忙しいのは分かってる
誰よりも頑張ってるのも分かってる


けど、でも……










意地っ張り










張り詰めた空気漂う城の一角から、笑い声が聞こえる。
執務室である筈のそこにはたった二人しか居なかった。

猛将と恐れられるシードと女剣士であるだ。


「ちょっと、そんなに笑わないでもらえる?」
「ククッ。それは無理な相談だな。」
「ったく、酷い男。」


ぼやくに笑い続けるシード。
一つの机を挟んで椅子に座り、何分も前から話し続けている。


「どうせクルガンは言葉も何もくれませんから。」
「ははっ。アイツにそこまで言うお前は兵(つわもの)だよ。」
「兵じゃなきゃやってらんないでしょ?」
「そうかもな。」


クルガン本人のいない執務室で、笑い声とともに交わされる台詞。
戦友として、恋人として、それぞれにクルガンを知っている者同士話が合うらしい。
何も知らない者がその様子だけを見たら、恐らくは恋人同士と勘違いされるだろう。

しかし彼らは、同じ一人の人間と深く係わっているという以外に特別な事はない。
その一人の人間というのが一筋縄ではいかないだけだ。

ひとしきり笑い終えたシードは、ため息にも似た声を出した。


「にしても、相変わらずあいつは仕事一筋だな。」
「ホント。昔っから変わらないよ、クルガンはね。」
「そこが好きなんだっけか?」
「まぁ、惚れた弱みよ。」


詰まらなさそうに口を尖らせる
其れを苦笑いをしながらも話を聞くシード。
彼らの今日の議題は、いつもの如く知将クルガンの事である。


「惚れた弱みってなぁ、一応付き合い始めたのはクルガンからの告白で、だろ?」
「仰るとおり、『一応』よ。なんせそれ以来一言たりとも其れらしい言葉を聴いておりませんからね!」
「ぷっ!」
「何よ。そこは笑うところじゃないでしょ?!」
「いや、笑い所だな。」


腹を抱えながら声を押し殺して笑うシードをが睨んでいる。
彼女の視線は今にもシードを射殺しそうであったが、全く堪えている様子がない。


「何が笑い所だ?」
「「クルガン!!」」
「二人揃って部屋の主を無視して、いったい何を話している?」


クルガン話に花を咲かせていた二人は、執務室に帰ってきたクルガンに気付かなかった。
声の主の名前を呼ぶ声もご丁寧にそろえた上、お互いに目配せしながら言い逃れをしようとする。


「何って……なぁ?」
「気にするほどの事じゃ……ないよ、ねぇ?」
「ほう……。其の割には、目が泳いでいるようだが?」


非常に的確な判断に二人そろって口を噤(つぐ)む。
必死で言い訳を考え始めたのも束の間、この部屋の主が動き始めた。


「シード。」
「ん?」
「確か午後の練兵の担当はお前だったな?」
「あぁ。」
「準備を始めたらどうだ?後一刻もないぞ?」
「……あ、あぁ。行ってくる。」


家主の言葉に逆らう様子を微塵も見せずに奴は退室した。

いや、今この瞬間家主に逆らえる者は存在していないだろう。

それ程に今のクルガンは、圧倒的な力を持っているようだ。
普段からあまり表情を変えないクルガンの無表情が、には今日は特別冴えている様にさえ感じられた。


「ク、クルガン?」
「何だ?」
「いえ、……特に何かあるわけでは……。」


普段より数割り増しの無言の圧力を持って、クルガンはとの距離を詰める。

一歩一歩、着実な歩みを遂げる。
一歩一歩、その距離がゼロに近づく。

ふわり、と。
ゼロ距離からの攻撃。
その図体の大きさからは想像もつかないような繊細な動きで、クルガンはを抱き締めた。


「っ、クルガン?!!」
。俺の想いが確かであるのに、何故不安がる?」


低く囁かれた声は、疑問を呈する以前に答えがない事に自信があるような、不思議な含みをもってに訊ねた。

俺の想いが確かだと、知っているだろう?
想いが確かでも不安だというのか?
不安になる必要性があるのか?

まるで答えは最初から用意されていたかのようにはっきりとしている。


「ごめん。」


言葉がないと不安だ、とか。
表情が読めないから不安だ、とか。
そんなの意地を張っているだけになってしまう。


「俺の心はいつでもお前の下にある。忘れるな。」
「うん。」


誰よりも素直じゃない二人。
だからこそ、我侭になってみたり、疑ってみたりする。





だけど、いつまでも一緒にいたい……。















あとがき+++

久しぶりすぎて申し訳ないです。
しかも人気の程が完全に不明な幻水ネタです。

最近、ネット離れというか、そんな感じです。
だけど、キャラたちへの愛がなくなったわけではありませんよ!!
これからも鋭意努力してまいります(笑)


by碧種


09.03.02