苛立ちをそのままグラスにぶつける

折角の約束なのに
どうしてアイツは行ってしまったのか










君を待つ










いの一人を目の前に、ウーロン茶の入ったグラスと焼肉が乗った皿を開けていく。
呆れ顔をしているいのを無視して手を上げる。


「すいませ〜ん、追加お願いしま〜す。」
……いい加減やけ食い止めなよ。」


制止の声をほとんど聞いていないのは少なくとも、いのの所為ではない。
やけ食いだって、ここにいないアイツの所為だ。

店員をいのが追い返してしまって、手持無沙汰になってしまった。


「シカマルが居ないからってさぁ、アンタ荒れすぎよ。」
「どーーーせ、私はシカマルとはただの幼馴染ですよーだ。」
「それもなんか違うけど……。」


いのが呆れ顔から激呆れ顔にレベルupした。

冗談を心の中で交えつつ、いのに愚痴る。
しかも叫ぶわけではなく、静かに、マシンガンの如く言葉を連発する。


「最近忙しくって全然会えなくて、折角約束できたのにさ。どうせアイツは明日まで帰ってこないし、どうせテマリさんと一緒だし、仲良しだし……。ってかこのご時世に遠距離恋愛とか止めようよ、って感じ。ただでさえ里が大変なときにわざわざ外に好きな人作らなくても良いんじゃない?それにさ、中忍試験くらいから急に格好良くなっちゃって、中忍になってからは更にモテちゃって。」
「ああもう、ってば。」
「何よ、いの。」
「言っておくけど、シカマルがテマリさんを、なんて話ないわよ?」


唐突に中断された言葉が行き場を失いかける。
失いかけて、でも引っ込むところは無いから走り続ける。


「だけど、さ。砂と合同の依頼は必ずシカマルが出るじゃない?」
「それもまぁ……そうだけど。」
「な〜〜〜んか、ヤだよね。昨日からの任務だってそうでしょ?いのは外されたじゃない、隊から。それに嫌がらせかって感じの日程で行っちゃって。人の誕生日挟んで三日間よ?幾ら噂すらたってないって言ったって、なんだか幼馴染としてはさぁ……。」


幼馴染、と言った途端、いのが爆笑した。

普通の笑い方でなく、爆笑。
爆笑も爆笑、涙さえ出ている。
腹も抱えて机に突っ伏して、机を叩いて……。

息も切れ切れにひーひー言いながら、いのが起き上がった。


「笑いすぎ。」
「ふ、笑いたくもなるわよ。」
「何でよ。」


むっとして睨む。
それに反応したようにまた吹き出す。


「だって、幼馴染としてですって?笑っちゃうわよ、シカマルの事好きなくせに。」
「なっ!!」
「赤くなっちゃって、ちゃん可愛い〜。」


図星だ。
どうにもこうにも反論できない。

反論できないならどうするか。

答えは……。



「そうよ。私はシカマルの事が好きよ!悪い?」



答えは逆切れ。

沢山の皿が載った机をバンと叩き、叫ぶ。
シカマルが好きだ、と。

恐らく店中の人の注目の的だろう。
もうそんな事は如何でもいい。


、そんな逆切れしなくても……。」


どうどう、とでも言いたげに両手を前に出している。
だけど一回頭に上ってしまった血は、なかなか下がってはくれない。


「何よ、逆切れ以外に何をしろと?シカマルに告白でもすりゃあいいの?アンタが好きだって?」
「あ。」
「あ、って何よ。」
、うしろ。」


突然にいのは私を宥めるのを放棄し、私の背後に視線を移し指差す。
その行動に従って、イライラしながらもゆっくりと後ろを向こうとした。

向こうとして、聞きなれた声で私の時が止まる。


「盛大な告白、どーも。」
「…………ぅえ!?」


声を聞いてから思考回路が復活するまで、たっぷり5秒はかかっただろう。
すぐに振り返ると、そこには見慣れた顔が二つ。

チョウジと、チョウジと……。


「しっ、しかっ!!?」
「"シカ"しか言えてねぇぞ。」
「っ…シカマル?!」


そうだ。
シカマルだ。

明日まで任務で帰ってこないはずの彼らがいる。
今頃は砂の国にで任務をこなしているはずの彼らが、何故?

疑問も何も言葉にならない。
口だけが酸素の足りない金魚のように空回りする。


「人が面倒くせぇ任務さっさと終わらして、帰って来たらこれか。」


何も言えずに完全に停止してしまった。

その間に、いのとチョウジがひっそりとシカマルの横を通り抜けている。
それを止めるでも無く、いの以上の呆れ顔で私を見たままだ。
見たままため息を吐く。


「ったく、面倒くせぇ奴。」


一言零すと、座っている私の手を取って引っ張る。
手の取り方がまるで手を繋ぐみたいだった。
その勢いで立ち上がると一直線に店の出口に向かう。


「え、なっ何で出るの?」
「あんな見られて居られるか。」


暗に私の所為だと言っている。
いや、はっきりと言っているようなものだ。

徐々に歩むスピードが上がる。

歩くから小走りに。
小走りから駆け足に。


「ごめん。」


返す言葉が無くて思わず謝る。
シカマルの表情も見たくなくて、下を向く。
すると一段と強い力で手を握られる。


「痛っ。」
「あ、わりぃ。」
「謝るくらいならっ!」


途中まで言ってハッとする。
シカマルの表情を窺うとにやりと笑っていた。
その顔を不覚にもカッコイイと思ってしまって目を逸らす。


「するなって?」
「そーですね。」
「だいたい、これくらい強く握ってないと返事聞く前に逃げるだろう、お前。」


分かりきっていた事を言われて、態と目を逸らしたまま不機嫌を顔で表す。
くくっと軽く笑った声だけを聞いた。

久しぶりのその声は何だかちょっと心地よくて、少しだけ手を握り返す。


「折角掴まえたのに、逃がすかよ。」
「逃げないって。」
「俺も好きだっつっても?」
「そうよ、逃げな……。えっ?」


不意打ちを喰らって足が止まる。
シカマルの反応が少し遅かった所為で前に倒れこんだ。
そのまま地面に今日はかと思って目を閉じた。

しかし、重力とは違う力に引っ張られてそれだけは免れる。

お蔭様で視界は0。


「今のは悪かった、俺の不注意だ。」
「まさかこれも計算の内、とか?」
「まさか。」


ハハハ、と笑い飛ばされて、最後の音はため息になる。
頭を動かしてシカマルの顔を見上げる。

ちょっと顔が赤くなっているのは走った所為か、それとももう一つの理由か。

頭を元の位置に戻して腕の温かさを堪能する。


「じゃあ、テマリさんは?」
「テマリは仕事仲間。だけだ、好きなのは。」


疑惑を一刀両断した上に、殺し文句。

もうくらくらする。

その眩暈ついでに、誤魔化しながら。
緩く繋がれた手を解いて、抱きつく。


「ぉわっ!?」


突然の事に驚いたものの、倒れないあたりが流石中忍。
思い切り腕に力を入れて寄り掛かる。
いつの間にか背中に腕が回されて、そっと抱き締められていた。





これで私は幸せなのだ















あとがき+++

終わらせ方に無理無理感が……(ちゃんと書けぃ!!)


NARUTOキャラ二人目はシカマルでした。

んで、苦労したのが「シカ丸」なのか「シカマル」なのか調べるのでした(苦笑)

アニメ製作をしているpierrot様のキャスト紹介では「シカ丸」、一般的な二次創作のサイト様では「シカマル」……。
いろいろ疑問に思いながらも映画第二段の宣伝でも「シカマル」だし……、allカタカナでOKなのかしら?ってことに。
たぶん、正しいのでしょう(多数派でしたから(笑))


by碧種


05.09.01