思っている事
素直に言えれば良いのにね

どうして
いつもこうなってしまうんだろう……










一番嫌いで一番好き










「大っ嫌い!!」


天邪鬼な私の口は、相手を傷付ける言葉しか知らない。
だから、その言葉を口にしてしまってから後悔する。

謝ろうと思ってアイツの顔を見上げる。
真っ直ぐに揃った前髪から覗く双眸(そうぼう)は、全く動揺を見せない。
相変わらず、じっと私を見ている。

昔からいつもそうだ。

どんなに傷つく言葉を言っても、どんなに酷い事をしても。
彼は全てを赦(ゆる)してしまう。
怒らないし、傷ついた様子も見せない。

その所為で、私は思ってもない事をたくさん言ってしまう。
言った後で虚しさが募るだけだと知っているのに……。
それでも私は……。


「日吉なんて嫌いよ……。」


何が原因で、いつもこんな事になってしまうのだろう。

日吉の無愛想さだろうか?
それとも私の気の短さ?
じゃなかったら、周りが五月蝿いから?

本当は嫌いじゃない。
嫌いだなんて言いたくない……。


「嫌い。嫌い。」


想いの数だけ、正反対の言葉が口から出ていく。

未だ日吉は動かない。
夕日が入る教室の壁に凭(もた)れたまま。
腕を組んで、私を見て。
怒っているのか、呆れているのか判断できない表情をしている。


「きらい……。」


だんだん声が萎(しぼ)んでいくのが分かった。
泣きたいくらいに掠れているのも……。
その声が情けないのも……。

全部わかっていても、言葉は止まってくれはしない。
それは私の負けず嫌いな性格が災いしているのだろう。


「世界一嫌い。」


私の言葉を日吉は全く聞いていないのではないかと疑う。
そ知らぬ顔で私を見ている。
睨んでいるんでもなく、ただ見ているだけ。

嫌い嫌いと連発して、それで得るものは何もないと分かっている。
だから、もう嫌だと思って教室から出ようとする。


「さようなら。」


近くの机に置いてあった鞄を持って、ドアの方に向かう。
私より廊下側に居た日吉の横を通り過ぎようとした。
通り過ぎて廊下に出ようとした。


「ぅわ!!」


次の瞬間にはバランスを崩して、日吉に寄りかかる格好になってしまった。
鞄は足元に落してしまった。

原因は空いていた手を引っ張った日吉だ。

何が何だか分からないままその場で固まる。
すると、日吉の声が頭の上から降ってきた。


「訳、分かんねぇよ。」


いつもより低くて小さい声が言った。
掴まれた手が少し痛かった。
見えるのは夕日で染まった教室だけで……。
そしてやっと日吉が怒っている事に気が付く。


「そんなに俺の事嫌いなんだ。」


言葉の一つ一つが突き刺さるように鋭かった。
罪悪感で心が痛い。
恐怖のような感情が、私の口に鍵をかける。

何一つ、弁明する事を許してくれない。


「何でだよ。どうして俺の事が嫌いなんだよ。」


徐々に強くなっていく口調が怒りの度合いを表している。

初めてだった。
私が意地を張って彼を傷つけ、彼が怒ったのは。
今までは「あっそ。」とか言って適当に流されていた。
呆れられる事もあった。

本当に、初めてだった……。


「答えろ。どこが気に入らない!!」
「っ!!」


後ろからの怒号に肩をビクつかせる。
掴まれている手は握り潰されそうなほど痛い。
喉が灼(や)け付いたように熱くて声が出ない。

本当の事を……。
言いたいのに言えない。


「言えよ。」


普通のときも冷たく聞こえる声が、触れられないくらい冷たい。

返す言葉はあっても伝える方法を知らないから……。
息が出来なくなってしまうんだ。

どうしよう、と思考を廻らす。
口を開けても喉が詰まって何も言えない。
焦るばかりで考えは鈍る。


「どうして……。」


日吉の声が急に弱くなった。
それから、握られていた手が放された。
痺れた手が空気を掴む。
ふと背中が重くなった。


「俺は……が、好きなのに……。」


消え入るような声で囁かれた言葉は、予想外だった。
一瞬にして全ての事象が止まる。
何を言われたか理解するのに時間が掛かった。


「え?」


聞き返そうと声を絞り出す。
なんて言えば良いか分からない。
でも、何か言わずにはいられない。

一生懸命考えて答えが出かけたところで、突き放された。


「今のは忘れろ。」
「何……で?」


早口にそれだけ言うと、離れていく。
鞄を取るために教卓の所に行く足音がする。
がさっという音とともに鞄が持ち上げられる。

意を決して振り返ろうとする。
振り返ると同時に冷たい声が言った。


「じゃあな。」





スベテを突き放す声が聞こえた……。





「待って!!」


彼が教室を出てしまう直前、ほとんど無意識に腕を掴んだ。

机にぶつけた足とか指とかが痛かった。
だけどそれ以上に痛々しい表情を、日吉はしていた。

無言で私のほうに向き直る。
眉を顰(しか)めて、今にも泣きそうな瞳で。
否、一筋の涙を流して……。


「ひよ…し?」
「見るな。」


それに気付いた彼は顔を手で覆う。
拭う姿が子供の頃と変わらない。

口が勝手に喋りだす。
勝手に問い詰める。


「泣くほど悲しかった?」
「見る、な。」
「そんなに、私の事……好き?」
「悪いかっ?!」


逆切れするように返ってきた言葉は肯定を意味していた。

初めてこの口から聞いた言葉。
そう思われていたなんて知らなかった。
ずっと一緒だったにもかかわらず……。



でも……。
嬉しい。



「ごめん。」


最初に自分の意思で言えた言葉は謝罪。
自分の考えなしな言葉が彼を傷付けた事に対する。

私を彼は直視する。
驚きとも悲しみとも取れる表情でこっちを見ている。

次に言いたい言葉は……。


「嫌いっていうの、嘘。」


ホントは、ね……。


恥ずかしくて言えなかった言葉を、そっと耳元で囁く。





『世界で一番大好きだよ。』















あとがき+++

ありがちなオチですが……、甘っ!!!
恥ずかしさのあまりパソコンの前でぶっ倒れそうです(苦笑)

あの……ですね(言い訳開始)

ただ単にこう……日吉と口喧嘩が目的だったのですよ、ね?
んで、本当はもっと激しく言い合って逆切れした日吉が一世一代の(?)大告白をして、お笑いオチだったはずなんですよ……。
それがどうしたものか……。

メチャクチャ甘いし(汗)
私が一番読んでて辛いし(泣)

な、文章になってしまったわけです(言い訳終了)


もう少し意思どうりに指が動いてくれたらなぁ、と(名前変換ほとんど無いしね(泣))


by碧種


04.08.18