街のざわめきで言葉が伝わらない
「だからっ!!」
もどかしさで声が大きくなる
周りの目を気にする余裕なんてない
携帯電話
普段出かける暇もなく過ぎていく休日。
でも今日は夏休みだという事もあって、ふらふらと家を出て歩いている。
「あっつーい。」
ウィンドウショッピングのために来たアーケードは、人で溢れていた。
ただでさえ暑いというのに、人の熱気で更に暑くなっている。
「暑い……。」
一人で来た事を少し後悔した。
一人なら外に出なければ良かった、とさえ思った。
「まぁ、今更仕方ないか……。」
最初から一人で出てくるつもりだった訳ではない。
本当は家が近い三谷を誘うつもりだった。
それなのに……。
『あら、祐輝なら進藤君たちと碁会所行ったわよ』
電話をしたら既に出かけたといわれてしまった。
なので仕方なく、携帯と財布片手に家を出てきたのだ。
一人で。
母も姉も友達と出かけてしまっていた。
そして三谷も居ないとなれば、一人で出かけるしかなかったんだ。
いや、別に友達が居ない訳ではないんだけどね。
考え事をしていると、ジーンズのポケットに入れていた携帯が鳴った。
急いで出すと、それは通話着信だった。
誰からだろう、と不思議に思って名前を確認するとなんと……。
「え、三谷?!」
急いで電話を取る。
「どうしたの、三谷?」
『っ……がある…けど、駅……来てく……い?』
「え?聞こえないよ?」
周りが煩い所為か、どちらかの電波が悪い所為か、声が聞こえない。
とりあえず、なるべく人が居ない所に移動する。
三谷がたぶん同じ言葉を言った。
『だから、話が……から駅ま……てくん…い?』
「……。ああ、なるほどね!駅に行けばいいの?」
『そ……。』
ここから駅まで、約十分。
突然言われて少し困る。
人ごみは駅に近づけば近付くほど、多くなるだろう。
ちょっと……。
ヤだなぁ……。
「どうしても行かなくちゃダメ?」
『別に聞こ…ればいいけど……。』
聞こえれば良いらしい。
電波が悪いから、聞こえるかどうか自信はないけど……。
電波が少しでもいい所はないかと、歩き回りながら答える。
「ん〜〜。じゃあ、言って。」
そうは言ったものの携帯の向こうから聞こえてくるのは雑音がほとんどで、重要な事は聞こえない。
近くの道路を通る車の音。
誰かの携帯の着メロ。
周りで喋っている人の声。
誰かのイヤホンから漏れてくる音楽。
全てが彼の声を妨げる。
『………………だ。』
「……え?聞こえなかった。もう一回言って。」
完全に聞き逃しそうになる。
最後に"だ"と言ったのは聞こえた。
それ以外は、全く聞こえなかった。
重要なところを聞き取れなかった。
『あー。だか…………って。』
「聞こえない!」
このままじゃ何回続けても聞き取れそうに無い。
しかも、向こうにはこっちの声が届いているんだ。
どう考えたって、周りが煩い所為だ。
駅に行くのは面倒くさい。
でも、このままこのやり取りを繰り返すのは利口じゃない。
「仕方ない。」
『え?』
「駅で会おう。」
それなら駅に行く方がきっと早い。
携帯の向こうから、反論が聞こえる。
『で……会わずに済…ならそれ…良いし…。』
妙に弱気な声が聞こえる。
たぶん反論だ。
やっぱりコレなら、駅に行ったほうが全然早そうだ。
反論する三谷の声を聞きながらも、足は既に駅に向かっている。
「じゃあ、駅で会うまでに携帯で伝わったらそれで終わり。会うまで伝わらなかったら直接聞く。OK?」
『……わ……たよ。』
「じゃあどうぞ。」
了解の言葉。
少しの間があって、また同じであろう言葉が続く。
『…から、…………と……だ。』
「聞こえないよ〜。」
『………だ。』
「全然ダメ。」
不毛な会話を繰り返しながら、駅に近付いていく。
人波に押し返されながらも、携帯の方に集中する。
共通している事から推理しようにも、あまりにも聞こえていないから無理だ。
携帯の向こう側からは、時々溜め息が聞こえる気がする。
何回も同じ様な会話が繰り返される。
そして、徐々にヒートアップしていく。
声は大きくなり、言葉は荒くなる。
『だからっ…………だ…っての!』
「聞こえないってば!」
『あーーーもーー!!』
まれに全部聞き取れる事がある。
それは大抵三谷の叫びだ。
残念な事に、重要なところは含まれていない。
『だか……………っつって……ろ!?』
「だから、何?」
あと少し。
あと少しで駅に着く。
人ごみの向こうに駅名が小さく見える。
『だーかーらっ………って!!』
「聞こえない!!」
なぜか知らないけど、今日の三谷は必死だ。
本当に必死で、きっと周りなんて見えていないんだろう。
こんなに大声で叫ぶなんて……。
『だからっ!!!』
何度目か分からない、同じ接続詞。
その声が携帯の向こうから聞こえた瞬間、僅かに視界が開けた。
「好きだっつーの!!!」
「え?」
生の声が聞こえたのと同時に、三谷の姿を発見した。
携帯を持っている手が下がる。
あと数歩の距離に、探していた人物が居る。
そして、目があった。
「あ……。」
それと同時に、周囲の視線を感じる。
あれだけ大声で愛の告白をした人間が居るんだから当然のことだ。
三谷の顔が、見る見る赤くなっていく。
言葉を一つも発さない唇が小さく震えている。
「なっ……?!!」
あいつもようやく気付いたのか、周りを見渡す。
周りの状況を把握してから、ズカズカとこっちに近付いてくる。
そして私の腕を掴んだ。
「行くぞ。」
いつもの低い声で言って、腕を引く。
その人ごみから逃げるように去った。
あとがき+++
初☆三谷に挑戦。
そして……撃・沈★
ヒカ碁はアニメ+マンガを一回読み通しただけなので、三谷のキャラとか分からないのなんのって(笑)
むしろ、良くぞ書いた自分って感じです。
全然三谷じゃないしね……。
しかも、名前ほとんど使われてないしね……。
メチャクチャお待たせしました、弦戯さん。
しかも告白終わりでごめんなさい。
続きはそれぞれでご想像下さい。
きっとバッドエンドは無いでしょう!
by碧種
04.06.19
ヒカル「あ、三谷本当に言った。相手はだったんだ。」
筒井「だから賭け碁なんて止めようっていったのに……。」
ヒカル「挑発に乗った三谷が悪いんですよ。」
筒井「はあ……。次はもっと真面目にやろうね。」