガヤガヤとざわめいている中から、後輩を一人見つけ出して声をかける。


「全員着替え終わった?」
「終わってるです!」


顔が少し見下ろす位置にある後輩、壇が元気よく答えた。
その頭を優しく撫でる。
そして着替え終わっている全員を先導するように言う。


「お願いね。」
「はいです!」





ベンチに戻ると、とてもじゃないけど声をかけられるような雰囲気じゃなかった。
みんな顔か頭にタオルをかけて、どこか遠くを眺めている。

誰もココに居なかった。

無理やり自分のテンションを上げる。


「はいはーい。みんな着替えようね〜。」


おかしいくらいに明るく振舞う。
その場に居る全員の意識は、こっちに戻ってくれたようだ。
私の声に真っ先に応えてくれたのは室町だった。


「子供扱いっすか?」


彼が応えたことによって、千石も調子を取り戻す。


「そりゃないよ、ちゃ〜ん。」
「確かに……。」


僅かに明るい空気が流れ始めた。
軽い笑い声も漏れてくる。

みんなのタオルを回収して、更衣室に向かわせた。
一人一人の声を聞いて、大丈夫かどうか確認する。
全員、元の調子に戻りつつあるみたいだ。

南以外は……。


「東方、南。」
「あ、……。」


東方からのリアクションはあった。
心配性の東方は、南の面倒を今まで見ていたらしい。
その東方を更衣室に行かせて、南の前にしゃがむ。


「おーい。南ぃ?大丈夫か?」


私の問い掛けに全く答えない。
膝を抱えて、体育座りをしたままだ。

南が小さい子どもの様に見えた。
ひ弱で頼りなくて、今にも消えてしまいそうだった。

何度呼びかけても反応がないから、無理矢理頭を上げさせる。


「み〜な〜み〜?」
「っ!!?」
「え……?」


顔を見て驚いた。

南は泣いていた。
そりゃもうボロボロと。
あまりの衝撃に一瞬怯む。

でも、頭で考えるより先に体が動いた。


「?!なっな……。」


頭を撫でると、泣いている顔に驚きが広がる。
言葉もまともに言えないくらい驚いているらしい。

今まで南は試合で負けても、一度も泣いていなかった。
そして反省会が終わると、一人姿を消していた。



今までも、一人どこかで、泣いていた?



どうしても訊ねたくなってしまう。


「なんで、一人で泣くの?」


南の周りには、東方とかレギュラーメンバーがいるのに……。
皆で分かち合っていけるはずなのに……。

なんで?

南はまた困ったような顔をする。
涙は止まっている。
ただ、さっきまで泣いていた痕があるだけだ。


こそ……。何で泣いてるの?」
「え?」


立場逆転。
今度は私が頭を撫でられている。

しばらくすると南が口を開いた。


「俺はわざわざ一人で泣いてるって自覚はないんだけどさ……。みんなの前では泣けないんだよな、何故か。」


普段と変わらない調子で言っている。
淡々と、静かに話す。

いつも南は、一人泣かずに皆を慰めている。
私も慰められた事がある。
一人だけ穏やかに落ち着いている。
それは南が大人だからだと思っていた。
でも違ったみたいだ。


「でも……。今日は何か、ダメだった。」
「そんな……。」


爽やかな笑顔で言う南。

そんな事はないと言いたかった。
でも言えなかった。
泣いても良いと言いたかった。
でも言葉に詰まった。

南が痛々しい笑顔でそんな事を言うから……。


「抑え切れなかった……。」
「泣いても…良いのに。」


小さな声で言った言葉は、どうにか伝わったらしい。
だから彼は優しい笑顔を浮かべている。


の所為だよ。」


突拍子もない言葉を言われる。
南の顔を見ようとしたら、引き寄せられた。


の所為だ。」


涙で滲む視界に彼だけが映っていた。















あとがき+++

はじめまして南ん。
そして、似非でごめんね南ん。
南君は好きなのですが……。
どうにもこうにもへタレで、千石に振り回されて、地味'sな彼しか思い浮かばないんですよ……。

ごめんね、ごめんね南ん(バカにしてないか?)

そして一つ疑問が浮上。
『東方』くんって、どう読むんですか?(フルネームで)
音読みして打てば、漢字は出てくるので良いのですが……。

もし、彼のドリを書く日が来たらっ!!

と思うとそれが分からないと困るかなぁと……。
どなたか(浅乃でもいいから!)メールで教えて下さい!
彼ほど印象がない人はいないもので、読みすら分からないのです(苦笑)
『東方』好きの方、お怒りにならずに教えて下さい。


by碧種


04.06.12





コートに部長とマネージャーを呼び戻しに戻ってきた、白ランの皆さん(笑)

千石「あー。南がちゃん泣かしてる〜。」
東方「あ……。」
室町「あ!千石先輩!!なにやろうとしてるんですか?!」
千石「当然邪魔しようとしてるんだよ(笑)」
壇 「あー!ダメです!!」
室町「そうですよ!ダメに決まってるじゃないですか!」
千石「ちぇー。」
東方(コイツら……大丈夫なのか?)