彼はとても意地悪だ
意地悪で
ひねくれ者で
嘘吐きで……
こんなヤツが先生なんてやって良いんでしょうか?
空回り
背の高い、ふらふらした足取りの男が前方に見える。
無意味に逆立った灰色の髪がゆらゆらと揺れる。
放課後の静まったアカデミーの廊下。
「カカシ。」
「ああ、。」
ふにゃっとした笑顔で振り返った彼は、上忍のはたけカカシ。
とは言っても、口と片目は隠れていて見えない。
だから目が笑っているだけかもしれない。
よく分からない曖昧な笑顔でこっちに近付く。
「どーかしたの?」
「ん、夕飯どうするのかなぁと思ってね。今日もうちで食べてく?」
「あー、そうする。」
何年か前まで暗部に居たとは思えないほど柔らかい笑顔を向けてくる。
こんな彼こそ私の恋人なのである。
上忍の彼と中忍の私。
下忍を育てる彼と、子供たちを教える私。
全然違う私たちはとても上手く付き合っている。
二人分の食材を買い込んで家に向かう。
暗くなっていく空を見上げながら歩いていると、背後に気配を感じる。
二人……、いや三人。
誰だか分からないけど、つけられているのは確かだった。
いくら早く歩いても、途中曲がり角を曲がっても、ピッタリとつけてくる。
心当たりは全くない。
やましい事をした覚えもない。
早く帰りたい気持ちを抑えて足を止める。
息をゆっくり吸って叫ぶ。
「アンタたち誰なの?出てきなさい!!」
静まり返った空間に私の声が響く。
無言の対峙。
気配の位置はつかめている。
いざとなったら襲ってもいい。
神経を集中して構える。
買った食材を地面に置こうとした瞬間、彼らは出てきた。
「わー!!待ってくれってばよ!!」
「?!ナルト君?」
「先生、すみません。」
「だからよせって言ったんだ、この薄らトンカチ。」
「サクラちゃんにサスケ君まで?!」
「んだと、サスケ!!!」
物陰から出てきたのはカカシが担当している班の子達だった。
ひょこりと出てきた姿はまだまだ子供だが、これでも下忍だ。
侮ってはいけない。
騒がしくなってきた彼らを整列させる。
掴み合いを始めようとしていたのも止めて、話を始める。
「さて、何で私の後をつけていたのかな?」
「それは……。」
彼らは声を合わせて言った。
カカシ先生の素顔を見る為、と。
「カカシの素顔?」
「恋人の先生になら見せてるんじゃないかと思って……。」
桜色の髪を持ったサクラちゃんが言う。
その後ろでナルト君とサスケ君も頷(うなず)いている。
「カカシの素顔……ねぇ。」
もう一度、言葉にしてみる。
そして思い出してみる。
たとえば一緒に食事しているとき。
たとえば雨に濡れてうちに来たとき。
たとえば……。
そこまで思い出して、先を考えるのをやめる。
「どうしたんですか?」
「顔が赤くなってますよ。」
下から顔を覗き込んでくる三人。
その視線に耐え切れず、慌てて言葉を繋ぐ。
「じっじゃあ、私の家の周りで見張ったらどう?今日、カカシと夕飯食べる約束してるんだけど……。」
「ホントに?!」
私の言葉を聞いて、彼らの表情が明るくなる。
あのサスケ君でさえ表情を輝かせている。
ああ、子供の笑顔には弱いんだよなぁ。
苦笑しながらも彼らを案内する。
楽しそうに歩く子供たちを止めるものは何もなかった。
数分歩くと遠目に自分の家が確認できるようになった。
足を止めて後ろの子供たちに振り返る。
「あそこに見える家が私の家よ。」
「へ〜。」
「平屋か……。」
「結構近いんですね。」
それぞれに感想を述べる子供たち。
何だかとても微笑ましい光景だ。
「と、言う訳で。いつカカシが現れてもおかしくないから、隠れなさい。」
「分かったってばよ!」
「はい。」
「了解。」
3人が3方に分かれて跳んでいった。
その姿を見送って、更に家に近付く。
家の電気は全て消えていて、中に人の気配はない。
ただ、出入り口付近に誰かが立っているだけ。
もちろんその姿を見て分からないわけがない。
「、お帰り。」
「ただいま。」
のほほんと笑っているカカシ。
そんなに暖かい訳でもないのに、きっと一時間くらい立っていたんだろう。
私の帰りを待つ為だけに……。
手の届く距離まで近付いて話しかける。
「いつも言ってるでしょ?合鍵渡してあるんだから、部屋の中入っててって。」
「ん〜。分かってるよ。」
「だったら……。」
家の中で待っててよ。
風邪引いたら困るでしょ?
そう言おうとしたけど、カカシの答えの方が早かった。
「だって、一人でいても寂しいじゃん。」
「……はぁ。分かった。早く帰ってくるように努力するわ。」
「よろしく。」
そう言って、カカシは私の持っていた荷物を奪った。
それももういつもの事で、私はポケットから鍵を出した。
鍵を開けると、いつも通りの部屋が待っている。
私はいつも、結局彼に振り回されている気がしてならない。
実際に振り回されているのだろう。
とぼけた振りをしてとんだ策略家だ。
「すぐ出来るから、待っててよ。」
カカシに一言かけて台所に向かった。
包丁を出そうとして戸棚を開けた直後。
後ろから抱きすくめられた。
しかも、全く見動きが出来ないほど強く。
「夕飯作れないんですけど。」
「俺のことは気にせず、作れば良いじゃん。」
「無理。だから放せ。」
「イヤ。」
「さっさと夕飯作りたいんですけど?」
「イヤ。」
「放してよ。」
「イヤ。」
「放してください。」
「イヤ。」
「何で?」
「イヤだから。」
「実力行使してもいいの?」
「には無理でしょ。」
「じゃあ、放して。」
無益な言い合いが続く。
カカシは意外と我侭だ。
私に対しては特に。
それが彼女の特権なのか。
それとも私がカカシに弱いだけなのかは未だ謎だ。
「分かったよ。」
珍しく早々とカカシが妥協する。
ホッとしたのもつかの間、彼はとんでもない事を言い出す。
「その代わり、キスさせて。」
「はい?」
力が緩められた腕から抜け出そうとして、逆に捕まった。
よくよく見てみると、彼は既にマスクを外していた。
危険信号が頭の中で点滅する。
それと同時に、外で待っているナルト君たちの存在を思い出す。
「ちょっちょっと待った!!」
「何?ナルトたちが気になる?」
確信を衝かれてドキッとする。
あまりに驚いた所為(せい)か、口が音を発せずに動く。
形のいい唇を意地悪そうに歪めるカカシ。
そんな時はろくな事がない。
「見せ付けてやろうかな。」
「なっ!やっヤダ!!」
「もう決めたから。」
にっこりと無邪気に笑う。
その笑顔に抗う術(すべ)はなかった。
私の必死の抵抗も空しく、反攻する言葉ごと飲み込まれた。
その時
カカシがナルト君たちを物凄い形相で睨みつけていたのを知るのは……
まだまだ先の話
あとがき+++
アニメネタより、カカシの素顔を見てみたい同盟(笑)のハチャメチャ劇でした。
何話だったかは忘れましたが、あれを見た瞬間からこのネタが……。
出っ歯とかタラコ唇とかおちょぼ口とか……。
やめてくれって感じですよね。
絵にして表すのは(ここ重要)
何が空回りなのかと言いますと……。
ナルトたちの努力と、さんの抵抗です(笑)
いろいろとおかしい所があったりするのは突っ込み厳禁で(苦笑)
by碧種
04.10.18