手−hand−










リン……


小さな鈴の音が、私の方に近付く。
少しずつ……。
でも、確実に……。


リンッ


?」
「見つかっちゃった。」


優しい日差しの降る、この庭で……。
かくれんぼをする。
と言っても、私とかづっちゃんしか居ない。


「まったく。いつも居なくなるから、みんな心配してるんだよ?」
「えへへへへ。」


いつも、わざと隠れる。
大人じゃ分からない所に。
子供の視点でしか見えない所に。


「さあ、戻ろう。」
「うん。」


私に真っ直ぐ差し出されている手を、しっかりと握る。
この瞬間が好きだから一日一度だけ隠れる。
ちゃんと見つけてくれるって分かってるから……。















焦げ臭い……何かが燃える臭いがする。
家が、庭が、全てが燃えている……。


「かづっちゃん?」


夜になんとなく外に出ていた。
普段なら母上に見つかってしまうのに今日は抜け出せた。

昼間は全く外に出してもらえないから、夜に抜け出そうとする私。
いつもなら誰かが止めるのに、今日に限って抜け出せた。

川岸に座り込んで、夜風に当たっていた。
家の方から吹く風に、何かが燃えるような臭いが混じっていた。
家の方を振り返ると、空が紅く染まっていた。


「なん……で?」


嫌な感じがして、走る。
走って、走って、走って……。
表の門が見えてきた時に、不意に足が止まった。
誰に言われるでもなく、私の動きは止まった。


風と揺れる炎だけが、時の流れを感じさせた。


永遠とも一瞬とも思える時間、その場に立ち竦(すく)んでいた。
気が付けば、日が昇っていた。


「母上?かづっちゃん?」


弾かれた様に動き出した身体は真っ直ぐ門に走る。
数十段ある階段を駆け上がり、焼けて半壊した門を潜(くぐ)る。
中に入って見たモノは凄惨(せいさん)な状況。


焼けた家、焼けた庭……。
そして、人の残骸(ざんがい)。


「どうして?」


その場で座り込む。
地面に近付いて見つけたのは、白い琴絃に絡め取られた"黒い絃"。
髪の毛の様にも見えるその絃は、朝日に照らされても鈍い光を放っていた。















リン……



「どうして?」


どうして、かづっちゃんがここに居るの?
どうしてこんな所に居るの?
どうして?


リンッ……


「君は……?」
「かづっちゃん?」
「?!!」


最後に私が辿り着いたのは、無限城だった。
ここに居るほとんどの人間が、外界から断たれた生活をしている。
そんな所に……。
何で君が居るの?


「何で……こんな所に……。」


君はそうじゃないでしょ?
こんなところに居るべきじゃない。


「花月。」
「ああ、十兵衛。」


かづっちゃんの後ろから出てきたのは、両目を布で覆った男。
昔、一度だけ会ったことがある人物。


「筧……十兵衛?」


きっとそうだ。
否。
絶対に筧だ。

筧は驚いてこっちを向く。
訝(いぶか)しげな顔をして、私に尋ねる。


「何故、俺の名を知っている?」


みんな、私の事がわからないのだろうか?
忘れてしまったのだろうか?

途轍(とてつ)もない不安に襲われる。
折角知っている人間に逢えたのに。
再び廻り逢えたのに……。


「ごめんなさい……。」


私の口から出たのは、その一言だけで……。
次の瞬間には走っていた。

誰にも止められない速さで、走る。
止められないはずだった。
後ろから鈴の音と足音がついてくる。
段々距離が縮まっていく。
そして手を引かれて、止まる。


?」
「っ!!」


昔よりも落ち着いた声で名前を呼ばれた。
その一言だけで、私は抵抗も何も出来なくなった。
離してという言葉は声にならなくて、空気だけが通った。


「生きてたんですね。」
「……。」


顔を背ける。
どんな顔をしているかは分からないけど驚いてるんだろう。
たぶん……。


「良かった……。」


心底安心したような声でそう言う。
その声に顔を上げてかづっちゃんを見ると、微笑んでいた。


「かづっちゃん?」
「本当に……良かった。」


かづっちゃんに捕らえられた手が、更に引っ張られる。
かづっちゃんの方に倒れ込んだら、細い腕に抱きしめられた。


「お帰りなさい。」
「……ただいま。」










真っ直ぐ差し出された手を

しっかりと握って




その手だけを信じて





進んで行ってイイの?















あとがき++++

すんごく微妙!!
どうしよう、本当にダメだ!!
悲恋以外まともなオチに出来ない!!?

ずいぶん前に浅乃に書けと言われていた花月夢。
レベル不完全燃焼に終わりました。

どうしたんだ、自分。
頑張れ、自分。
愛が足りないぞ、自分。

こんな駄文を読んで頂いて、ありがとうございました。

by碧種


03.10.11