階段を駆け下りる。

速く


速く



速く!!










ネガティブ










駆け足で屋上から離れる。
背中を押してくれた忍足に感謝しながら。


本当に、ありがとう。
感謝しているよ。


さっきまで身体が動かなかったのが嘘のようだ。
6階から1階まで一度も止まらずに降りきった。
そこには……。


?!!」
「あ……。」


そこには顔面蒼白のアイツが居た。


右目の下に泣き黒子があって……。
とてもかっこよくって……。
いつも自信家で……。
でも、テニスだけは本当に巧くて……。
自分勝手で、自意識過剰で……。
僕にはとても優しかった……。
僕の……大切な……。


「大丈夫か?!」
「え?」


アイツが僕の所まで駆け寄ってきた。
とても心配しているように見えるのは、僕の勘違い?
僕の顔に手を添えてじっと見てくる。
久しぶりにまともに見たその色素の薄い瞳は、今まで見たことがないくらい真剣だった。
テニスをやっている時とは違う真剣さだった。


「大丈夫……だよな?」
「う、ん。」


再度確認してきた声はいくらか落ち着いていて、ホッとしている様にも聞こえた。
そして、顔に添えられていた手がするりと顔を通過した。
その手は背中へ回り、いつの間にか抱きしめられていた。
少し前まで間近にあった顔が肩に寄りかかる。


「……かった」


小さな声でアイツが呟く。


「よかった。」


泣いているかのような、消えそうな声で言った。
"よかった"と。
何が……だろうか?
それに僕が屋上に居た時には、まだテニスコートに居たはずだ。
どうして西塔の渡り廊下にいるのだろうか。


「どうして……ここに居るんだ?」
「?」


顔を上げて僕を見る。
とても不思議そうな顔をして考え込み始めた。


「……まさか……。」


どこぞやの部長のように眉間に皺(しわ)を寄せる。
そして携帯を取り出し、誰かに掛けた。
何秒経っても相手が出ないことに痺れを切らし、携帯を切る。


「クソッ!忍足に嵌(は)められた。」
「は?」


悔しそうに頭をガシガシと掻く。
跡部は力が抜けたかのように、その場に座り込んでしまった。

どうしたというのだろうか?
忍足……?
まさか?!


「忍足に何か言われたの?」
がリンチされて危ないって……。よく考えたら、そんな事ある訳ないよな……。」


ため息を吐いて下を向く跡部。
目線を合わせるために僕もしゃがむ。


「あのさ……。」


何から言い始めれば良いんだろう。
頭の中の整理できないから、話せる事を話してみよう。


「僕が普通の状態でやられる訳ないでしょ?」
「ああ。」


普通なら、ね。
そう付け足してから続ける。
だって、普通の状態とは言えなかったから……。

「今日はうまくいかなくてさ……。」
「え……。」


跡部が顔を上げる。
僕の方を見て何か言いたそうな顔をしている。


「忍足の言う通り、殴られたり蹴られたりして……結構やばかった。」


跡部は驚いた顔をしている。
当然といえば当然だ。
今までファンの女子を瞬殺してきた僕がやられる姿なんて、誰も想像出来ないだろう。


「だって皆、跡部が僕のことを想ってるって言うからさ……。」


今度は僕が俯(うつむ)く。
思わず苦笑してしまう。
今までどれだけ強がっていたかを証明されたみたいで……。


「それってさぁ……本当?」
「……本当だ。」


声だけを聞いて、跡部は嘘を吐いていないと思った。
嘘や冗談を言うときの声ではない。

知っている。
そう、僕は知っているのだ。
前に何度か聞いたことがある。


『愛してる。』


そう言ったときと同じ声色(こわいろ)だった。
同じ様な、真摯(しんし)な声で彼は言う。

本当だ、と。

顔を上げて、跡部を見る。
跡部の視界に僕はちゃんと映っていた。


「じゃあどうして女の人と?」
「あれは従姉妹(いとこ)だ。」


ああ、やっぱり僕の勘違いだったのか……。
すれ違っていただけだったのか……。
周りの人が正しかったのか……。


「……ごめん。」
「何がだ?」


僕の口から出たのは謝罪の言葉だった。
それが精一杯の行動。
謝らなくちゃいけない事は、たくさんある。
僕のやった事で、跡部はきっと傷付いただろう。


「ごめんね……。」


また僕は俯く。
しばらくの沈黙の後、彼が言った。


「謝るくらいなら……。」


僕を引き寄せて……。
耳元で囁く。


「俺の側から離れるな。」


お得意の命令口調。
俺様口調とも言える。
でも、それは命令しているようには聞こえなかった。
離れないでくれ、と言っているように聞こえたのは僕だけかな?
優しい言葉にさえ聞こえてしまった。

表情は見えない。
さっき引き寄せられた時から、跡部の胸に埋まったままだから。
だけど、ただの命令ではないと思う。

だから僕は……。
私は……。

「分かったよ、景吾。」


貴方を赦(ゆる)そう。
そして……。
そしてもう一度、貴方の隣に戻ろう……。





とても居心地の良い

貴方の隣に……















あとがき+++

ようやくネガティブ終了です。
話自体は短かったけど、考えた時間は長いのなんのって……。

迷いに迷った挙句、結局ハッピーエンドです。
『勘違いから始まったのだから、誰かが誤解を解けば終わりだよねぇ』とか思ったわけです。
一話終わりのはずが連載になり、悲恋が普通の恋愛に戻ったり……。
山あり谷ありでした。
最後まで書けたのは、幽月さんの応援のお蔭でもあります。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
これの関連話も既にDeepにup済みだったりします(笑)
忍足んが主人公でございます。
こっちが完全な悲恋です。
気になった方はどうぞ、DEEPに踏み入れてみて下さいなv


by碧種


03.11.03(Deepにup)
04.06.24(dreamに移動)