私は


士度くんのことが



好きでした










Without you .....










『君なしでは生きていけない。』



遠くに聞こえるドラマの声。
そんな万人が使い古した台詞に誰が心を動かすだろうか。
少なくとも私の心は動かない。
そんなちんけな台詞いらないんだよ。
そんな台詞より欲しいものはある。


「雨……。」


ざああああ、という音と共に降り出した雨はこの薄汚れた街を洗い流すようだ。
闇が充満しているこの街で、ネオンばかりがチカチカ光るこの新宿という街。
裏家業で金を稼いでいる人間も少なくはないだろう。


“裏新宿・無限城”


この言葉を聞いてよく思う人間は、まず居ないだろう。
その中で生活している人間だってその中に納まっていたいなどと思っていないはずだ。
私だってその箱から飛び出した人間の一人。


“言霊の姫・”という名はローアタウンで有名であった。
誰とでも心を通わせ話をする。
それこそ動物でも聾唖者(ろうあしゃ)でも、だ。
さらに、言ったことを実現させることも出来る。
予言者のようにも見えるそうだ……。




もっともそんなのは過去の話だが……。





「皆、元気にしているだろうか……。」


最近、皆色々とあったらしい。
MAKUBEXが原爆を作ろうとしたり、それを止めに銀次君が行ったり。
士度君と春樹君、花月君と十兵衛君が戦ったりと本当に色々あった。



でもそれは、動物たちから聞いた話。
私にとっては御伽話(おとぎばなし)か何かに聞こえてしまう。





「久しぶりに、古巣に行こうかな……。」




VOLTS解散のときに私も銀次君たちと同じように無限城から出た。


銀次君が出て行った。
士度君も花月君もそしてあいつも……。





『春樹君。ごめん。』
『どうしたん?はん……。』
『私も、出て行くよ。』
『え?』



あの瞬間の春樹君の驚いた顔が忘れられない。


悪かった。
本当に悪いことをした。

今はそう思っているだよ。



でも、私には居場所がなかったんだ。















雨の中傘も差さずに無限城に向かう。


サウスゲートは昔のままだった。

ウロウロと道なりに進むと繁華街のように賑わった道に出た。
そこへ見覚えのある姿が横切る。


「春樹君!!」
「!………はん?」


目を見開いて私を見ている。
相当驚いたらしい。

何年間会っていなかっただろうか。
懐かしい……何も変わっていない。


「どうしたん?急ぅに戻ってきて。」
「いろんな噂を聞いたからさ、皆元気してるか気になってな。」


春樹君は銀次君が来たときに起こった事を話してくれた。


MAKUBEXのワイヤードールシステム。
花月君と十兵衛君の死闘。
謎の男"鏡 形而"。
美堂 蛮という男。
無限城の実態。
無限城の神の存在。
信じられない奇跡の数々。
そして、新生VOLTS。


その話は全て『ここは私の居場所ではない』と言われている様な感じがした。


「そうか、そんな事が起きたのか。」
「そうなんや。でも皆無事やし、MAKUBEXも銀次はんも仲直りできたし万々歳って感じやで。」


笑顔で言う春樹君を、本当に幸せそうな春樹君を恨めしく思った。
どんどん遠くなる、どんどん戻れなくなる……。
どんどん懐かしさが込み上げてきてどうしようもなくなる。

私を駄目にしないで欲しいのに、春樹君の言葉で駄目になる。
だったらいっそ……。
私の言霊で、終わらせよう。


「本当に、色々あったんだな。」
はん、どないしたん?」


俯いた私に何かを感じた春樹君は、心配そうに私の顔を覗き込んだ。

言霊の力を集中させる。
気持ちを込めて、言葉を練成する。
真実になるように、精一杯の力を溜める。


「もう、この無限城には私の居場所は……。」
「ストーーップ!!何やろぉとしてはるん?はん」


大声に驚いて、言霊が遮られた。
前を見るとそこには、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた春樹君が居た。
私が言霊を使おうとしていた事が、ばれてしまった様だ。


「何やろうとしてんのかは、よぅ分かった。」
「………。」


気まずさに沈黙する私。
だけど春樹君は、楽しそうに言葉を紡ぐ。


「でもなはん、一番よう分かっとらへんのは自分や。」
「………。」


彼は何が言いたいのだろうか?
彼は何がしたいのだろうか?
私は……何を分かっていないのだろうか?


「居場所なんてどこにでもある。はんが望めば、な?」
「そんな事……。」


ある訳無いと、そう言いたい。
でも春樹君は、そんなマイナス思考を否定する。
しかも笑顔で、だ。


「そんな事ある。はんが望めば、はんの存在を認めてくれはる人はたくさん居る。わいかてそうや。」
「?!!」
「なあ、はん。わいの隣はあかんか?」


サングラス越しに見える瞳は、昔と変わっていなくて……。
私に向かって、そっと語りかける。


"大丈夫や"


どんなに辛いときでも、挫けそうな時でもいつも側に居た……。


「春樹、君?」
「士度はんやないから、力不足かも知れへんけど、な?」


苦笑している春樹君。

音羽マドカさんの事は、私も知ってる。
士度君がこの前遣ったカラス達が言っていた。
士度君の人間不信を治した娘だって。



だから、士度君の隣はもう空いていない。



でもさ……。
違う……。
違うんだ、春樹君。
もう士度くんなんてどうでも良いんだよ!!
だから無限城を出た。
完全に吹っ切るために、春樹君のために……。


「……十分だって。」
「へ?」


自然と言葉が出る。
言霊なんかじゃないけど、本当の言葉。


「春樹君の隣で十分。」
「ホンマに?」


無言で頷く。
これでもう、居場所を探さなくても良いんだ……。










台詞なんていらないから、君の隣に居させて下さい。


君の、隣に………。















++++++あとがき+反省会++++++

えっ笑師夢完成。
最近自分の思考が甘い方向に流れている気がしてならない。
自分の居場所って案外なくて、与えてもらえると嬉しいもんですよ。
居場所は自分で作るっていう人も居ますけど、他の人が認めてくれていないと居場所とは言えませんしね。
昨日唐突に書きたくなって、勢い書いた作品。
でも実はGB(5〜16)友達に貸しっぱなしで資料がない!!
笑師さんまったく居ないし!!
関西弁も自分の勘なので(しかも滋賀と京都沿岸)少しおかしいです。
おかしいんじゃねーの?と思った方は碧種に言ってください。
では、今回はこの辺で。
BY碧種

03.06.22



++++追加あとがき

手直ししました。
最後のほうを変えました。
本当にやばかったので……。

おかしかったのです。
落ちかたが(笑)

士度ファンの皆さんごめんなさい、どうでも良いとか言って(笑)

あと、関西弁を少し修正。
笑師らしさが少し落ちた気もしますが……。
まあ、そこら辺は許して下さいなv

by碧種


03.09.25