君がくれたものは
プレゼントだけじゃないってこと










サンタクロース










家から出た瞬間、息が真っ白になる。


「寒っ!!!」


本日最高気温10℃。
降水確率終日0%。

クリスマスだというのに、雪の降る気配は全くない。
降ったところで、一緒に感動してくれるような相手ではないから関係は無いけど。

いつも歩く道を、寒さに身を硬くしながら早歩きする。
街中は通っていないが、各々の家庭が工夫を凝らしたイルミネーションが眩しい。
手袋をした上にコートのポケットに突っ込んだ手が、寒さを訴えた。


「あー、カイロ忘れた。」


私にとっては重大な事実に歩む速度を緩める。
だけどそれ以上に重要なのは、時計の告げている時間だった。

家に戻ってカイロを取ってきたい。
でも戻ってたら約束に遅れる。
だけどやっぱり手は冷たい。


寒い、寒い、寒い。


結局引き返さずに真直ぐ進む。
ちょっと悩んだことを振り払って、足を速めた。

だって向かう先には、君が待っているはずだから。

君が待っているはずの場所が見えてきて、けれど君の姿は見えない。
今まで一度も約束に遅れてきたことが無いのに、その姿が十字路に見えない。
徐々に近付いて、でもやっぱり姿が見当たらなかった。
たどり着く直前に、曲がり角から人影が出てくる。


「ひよ…し。」
「丁度、だな。」


色素の薄い髪を揺らして、涼しい笑顔で彼は笑った。
普段はどちらかというと冷たい印象を受けるその顔が、温かく私を見つめていた。


「日吉がいないかと思った。」
「何で?」
「私より先にいなかったから。だっていつもは、日吉のほうが先にいるじゃない?」
「そんなことか。」


ふっと笑って、視線が"そんなことも分からないのか"と問いかけてくる。


「……分かりません。」
「お前が来る時間がいつもより早いんだよ。」
「あれ?また遅刻ギリギリじゃなかった?」


不思議に思っていると、ため息を吐いた日吉が腕時計を見せてくれた。
時計はまだ、待ち合わせ時間の1分前を指している。


「何でかな?」
「それは……。自分の癖ぐらい気付け。」
「えー、何それ。」


不満を訴えかける為に睨み付けると、日吉は目を別のところにやった。
何の前触れも無く伸ばされた手は、しっかりと私の両手を捉えた。
そしてその両手を包み込んで、私をじっと見つめた。


「冷たいな。」


いつもなら軽く言い返す言葉に、今日に限って詰まった。
温める手のぬくもりに目を細める以外何も出来なかった。

不意に手を引かれる。

彼の左手に納まってしまった私の右手。
そのまま急に歩き始めた日吉に引きずられる。


「日吉?」


名前を呼んでも答えないから、仕方なく彼の行動に従う。

目的地はもともと分かっているから困りはしない。
けど、言葉を発してくれない彼に寂しさを感じた。


「日吉……。」
「……。」
「…………何か言ってよ。」


沈黙を守り続ける日吉に不安を感じる。

もしかして疲れてる?
もしかして怒ってる?
もしかして迷惑がってる?
もしかして……嫌われてる?

考え出すときりが無くて、涙が出そうになった。


は……。」


私が泣き出す直前になって、ようやく日吉が話し始めた。


「鳳のことは名前で呼ぶよな。」
「……うん?」
「いつまで俺の事は、名前で呼ばないつもりだ?」


素朴だけど、きっと彼にとっては重大な疑問。
それに笑いそうになるのを必死で堪えて尋ねる。


「呼んで欲しいの?」
「……当たり前だ。」


意外に素直な返答に、少しだけ驚かされる。

彼の手を引いて立ち止まらせた。
怪訝そうな顔で見下ろしてくる彼に笑顔を向ける。
一歩の距離も開けない状態で背伸びをして、口を彼の耳元に最大限近づけた。


「若、大好き。」


冷えた所為で赤かった頬が見る見るうちに別の理由で真っ赤になってゆく。
その様子を見て満足した私は、手を繋ぎ直して歩き始めた。
私に従って歩き始めた彼は、暫くしてから私の耳元で囁いた。


「俺も、好きだ。」


ちらりと見た顔が、やっぱり真っ赤で笑いそうになる。
笑いをこらえていると軽く小突かれたけど、赤い顔でそんな事をされても全然怖くなかった。





その後も、顔が真っ赤な若と手を繋いで歩いた。
それからプレゼントを交換して、もらったプレゼントも嬉しかった。

だけど何より嬉しかったのは。



君の言葉だよ。










あとがき+++


クリスマスすぎてるし、とか突っ込み不可で(笑)
むしろ正月ネタやりなさい、とか聞こえない事にします(笑)

言葉で表現する事は、難しいけど大切な事だと思います。
言葉だけじゃ安っぽいけど、態度だけでは疑心暗鬼に陥りますからね〜。
それを思うと、Mr.Childrenの『君が好き』はかなりきますね(笑)


by碧種


07.01.01