抱き合った温度を忘れたくなくて
何度も何度も求めていた
優しい体温
晩春の夜風に目を覚ます。
窓から吹き込む風は、まるで冬の様に冷たかった。
大学一年生の春。
ようやく新しい暮らしに馴染み始めたばかりの私の身体は、睡眠による体力回復を求めていた。
「んっ……。」
寝ぼけ眼のまま、寝ている間に肌蹴てしまったであろう毛布を手探りで求める。
気だるい体は言うことを聞かず、緩慢な動きで探し当てた毛布を引き寄せた。
「あ、れ?」
引き寄せたはずの毛布は、全然近付かない。
何回か引き寄せる努力をした後で、その原因に思い当たった。
その原因が何であるかに気が付くのに、随分と時間が掛かってしまったのが敗因である。
「ん。……?」
「あ、……ゆぅ、し?」
「起こしてもーた?」
「それ、私の台詞。」
回りきらない頭で考えながら話す。
どうして、侑士が居るんだっけ?
ふと考えた内容に、昨日の出来事を思い出す。
講義終わりに誘われるがままに、侑士とご飯を食べに行った。
その後、ゲームセンターに行って白熱しているうちに終電を逃した。
侑士の家よりも遠い所に下宿していた私は、見事に行き先を決定されてしまったのである。
あー、なんか。
思い出してきてしまった。
人様の家に上がりこんで進められるがまま、散々飲んだ。
その後の出来事は、ここ最近一番の失態だろう。
『、どしたん?』
『…っと。』
『そない小さい声やと聞こえへんなぁ。』
『もっと!』
深夜の出来事を思い出し、眩暈がする。
真っ赤になる顔を、カーテンで辛うじて保たれている薄闇で隠した。
顔を隠したところで、身体中に残る痕が消えるわけでもない。
しかも毛布を奪うこともできず、素肌を晒しているのだ。
正直なところ、恥ずかしくて死にそうだ。
「?」
「な、何?」
挙動不審になりそうな気持ちを落ち着けて、侑士の顔を見る。
優しくそして妖しく、侑士は微笑んでいた。
眼鏡をかけていない顔は珍しく、嫌でも私の目を奪っているというのに、加えてその微笑だ。
あまりにも艶かしい微笑みに、私の方が更に赤面してしまう。
距離を取ろうと後ずさるものの、狭いベッドの上ではあまり距離は取れない。
「なんや。今更恥ずかしがるんかいな。」
「っ!!」
「は、かわええなぁ。」
侑士は口元を妖しく歪めたまま、こちらを見つめている。
たいして逃げられない私を嘲笑うかのように、微動だにしない。
手を伸ばされたら捕まってしまう距離以上は離れられなくて、ベッドからどうやって逃げ出そうか模索する。
侑士から目を離して部屋を見回すと、ベッドの周りには昨日の衣服が散乱していた。
とてもではないが、こんな格好のまま飛び出せない。
「そない慌てんでもええよ。」
侑士の声がして、うっかり完全に視界から外していた場所を見る。
すると、いつの間にか侑士の顔が至近距離まで近づいてきていて、思わず背中を壁に引っ付けた。
「。」
「ちょっ、ゆ、侑士!!」
「何や自分、照れすぎやで。」
侑士は、直ぐ真っ赤になる私のことをからかうかのように、低音ヴォイスで囁く。
いや、きっとからかっているんだろう。
私の反応を見て楽しんでいるに違いない。
その証拠に彼は続ける。
「かわええなぁ。」
何一つ言い返せずに、心拍数だけが際限なく上がっていく。
不意に長くて綺麗な指が、私の髪を梳いた。
反射的にビクリと身体が跳ねる。
「なんや、虐められたいん?」
「ちがっ。」
「ほんま自分、どストライクなリアクションすんなぁ。」
本気なのか、からかっているだけなのか、どちらとも取れない低い笑い声が響く。
逃げ道も何もなくなった状態で、今にもキスしそうな距離の侑士と目が合った。
普段遠目から見惚れてしまう綺麗な顔も、至近距離にある今では毒でしかないし、普段は眼鏡で隠されている切れ長な瞳も、何もかもが毒だ。
簡潔に言うなら、侑士の存在そのものが心臓に悪い。
侑士の一挙手一投足に心臓が悲鳴を上げている。
「なぁ、。」
「っ。」
喋る唇が、触れてしまいそうなほど近い。
普段間近で見ることのない瞳からは、焼け付きそうなほど熱い視線が向けられている。
全部がスローモーションの世界で、侑士の唇が触れた。
ゆっくり。
じっくり。
確かめるようなキス。
思考回路が焼き付いて、心臓が破裂しそう。
息継ぎの仕方さえ忘れてしまったかのように息苦しい。
そんな私を無視するように、徐々に口付けが深くなっていく。
いつの間にか、むき出しになっていた肩を侑士の左手が撫ぜている。
触れているだけの肩が、ぞくりと甘く疼いた。
「っん。……ふぁ。」
鼻に掛かった声が、やけに大きく響く。
それを良いことに、侑士の手がゆっくりと私の身体を侵食していく。
熱量を増し続ける身体が悲鳴を上げ、自分のものとは思いたくない、甘い声が出る。
「ぁ、んっ。」
永遠に続くかと思われた口付けが、不意に終わりを告げる。
焦点が合うか合わないかの距離で、侑士が私を見つめていた。
どれくらい続いた分からないキスの所為で、ドロドロに融けてしまった思考では侑士の表情さえ読めない。
「。」
「な、何よ。」
「そない物欲しそうな顔したら、あかんで自分。」
反論するよりも前に、キスされる。
身体中を撫で回していた、大きくて綺麗な手が背中に回り、腕の中に閉じ込められる。
こんなにも心地いい檻に閉じ込められたら、逃げられなくなる。
抗うことさえ出来ない。
振り続けるキスの雨に、ゆっくりと目を閉じた。
あ、そっか。
侑士のキスで、焼き付きかけてる思考回路で思い出していた。
大学の入学式の日。
散り始めた桜並木。
桜吹雪の中で仲間とじゃれながら歩く侑士。
ふと目が合ったその瞬間。
あんなに目立つ集団の中で、私の目には侑士しか映らなかった。
あの時からなんだ。
侑士を好きになったのは……。
止まないキスに窒息しそうになる。
そんな絶妙なタイミングで侑士の唇が離れた。
「。好きや。」
朦朧とする意識の中で聞いた侑士の言葉。
それにどう答えたかは、思い出せないけれど……。
私の言葉を聴いた侑士は、艶やかに笑った。
あとがき+++
一体どこに行きたいんでしょうね、この話(笑)
とにかく、忍足エロいっ!!という意識だけは一貫していますが……。
エロヴォイスなテニプリキャラたちの中でも、彼の低音は一際目立ってましたね。
聞き取れないときもありますが、耳元で囁かれたらたまんないでしょうね(笑)
以前の更新より大分間が開きましたが、まだ書きたいことあるんでがんばりますよ〜。
by碧種
03.11.05