先が見えないのは
今も昔も変わっていないけど……


だけど、ね










Beautiful dreamer    9










長年慣れ親しんだ……筈だった家に、と二人で戻る。
見慣れた道を歩いていくと家の前には兄が立っていた。
近付くとすぐにこちらに気付いて私に微笑みかけた。


兄……。」


躊躇いがちに、いつも通りに呼びかけると優しく答えてくれた。


ただ一言"おかえり"、と。


それが余りにも今までと変わらなくて、涙が出そうになる。
兄は泣きそうな私に近付き頭をそっと撫でた。

何かある度にやや乱暴に頭を撫でられた記憶が甦る。

それが実の兄だったのか、それとも今目の前にいる兄だったのかは分からない。
ただ、酷く懐かしかった。


様。」
「なんだい?」
「万事解決……ですよね?」
「ああ。」


兄がホッと息を吐いて、微笑んだ。
私の頭の上に置かれた手はそのままに、兄が顔を覗き込んだ。


「よかったな。」
「うん。」
「彼と一緒に行くんだろ?」
「……うん。」


と一緒に行くという事は、兄とはここでお別れ、という事。

今まで兄としていつも通りをくれたさんとの別れは、私にとって寂しいだけでなく申し訳ないものだ。
私の勝手で私の兄役を請け負って、私の勝手でお役御免なのだ。
私の為に他人の人生が変わってしまった。

その事を謝らなくてはならないと分かっているけど、何と言えば良いか分からない。


考えがまとまらず黙り込んだ私に、兄の微笑が向けられる。


「いつでも戻ってこい。俺はずっとここにいるからな。」


予想外の言葉に目を見開いた。

帰る場所のなかった私に居場所を用意してくれた兄。
真実を知りながらも優しく見守ってくれた。

何も言えない私の頭を、またちょっと乱暴に撫でる。
そして兄は、これまでの事をどうこう言うのではなく優しく微笑むだけ。


「ありがとう……。」
「どーいたしまして。ほら、行ってこい。」
「うん!」


久しぶりに心から笑えた気がした。










トラン共和国に向かう間、の強さを思い知った。
眼の前に現れるモンスターたちを棍ひとつで薙ぎ払っていく姿は圧巻だった。
それをサポートしているグレミオさんもまた強かった。

その様子が、彼らがどうやって生き抜いてきたのかを物語っていた。
そしてその生き方が、私の人生を変えてしまったことが脳裏を過ぎった。

が誰を殺したか、何を壊したか。
それから、誰と共に戦い、何を作り上げたのか。





そんなこと、どうでもいい。
彼と共に歩めるのなら、どうでもいい。





あの時は考えられなかった結論が眼前にある。

彼と私の過去に拘るのではなくて、彼と私の未来を考える。
私の兄の死や、の戦歴は関係ないし、考えない。
ただ叶う事ならば、私たちの行く先が幸せであればよいと思う。

これがすごく簡単でとても見えにくい結論だった。
あの頃の私では、思いつきもしないであろう結論だった。
だから私は、私が記憶を封じ込めていた時間さえも無駄ではなかったのだと思う。


そんな事を考えながら歩いていると、不意に名前を呼ばれた。


。」
「ん?」
「危ないから離れないで。」


さっと差し出された左手に、迷うことなく手を重ねた。
手袋越しの手に握り締められるのを感じ、同じくらいの力で優しく握り返す。
私が握り返したのを確認すると、は微笑んだ。


「ほら、お二人とも。急ぎますよ!」
「はーい。」
「はい!」


グレミオさんの声に応えて進むべき道を駆け出した。
私の右側にはが、左側にはグレミオさんが居て護ってくれている。
そんな二人の顔を見て自然と浮かんだ笑顔を向けると、二人も微笑み返してくれる。


それだけで、私は十分なんだ。










もう二度と、この手を離さないで
これからずっと一緒に歩んで生きたいから……















あとがき+++

ようやく、完結です。
シード夢の『Silver Link』を追い抜き、全9ページと相成りました。
爽やかハッピーエンドという形で終われて良かった……。

とまぁ、感動するのはここまでにして、反省点を挙げさせてください(苦笑)

伏線を張ったまま放置したり……。
これまでに削ったシナリオが2、3あったり……。
ある種の不完全燃焼を起こしてはいますが、全部詰め込むと話がまとまらないので、致し方なく捨てる羽目に(泣)

ホントはクレオさんの出番が在ったんです。
そりゃもう記憶を復活させる為の鍵となる人物で、大活躍のはずだったんです。
ところがどっこい、話の流れで流される、と。
ルックの場合もだいぶ出番削減。

クレオさんはじめ、いろんな人の出番がなくなるわ、アンハッピーエンドがハッピーエンドになるわグダグダでした。
でも、何とか終われて良かったと思います(喜)


by碧種


06.08.20