+注意+
この夢は、初期アニメ最終回のネタバレを含みます。
まだ最終回を見ていなくて、楽しみにしている方は最終回をご自分の目でご確認の上もう一度いらしてください。
また、アニメを見ていない方は話の内容を理解できない可能性が大いにありますので、その点をご了承の上お読みください。
なお、この注意書きを読まずにこの夢を読まれ、苦情をいただいた場合は無視させていただきます。
悔やんだ事は数え切れないほどあった
何故私が軍人じゃなかったのか
錬金術の一つも使えなかったのか
守る術(すべ)は……
戦う術(すべ)はなかったのかと……
確かなこと
昼過ぎの暖かい日が差す部屋。
木製の階段を上って、ある一室を目指す。
「はあ……。」
廊下には光が差して仄(ほの)かに明るい。
辿りついた部屋には何もプレートが掛かっていない。
一回深く息を吸って吐く。
静かにノックすると中から返事が返ってくる。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
中には片目に眼帯をした黒髪の男と、長い金髪の女性が居た。
金髪の女性はナイフを片手にリンゴを剥いていたようだ。
私の姿を見てとても温かい表情に変わる。
「遅かったじゃない、。」
「ごめんごめん。予想以上にお店が混んじゃって。」
金髪の女性は友人のリザだ。
リザは手に持っていたものを置いて、私のほうに歩いてくる。
彼女は私の持っていた荷物を受け取って、部屋から出て行った。
眼帯の男を見ると、とても驚いた表情をしていた。
「久しぶりね、ロイ。」
「ああ。」
「お邪魔だったかしら?」
「そんな事は、無い。」
「そう。」
会話がぎこちないのは、会ったのがあまりにも久しぶりだったから。
それから、ロイの表情が硬いから。
ゆっくりとベッドに近付く。
まだ激しい動きが出来ない彼は、上半身を起こした体制から動かない。
「調子はどう?」
「まあまあ……と言ったところかな。」
そう言ってロイはぎこちなく、優しく笑った。
リザが座っていた椅子に座って彼を真っ直ぐ見る。
傷痕が隠されているであろう、黒い眼帯。
柔らかく光っている黒髪。
男で、しかも軍人のくせに白い肌。
本当にそこに居るのか不安になる柔らかい表情。
「?」
呼びかけてくる声すら遠く感じて……。
思わず手を伸ばした。
眼帯と髪の間に手を差し込む。
サラサラと指をすり抜けていく黒髪。
「どうしたんだ、。」
問いかけてくる声には答えず、手を滑らせる。
両手を前に出す。
髪の毛を触る。
顔に触れる。
そこにあるロイ・マスタングという存在を確かめる。
不意に、私の手に冷たい手が重ねられた。
視線がぶつかる。
「。」
「はい。」
「私は生きているよ。」
その声を聞いた瞬間。
彼の状態も、何も考えずに抱きついた。
「ロイ……。」
「大丈夫だ。ちゃんと生きている。」
「ごめんなさい……。何も出来なくて、ごめんなさい……。」
溢れ出る涙を止める事も出来ずに彼にしがみつく。
少しだけ臭った消毒液の香りさえ気にならない。
ロイは確かにここに居る。
優しく髪を梳(す)く手も、私の名前を呼ぶ声も……。
しばらくして落ち着くと彼は呟く。
「何故(なぜ)今日までここに来なかった?」
責める感じではなく、とても優しい声だった。
そう。
私はあの事件が終わってから今日まで、一度もロイに会いに行かなかった。
リザに言われて、ようやく今日会いに来たのだ。
俯(うつむ)いて理由を静かに告げる。
「だって……。」
「だって?」
「私には何も出来ないから……。」
今回の事件で、私は一般人の無力さを感じた。
私はずっと本屋で働いている。
錬金術に憧(あこが)れる事もなく。
軍人になって国を守ろうと思う事もなく。
何の力も無いただの人であり続けた。
ロイがクーデターの話をしてくれたときも、いつも通り働く事しか出来なかった。
何も知らない振りをしてその日が来る事を待つことしか出来なかった。
そして事が起きて、ロイが重傷を負ったとき……。
医者でもなんでもない私は、ただ見ていることすら出来なかった。
リザからそのことを聞いても、私が出来る事は何も見つからなかった。
ただ助かる事を祈るしかなかった。
クスリと笑う声が聞こえた。
その音に反応してロイを見ると、声を出さずに笑っていた。
訳が分からず見ているとロイは言った。
「君に出来る事が、少なくとも一つある。」
「え?」
「それは私の傍(そば)に居る事だ。」
何を言われたか理解するのに数秒。
顔が赤くなるのに一瞬。
久しぶりに彼が不敵に笑って私の手を握る。
「悪くない話だろう?」
「そうね……。」
元気そうなその顔をもう一度見る。
握られた手は彼の口元に持っていかれて、軽く口付けられる。
そのままの状態で私をじっと見ている。
「悪くないかな。」
表情が緩むのが止められない。
嬉しくて嬉しくて、堪らない。
「引き受けてくれるかな?」
「ええ、もちろん。」
私は、私にできる事をしよう。
例えそれが些細(ささい)な事でも。
大変な事でも。
貴方がいてくれるなら……。
あとがき+++
鋼初挑戦!
しかもアニメのネタバレでごめんなさい。
更に最終回のネタバレだったりして、重ね重ねごめんなさい。
お題は『確かなこと』です。
ロイがさんを必要としている事が確かなことなんですが……。
伝わったでしょうか?
鋼最終回の感想……。
ロイが生きてて良かった!!!
この一言に尽きますね。
一瞬マジでヒューズさんのところに行ってしまったかと思いました(汗)
リザさんとのほのぼのなムードは嫌いではないです。
ってかあのオチだとロイさんとリザさんはラブラブっぽいですね。
が、まぁ夢を見させてください。(ロイ×アイ好きな方、ごめんなさい!)
by碧種
04.10.08