コレは横暴(おうぼう)以外の何物でもないと思うのですが……










HAPPEN!?〜跡部ver〜










朝からふざけたメールが届いた。
それは一応私の彼氏からのものであった。
内容は簡潔に一行。


『今すぐ俺の家に来い。』


非常に簡潔で、相手に意味が伝わりやすいだろう。
ただし、これが休みの日であればの話だ。


「どーしたの、?」


お菓子の甘い香りを漂わせながら近付いてきたのは、クラスメイトの芥川滋郎だった。
彼は、季節物のくせに年中店に並んでいるイチゴのポッキーを持っていた。

季節外れのお菓子を一本だけ奪い取る。

心の中で悪態(あくたい)を吐きながら、大した事はない事の顛末(てんまつ)を説明する。


「朝っぱらからこんなメールを送ってきた訳さ。」


今は朝のホームルーム15分前だ。
今日は平日で、普通に授業があって部活もある。
そんな時にこんな内容のメールはないだろう。
大体、メールを送った張本人だって登校しているはずだ。


「あー、跡部ならねぇ……。」


ポッキーを食べながらジローが話した。
それは私が聞いていなかった話だった。


「今日、風邪で休みだったよ。」


その一言で、私の脳は瞬間的に機能停止した。
たっぷり30秒間が空いてから、ようやく返事が出来た。


「マジで?」
「うん。マジマジ。」


その時、本日の私の予定が決定された。










数十分後には、跡部が一人暮らしをしているマンションの前に立っていた。
付き合い始めた頃に渡されて、一回も使った事がないマンションの鍵を片手に。


「見つかってよかった……。」


マンションの前で独り言を言う。

この二つの鍵は貰ったままだった。
一度も使う機会がなかったともいえる。
私の家の鍵と一緒にしておいたから見つかったものの、そうじゃなかったら家に帰る破目になっただろう。

エントランスからの豪華な装飾。
オートロックの入り口。
何度見ても普通のマンションとは一味違う。


「慣れないなぁ。」


オートロックの扉を抜けるとエレベーターが見える。
エレベーターに乗って最上階のボタンを押すと、数瞬後に独特の浮遊感に襲われる。
しばらくすると、見晴らしのいい場所に出る。
少し歩けば部屋はすぐそこだ。

跡部はたぶん寝ているはず。
チャイムを鳴らさずに自分で鍵を開けたほうがいいだろう。

手の中で暖かくなった鍵を鍵穴に差し込む。
カチリと小さな音がして鍵が開いた。
そっとドアを開けて中に入る。

いつもと変わらない殺風景な部屋。
ふとリビングのソファーの上を見てみると、蠢(うごめ)く物体がいた。


「ん?」


そこに居たのは……。


「あ、跡部?!」
「ぅるせぇ……。」


跡部は携帯を握り締めて、何も被らずにそこに居た。
パジャマのまま髪も梳かさずにそこに寝ていた。

悪態をついてはいるが、辛そうだ。

どこに自分の体調管理も出来ないテニス部部長が居る。
いや、ここにいらっしゃいますけどね。

ベッドに移動してもらう前に、とりあえずいろいろと質問する。
跡部は上半身を起こした状態でソファーの上に居る。
その側に言って視線の高さを合わせて話す。


「熱は測ったの?」
「38.2℃。」


さらりと教えられた言葉は予想を上回っていた。

思わず片手を跡部の額に当てる。
掌から伝わってきた温度は、言葉を裏付けるように高かった。
手を外してから部屋の中を見る。

あれ?

本来テーブルの上などに出ているべき物がない。


「風邪薬は飲んでないの?」
「一錠しかねぇし……。」


なるほど。
それじゃあ使えない。

その答えに妙に納得して、今度は他の事を考えてみる。

食事は摂ったのか、いつもの優しい家政婦さんはどこへ行ったのか、何でこんな所で寝ているのか……などなど。
気になることはいくらでも思いつく。

でも……。
今最優先されることは……。


「……ベッドに移動しましょうか。」
「嫌だ。」
「は?」


跡部の予想外の反論に素っ頓狂な声が出た。
跡部は起こしていた身体をもう一度ソファーに投げ出してしまった。
そして、クッションに顔を半分埋めた状態で見上げてくる。

一体なんだってんだ。

どう考えたってベッドに戻った方が良いというのに、なぜ移動したくないなどというのだろうか?
理由が全く見つからない。
なのに跡部は嫌だと言う。

仕方ないと気持ちを切り替えて、他の事をしようとする。


「薬買ってこようか?」
「いらない。」


どキッパリと発せられた言葉は、これまた予想外。
普段の跡部なら『買ってきて当然だろ?』とか言いそうなところだ。
それなのに……。

いらないですと?!

まるで子供が拗ねた時ように、どう扱えばいいのか分からない。
ハッキリ言ってお手上げだ。

頭を掻きながら立ち上がる。
しばらく考えた末(すえ)、本人に直接聞いてみる事にした。


「じゃあ、私に何をしてほしいの?」


なぜかここで沈黙する跡部。
その事にムッとする私。

さっきまではすらすらと反論を述べたくせに、なんで今度は沈黙するのでしょうか?

時計の短針が動く音がする。
じりじりと時間が経っていくのが分かる。

何秒くらい沈黙が続いただろうか。
先に痺れを切らせたのは、情けない事に私だった。
苛立っていた為か、声が少し上(うわ)ずってしまった。


「じゃあ、私がいる必要はないみたいだね。帰る。」


短く言って彼の家を出ようと鞄を持った。
おもいっきり引っ張って玄関へ向かおうとした。

でも……。

不意に鞄ごと手を強い力で引っ張られて、もう一度跡部のほうを見ることになった。


「行くな。」


普段とは違う声で呼び止められた。
必死というか何というか、とにかくその言葉は力があった。

繰り返し同じ事を言われる。


「行くな、。」
「……。」
「行くな……。」
「分かったよ。」


その青い綺麗な瞳に真剣に見つめられて、逆らえる訳がない。
逆らう方法があるのなら教えてほしいくらいだ。

仕方なくソファーの横に座り込む。
手は放してくれない。

一度この場を離れようとしたのだから、放してくれる訳がないのだけど……。
もし今この手を放しても、私はここに居るのに……。
離れてしまう事はないのに……。


「……ねぇ。」


不安なのか寂しいのか、どう思っているのかは本人にしか分からない。
だけど私は確実に必要とされているようだ。

既に寝てしまった跡部を見る。
空いている手で色素の薄い髪を梳きながら、様子を見る。
普段より幼く見えることがない顔を見て、そして……。

彼の額に、そっと唇を寄せる。

どこぞやの映画俳優が、物語の中でやっていたように。
ただ触れるだけの、親愛の情以外ないキス。

でも私はその中に、労わりの意を込めた。

そっと、そっと。
ただ、よく眠れますようにと。















あとがき+++

maro様に捧ぐ、6666HITキリリクでございます。

管理人の予想を超えた企画第一弾の人気ですが……。
一体何が起きたのでしょうか?
私にとって、結構謎なのですが……。

今回まともな夢初登場の跡部様(笑)です。
跡部様は本物よりもイメージが先行しているので、何かおかしいかもしれません。
が、このようなものでよろしいのならmaro様のみお持ちかえり可です。

ひっさしぶりに長いの書いたなぁ……。
支離滅裂……かも……。


by碧種


04.04.13